
北海道医療大学の向谷地特任教授が「鬼になるのは時々やってくるのですか?」と聞くと、A受刑者は「発作的に。急に頭に血が上るの。カーッと来たら止まらなくなる」と話しました。
さらに、その「鬼現象」が最初に起きたのはいつか問われると…
「中学か高校くらいのとき、同級生があまりにも自分を馬鹿にするので、相手の足をもって振り回した。貧困、いじめられっ子、父親からの暴力、性的虐待もあった。そしてこんなふうになった。だから煩わしいんですよ、人間関係が」
向谷地特任教授は、A受刑者について「スタートラインが非常につらいですよね。人を信頼したり、自分に対する肯定感とか、基本的な土台がない」と分析します。
「改めて、つながりや関係の土台づくりをしていく。そこをないと、考えたり、判断したり、受け止めたりするスイッチが働かない。人間関係が煩わしいと言いながら、一方で一番人間関係を必要としている」

12月の当事者研究に、A受刑者は研究チームに宛てた手紙を持ってあらわれました。
その手紙の最後には「今回で本当にラストにしようと強く思う。残り少ない人生、静かに穏やかに暮らしていきたい。当事者研究の皆さんへ」と記されていました。
二度と事件は起こしたくない。
それでも繰り返してしまうのは、社会でうまく居場所を作れないからです。

拘禁刑が導入される前の刑務所は社会から隔絶された場所で、他人とうまくコミュニケーションを取る能力などは身につけられませんでした。
そのため、罪を繰り返せば繰り返すほど管理されコミュニケーションを制限される刑務所のやり方に慣れ、ますます社会でうまく生きていけなくなってしまうのです。
当事者研究に参加した札幌刑務所の刑務官は、A受刑者のある変化を感じていました。
「元々自分のダメなところに向き合うのはあまり好きじゃなかった気がするが、当事者研究のおかげで自分のダメなところも話せるようになってきた」
刑務官は続けてこう話します。
「社会では自分のダメなところを話せることで、困ったときに、周りの人が助けてくれたり寄り添ってくれたりすると思う。それができなかったり、してこなかったりした人が、また刑務所に来ちゃうのではないかなと思ってるので、当事者研究を通じて悩みを打ち明ける練習をできるところが大きい」
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