
研究チームは、出所した元受刑者ともつながり続けています。
2024年に札幌刑務所を出所した40代のSさんも、塀の中で当事者研究を経験した一人です。
Sさんは10代から刑務所に繰り返し入り、家族と疎遠に。社会とのつながりは、研究チームだけでした。
出所後、約18年ぶりに静岡の母親に会いに行ったとき、母親からは「一緒に暮らすことはできない」「人に迷惑をかけないで生活してください」と言われたといいます。
Sさんは「今までさんざん苦労かけてきたから、最後ぐらい母親との約束を破らないようにしようと思って」と語っていました。
研究チームは出所後もメールのやり取りや、直接会って話を聞いてきました。
しかし、出所から1年半後、Sさんは北海道江別市のグループホームを突然飛び出して、連絡を絶ったのです。
その後、Sさんは静岡県内で他人の車を傷つけ、自ら出頭し逮捕・起訴されました。

初公判で、Sさんはこう語りました。
「しゃばでの生活に疲れた。母親が暮らす静岡で捕まれば、母親に連絡がいってまた会えると思った」
公判で検察側が証拠として提出した供述調書によりますと、Sさんは北海道を出たあと、母親に会うために静岡県に行っていました。
そこで母親の住所を知ろうと警察署や市役所を回りますが教えてもらえず、「このままでは未練が残る」と考えて犯行に及んだといいます。
「刑務所に入りたい、母親に会いたい、という気持ちが勝り、被害者の気持ちを考えなかった」と話すSさんに、検察官は「自分の希望を叶えたいときに、この種の犯行を繰り返す傾向がある」と指摘します。

Sさんが逮捕されたと知り、研究チームは手紙を送りました。しかし、返信は「もう関わらないでください」という拒絶でした。
それでも、再び社会に出たあと共に生きるために何が必要か、研究チームは手紙を送り続けました。
北海道医療大学の向谷地特任教授は「私たちのわきまえは、Sさんが再犯しないようにするにはどうすればいいかを脇に置くこと」だと話します。
「私たちが望む回復や自立じゃなくて、彼自身が発見して気づいていくこと。彼が主役であることを邪魔しない。今までは悪いことをしたら法律的な、常に命令とか指示で管理してきたが、結果として再犯という現実を生み出してきたのではないか」
罪を繰り返してしまう人と社会で共に生きるとは、「こうあるべき」という型にはめず、その人らしさを尊重して関わり続けることです。

Sさんから届いた2通目の手紙には、こう書いてありました。
「また気が向いたら連絡します」
後編の記事では出所したAさん、そして裁判を受けていたSさんのその後を取材、当事者研究で続く「居場所づくり」を追いかけます。
取材・文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部ぬまぬま
※掲載の内容は、HBC「今日ドキッ!」放送時(2026年3月9日)の情報に基づきます。
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