2023.08.11
暮らす7月、札幌市南区・真駒内の住宅地に現れた、ピンクのつなぎのグループ。
取り出したのは、鎌やハサミ…。周囲には40人ほどが集まってきました。
‟楽しく役立つ”イベントの始まりです。
連載「クマさん、ここまでよ」
ピンクのつなぎのグループの名前は「困ったくま」。
札幌藻岩高校在学中に、5人の学生が作ったクマ対策グループです。
ことし3月に高校を卒業し、それぞれの進路に進みましたが、いまもクマ対策への関わりを続けています。
「困ったくま」は、7月22日、札幌市南区真駒内で、クマ対策のイベントを主催しました。
札幌市の協力のもと、地下鉄真駒内駅からも近い、川沿いの草を刈ります。
クマは背の高い草に身を隠して移動します。
みどり豊かな札幌には、川沿いなどにクマが隠れられる「通り道」が多くあります。
たとえば、今回草刈りをした地点で、川の方向を写したこちらの写真。
この中に「クマ」がいること、気づきましたか?
少し近寄って、拡大…
わかったでしょうか。黒っぽい影のようなもの、頭の部分だけが見えます。
隠れているのは、この「クマの等身大パネル」。
鼻先からお尻まで130センチ、足もとから肩まで、およそ90センチ。
住宅地でよく目撃される平均的な若いオスのクマの大きさです。
この道は、散歩やランニング、サイクリングで通る人が多くいます。
そのすぐ横に、クマがいても気づけない現状…。
クマと人が互いに気づかずに近づいてしまい、ばったり出会って事故にあうおそれがあります。
そんな事故を防ぐために、草を刈って見通しをよくし、クマの「通り道」を遮る対策が「草刈り」です。
真駒内は毎年のようにクマが出没する地域で、ことしも真駒内公園や柏丘など、人が利用する・住む場所での目撃が相次ぎました。
「困ったくま」がこの場所で草刈りをするのは、去年に続き2回目。
去年は約20人が参加しましたが、ことしはおよそ倍の、40人ほどが集まりました。
そのほとんどが、藻岩高校の後輩たち。
でも、部活の後輩などもともと知っていた後輩たちというわけではありません。
参加した学生によると、「『困ったくま』は藻岩高校で有名な先輩」。
「困ったくま」は、在学中から草刈りなどのイベントや、クマの啓発パンフレットの作成・配布などを自ら企画し、周囲の大人たちも巻き込んで活動していました。
その姿を見聞きしていた後輩たちが、イベントをやると知って、友人同士で参加してみようと声をかけ合ったといいます。
土曜日の開催で、草刈りに参加することで高校の単位がとれるなどのメリットはありません。
それでも参加した理由について、「1年生の頃は余裕がなかったけど、2年生になってボランティアもやってみたいと思った」「自分でもやりたいことを考えるようになって、協力してくれる人の必要性がわかった。その分、私も『困ったくま』に協力したいと思った」などと話していました。
「困ったくま」の堀田衣月生さんは、「思ったより参加者が多くて嬉しい」と笑顔を見せます。
さあ、みんなで一斉に草を刈ります。
高校生が話し笑い合う声が聞こえます。
あっという間に川が見通せるようになりました。
クマの等身大パネルも、近寄らずとも体全体が見えるようになりました。
反対に、クマのパネル側から、住宅地のほうを見上げてみました。
人が立っているのがはっきり見えます。
これなら、お互いに気づかずにうっかり近づいてしまう事故は防げそうです。
堀田さんは、「クマ対策は誰かがやっていかないと。みんなで草刈りをして『きっかけ』になればいいと思った。続けてこれからもやっていこうと思う」と話していました。
「困ったくま」のイベントは、「楽しさ」を大切にしています。
「今までで一番長生きしたクマは?」「クマが食べるものは?」などの『ヒグマクイズ』に、グループごとに自由にクマ対策を考えるワークショップも開催。
参加者は友だちと笑顔で話しあっていて、「森に一人で行かない」「クマが自然の中にいられるような環境を守る」などの意見を出していました。
感想を聞くと、「役に立てて楽しかった」と言います。
「困ったくま」の堀田さんは、「藻岩高校の生徒だけじゃなくて、もっと市民の方とか、違う高校の子とかが参加できるように、イベントを広げていきたい」と意気込みます。
「本当に札幌市民全員がクマを意識して生活していけるようになったらいいな」と話していました。
連載「クマさん、ここまでよ」
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※掲載の情報は取材時(2023年7月22日)の情報に基づきます。
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