2023.08.10
みがく毎日がんばる“わたし自身”を、いたわってあげませんか?
ココロとカラダをセルフケアするためのTipsを、簡単な運動と共にゆるっとご紹介。北海道内を中心に、25年以上に渡って「女性の健康と運動」を研究・サポートしてきた、寅嶋先生にご提案いただきます。
こんばんは、とらしまです。
この連載を続けてきて、更年期への関心の高さを、ひしひしと感じています。
そこで今回からは、更年期の話を深掘りしていきたいと思います。
さて、更年期って、そもそもなんなのでしょうか?
更年期とは、女性ホルモンが大幅に減少していく時期のことです。閉経に近づくにつれ、女性ホルモンの分泌量も減少していきます。
ここにストレスが重なると、さらに分泌バランスが崩されがちになります。女性ホルモンの代表、エストロゲンとプロゲステロンが一定のバランスで周期的に分泌されるためには、分泌の司令塔である脳の視床下部や脳下垂体が元気であることがとっても重要です。しかし、この2つはとてもデリケート!ちょっとしたストレスや睡眠不足でも、かなり影響があります。
更年期がやってくる40〜50代あたりは、仕事、介護、子育て、家庭のこと、地域のことと、なにかと忙しく、さまざまなことを背負わされがちです。女性ホルモンの面から見ると、本当に大変な時期だといえます。
女性ホルモンは月経に関することだけでなく、体のさまざまな調子を整える役割を果たしています。例えば、骨を丈夫にするのもエストロゲンの役割です。人間、誰でも30歳を超えると、筋細胞は年に1%ずつ減少していきます。20年後の50代には20%も衰える計算です。それはもう疲れて当然!なのに、ホルモンバランスの乱れで骨密度も同時に減っていくわけです。そう考えると、不調が起こってくるのも理解できますよね。
このような、女性ホルモンの分泌の減少、それに伴うホルモンバランスの乱れで起きるさまさまな不調が、いわゆる更年期障害と呼ばれるものです。症状は、vol.3やvol.7でもお伝えした通り、本当に多様!よく知られる「ホットフラッシュ」のほか、肩こりや腰痛も症状の1つ。なかには、おやつや飲酒量の増加が不調の表れだったケースもあります。
症状が多様だからこそ、普段の疲れからくる不調と、更年期だからこその不調を判別するのは難しいかもしれません。見分けるポイントの一つは、「おや?というハテナが浮かぶかどうか」です。
「なんで首から上だけ汗をかいているんだろう?」「全身がだるくてイライラ。何もしてないのにどうして?」「これまでなら落ち込まないような小さいことで、なぜこんなに落ち込んでるの?」など、これまでと違うことが起きている、また、そうしたことがいくつも起きているのであれば、更年期に伴う不調の可能性は高いといえます。
心身ともに忙しい世代、「ずっと疲労困ぱいで、快調なんてもはや思い出せない〜!」なんて方もいるかもしれませんね。そんな時の強い味方は、vol.7で紹介した「更年期指数チェックリスト」!日々のコンディショニングチェックとして取り入れると、ささいな変化にも気づきやすくなります。リストで、まずは自分を「見える化」してみましょう。
更年期に伴う症状でやっかいなのは、心の不調も起きてくることです。でも、女性ホルモンの減少で、なぜ心が不調になるのでしょうか?
さまざまな文献で、その理由が示されています。
●ホルモンの影響で生理不順になると、体調が心配になったり、「いつ来なくなるのだろう?」という不安が押し寄せてくる(本田ら,2016)※1
●更年期にはさまざまな負の症状が出てくる。特に「ホットフラッシュ」や不眠、体の痛みやだるさ等が上位に挙がっていた。それらをわかってもらえないつらさに対して、また気持ちが落ち込む(飯岡,2010)※2
体の不調やこれから来る変化への不安で、心のバランスが乱れてしまうのですね。
知人の婦人科の先生も、「女性ホルモンの分泌が減ると、イライラなどが起きちゃうのは仕方のないこと」と言っていました。そして、こうも言っていました。「心配なのは、イライラよりも、抑うつなんだよね」と。
「抑うつ」とは、いわば、「気持ちが下がってしまう状態」のこと。心の元気がなくなると、当然、体調にも良くありません。治療しようにも、心が先か、体の変化が先か、ということについては医学的にもいまだ不明なことが多いのが実情で、それはもう「このつらさをどうしたら……」と、どんよりしてしまうというものです。
ですが!昨今、画期的な研究もあらわれています。
「中年女性の更年期症状および抑うつ症状に対する ストレッチの効果:ランダム化比較試験」※3という研究で、「抑うつ状態の解消に向けては、ストレッチングが有効!」ということが示されています。
体を運動で整えると気持ちも整い、気持ちへが上向くと、体の不調にもゆったりと構えて対処することが可能に。これは大きな希望だと、同じく更年期世代の私も思っています。
私は以前、更年期の方向けの健康講座をしていました。そのときに、更年期世代のさまざまな方と接して、「ああ、更年期は程度の差こそあれ、誰にでも平等にやってくるものなんだなあ」とあらためて感じさせられました。
更年期という変化に怯えたり、落ち込んだり、「女性ではなくなる」と感じられて受け入れられない方も中にはいました。でも、声を大にして言いたい!大丈夫!更年期が来ても、あなたはあなた。不調が起きることもありますが、誰でも簡単にでき、お金もかからず、かつ有効な「運動」という対処法がちゃんとあります。同じ悩みを抱える女性も、周りにたくさんいます。決して、一人ではありません!
みんなで一緒に体を動かして、気持ちを上向きにして、毎日を笑顔で過ごしていきましょうね。
今回は、背中のストレッチングをご紹介。普段、あまり意識しない部分ですが、背中は体温上昇や血流の安定化のために、大事な部位なのです。
背中の褐色脂肪細胞という組織へ刺激を与えると、少しずつ体があたたかくなって自律神経系が安定し、冷えやおかしなほてりの軽減に。血流が良くなると脳へ酸素が行き渡り、気持ちも少し穏やかになるはず。背中への刺激が、更年期世代には特に◎です。
①腕を体の後ろで組みます。ぐっと胸を突き出すようにし、背中を絞るように力をこめます。
②3秒絞ったら、一気に脱力を。息を吸って絞り、ふーっと吐いて脱力を繰り返します。余裕があればちょっとあごを上げて。背中への刺激が、より増します。
肩や首のこりがひどい場合は、無理してあごを上げなくてOK。ゆっくり首や肩を回してほぐしてから、無理せずトライを。
こころもカラダも、ゆったり、ワン・ツー・スリー!
明日も、みなさんが元気な1日を過ごせますように。
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■プロフィール:寅嶋静香(とらしましずか)
京都工芸繊維大学研究員。2001年東京大学大学院 生命環境科学系身体運動科学講座終了 PH.,D(専門:運動・スポーツ生理学)
女性と運動の関係を研究するかたわら、「産後こそ、母になったご自身を大切に……」を合言葉に、科学的なエビデンスに基づく、安全・安心を担保しながらの産後の母親支援(健康サポート)を北海道内で12年間実施。このほか、更年期女性へのケア講座なども道内各地で実施。主な著書に「バウンス運動の生理学的基礎~バランスボールで弾む運動の科学的分析~」(ブックハウスHD、2022年8月)
Edit:ナベ子(Sitakke編集部)
※1 本田知佳子,ほか.(2016).更年期を迎えた女性の月経に対する認識の変化.日本助産学会誌.30(1);131-140.
※2 飯岡由紀子.(2010). 更年期女性が体験する心身の変化とそれに対する対処.女性心身医学.15(2);237-247.
※3 甲斐裕子,他.(2020).中年女性の更年期症状および抑うつ症状に対する ストレッチの効果:ランダム化比較試験.体力研究 118 (0); 18-26.