旭川市の中心部から車で約40分。自然豊かな江丹別町の、澄んだ空気の中で身を寄せ合うのは、ヒツジの“えー太”と、細川紗輝(ほそかわ・さき)さん。

細川さんが座ると、ひざにあごを乗せてくるえー太

この森のすぐ近くの一軒家で、ことし6月、「CAFE&SHEEP」(カフェアンドシープ)を開きました。

細川さんは、旭川出身の24歳。大学卒業後、関東で就職しましたが、知人から聞いたある話をきっかけに、北海道に戻って起業することを決意します。

なぜ江丹別町でカフェを開いたのか?なぜヒツジと暮らしているのか?

その経緯を遡って聞いていくと、社会問題に突き動かされながらも、自分と周囲の楽しい暮らしも大切にする生き方が見えてきました。

多様な生き方連載「こう生きたっていい

【この記事の内容】
・「食」から「不動産」へ…そしてヒツジとの出会い
・羊毛はサウナと相性ぴったり
・骨まわりまで余さず、おいしくいただくためには
・えー太との散歩が、至福の時間
・「好き」や「心地いい」に目を向けて…ちょっとした勇気で、物事はガラガラと変わる

ヒツジは衣食住のすべてを創り出せる

実は、子どもの頃から特別ヒツジが好き…というわけではなかったという細川さん。

高校生から関心を持っていたのは「食品添加物」で、管理栄養士の資格をとるため、札幌の大学に進みました。ただ問題を訴えるだけではなく、前向きに発信していきたいと、大学生のうちに起業。道内の1次産業者と関わりながら、無添加食品・オーガニック食品を取り入れたケータリングサービスをしていました。

「自分一人が食べていけるくらい」に軌道に乗っていましたが、もっと視野を広げたほうがいいのではと考え、大学卒業後は関東へ。食品とはまったく別分野の、不動産会社に就職しました。社会貢献を理念に掲げたベンチャー企業で、視野も、扱うお金の規模感も広がり、いい経験になったと話します。

ヒツジとの接点ができたのは、就職から1年半ほどがすぎた、去年の秋。大学時代のケータリングサービスで出会った1次産業者のひとりで、ヒツジを飼っている人と話していたときでした。

北海道では、羊肉にするために飼われているヒツジたちの、たくさんの羊毛が、活用されずに捨てられていると聞いたのです。

そこからヒツジという観点で物事を見てみると、「ヒツジは衣食住のすべてを創り出せる」ということに気付いたといいます。

衣は、羊毛。食は、羊肉。住は、住宅の断熱材として羊毛を活用できるそう。

「人も衣食住があって暮らしが成り立つので親和性が高いなって。むしろヒツジと暮らさないのは違和感があるなくらいに思っちゃって」と笑顔を見せます。

羊毛の力がぴったりな製品…サウナハット

まずはヒツジの「衣」に注目。関東にいるうちに、4か月ほど羊毛でのものづくりを勉強しました。

そして、北海道に戻り、起業することを決意。地元・旭川市の中で、豊かな自然をもつ江丹別町を拠点に選び、ヒツジとの共存を掲げる「&SHEEP(アンドシープ)」という会社を設立しました。

まず制作したのは、「サウナハット」。天然の羊毛の、厚みはあるけど軽くてやわらかい・保温性や断熱性・吸湿性・通気性・抗菌力・保湿力もある…という力に注目して作りました。

現在は追加注文を停止していますが、いずれはサウナハット以外の衣類も開発・販売したいそう。寒い江丹別町の暮らしに合った「防寒性」や、江丹別町で働く林業者などが動きやすく使いやすい「機能性」を取り入れたいといいます。

骨まわりまで余さず、おいしくいただく

ことし6月には、ヒツジの「食」に注目して、カフェをオープン。

管理栄養士の資格を持つ細川さんが作った、自家製カレーが人気です。
通常の出荷では余りがちな、ヒツジの骨まわり、「骨肉」から“だし”をとっています。くさみはなく、ヒツジの“だし”の深い甘みが特徴です。

約8種類の野菜を使った日替わりの付け合わせも、ひとつひとつがおいしく、すでにリピーターも多いのだそう。

えー太との散歩が、至福の時間

さらに、カフェの横に小屋を作り、えー太を迎えました。2月に生まれたばかりの、「犬のように人懐っこい」ヒツジです。

「ヒツジと一緒に暮らしを作るのをやってみたいと思って、えー太と暮らすことを決めました。ただかわいいだけじゃなくて、『ヒツジさんすごい』というリスペクトの気持ちが強いですね」

ヒツジを飼うのはもちろん初めて。最初はえー太が心配で夜も眠れなかったといいますが、「えー太は本当に癒しです、私が来るとしっぽをプリプリ振って、『嬉しい』を全身で表現してくれるんですよね。一緒に散歩する時間は私にとって至福の時間。最近はえー太の表情も穏やかになって、ここの暮らしに慣れてくれたのかなと思います」と話します。

衣食住を支え、癒しも与えてくれる、ヒツジ。

「カフェはヒツジもいて、森も目の前にあって、来た人が心と体を癒やせる空間になったらいいと思っています。江丹別の暮らしに触れて、自分がどういう暮らしが好きかを感じたり考えたりする場になったらいいなって」

「ちょっとした勇気で、物事はガラガラと変わる」

江丹別町での暮らし。穏やかに見えますが、自然の厳しさに試される場面も多くあります。

「ほわーと暮らしているのとは違って、あるものをどう生かすかを日々考えるのを日々やっていますね。火が自分でおこせないと寒くてやっていけないとか、ヒツジ小屋が壊れたら自分で直さなきゃとか、生きる力は身についているなと思います」

カフェに入ると、薪ストーブのあたたかさが出迎えてくれる

「挑戦の場としてはとてもいい、後ろ盾がない状態が私はすごく好きですね」と笑う顔には、頼もしさがにじみ出ていました。

いま、生き方に悩む女性たちへのメッセージを聞くと、「私に言えたもんじゃないけど」と笑いながら、大切にしている考え方を教えてくれました。

「『自分の大事なことを犠牲にしてまで何かやらなきゃいけない』って思っちゃうことってあると思うんですけど、『好き』とか『心地いい』という感情に目を向けて、少しずつでも取り入れたり、行動をひとつ変えてみたり、ちょっとした勇気で物事はガラガラと変わると思うんですよね」

「だから、いいものをキャッチする準備をしておくのは大事だなって。そうすると、自分が理想とする未来に少しずつ近づくのかなと思うし…そうなるだろうって、私自身も実験中です!」

食品添加物、使える羊毛の廃棄…ある社会問題に出会ったとき、眉間にしわを寄せて悩みこむのではなく、「どうしたら前向きに解決できるか」を楽しく実践している細川さん。ヒツジと共に生きる、大きな夢を持ちながらも、暮らしの心地よさも大切にしていました。

そして、カフェの空間づくりや料理はお客さんのことを思いながら、羊毛製品作りは使う人の暮らしを思いながら、「心地いい」ものを創り出そうとしています。

自分が「心地いい」環境で、笑顔で挑戦する夢だからこそ、周囲の人にも前向きな力を与えながら、広がっていくのかもしれません。

えー太と細川さんの「おさんぽ」動画はこちら…癒されます。
【癒し写真12枚】ヒツジの“えー太”と、朝のおさんぽ。北海道・江丹別町

多様な生き方連載「こう生きたっていい

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「CAFE&SHEEP」(カフェアンドシープ)
旭川市江丹別町拓北111
営業時間:午前11時~午後4時
定休日:月・火
インスタグラム:cafe_andsheep
※えー太は、雪の季節は”実家に帰省”中です。営業日等の最新情報はインスタグラム等でご確認ください。

文:Sitakke編集部IKU

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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