2023.03.11
暮らすもうすぐ春。クマが冬眠から目を覚ます季節です。
クマとばったり出会うリスクを下げるために、じぶんの住むマチのどこに「クマの通り道」があるのか、考えてみませんか?
HBCでは、去年夏から、クマの専門家や、クマ対策に関心のある大学生、札幌市に協力いただき、「クマとまちづくり」を考えるプロジェクトをスタート。
クマの出没が多い札幌市南区の中で、再開発計画も進む真駒内地区に注目して、「どこにクマの通り道があるのか」、これまでのデータと実験をもとに考えました。
そこには、真駒内に限らず、北海道のいろいろなマチに共通するポイントがありました。
じぶんの住むマチに照らし合わせながら、対策が必要な場所はどこか、考えるヒントにしていただけると幸いです。
【この記事の内容】
・これまでの出没情報を重ねてみると…
・住宅地の近くに、クマが隠れていてもわからない場所が…
・どんな対策があるの?
・「どこに対策が必要か」考えるのに大切なのは?
札幌市では、クマの出没情報を「札幌市ヒグマ出没情報」のページで公開しています。
今回は、地下鉄真駒内駅周辺のクマの出没情報を、マップに重ねてみました。
クマの顔マークの中にある数字が、出没情報の年数の下2桁です。(22と書いてあるクマは、2022年の出没情報の場所)
地下鉄真駒内駅からも近く、区役所や小学校・中学校、スーパーマーケットなどもあり、一軒家やマンションが建ち並ぶ住宅地ですが、ここ10年ほどでクマの出没情報が多く寄せられているのがわかります。
この出没情報を分析してくれたのは、「クマとまちづくり」プロジェクトに参加している、北海道大学の大学院生・伊藤泰幹(いとう・たいき)さん。
大学1年生から「北海道大学ヒグマ研究グループ」・通称「北大クマ研」に入ったのをきっかけに、クマの調査や人との関わりの研究を続けています。
伊藤さんは、マップを見て、「川やみどりの周辺に、出没情報が集中している」ことに注目します。
住宅地を流れる豊平川、真駒内川。そして、駅の裏に広がるみどりは、ずっと南、山のほうから続いています。
クマは川沿いの茂みなど、体を隠せる背の高い草の中を好んで移動します。
札幌の「みどりや川が住宅地と接している」という、マチの特色が、住宅地への出没に影響しています。
さらに、クマの生態にくわしい酪農学園大学の佐藤喜和(さとう・よしかず)教授は、「出没情報は、人の目があるところでしか集まらない」と指摘します。
クママークがあるのは、みどりや川沿いの中でも、人が通る道に接していて、人の目が届く場所。
クママークがある「点」だけがクマが通る場所なのではなく、「点」につながる途中のエリアも、「人が気づかないうちに、クマが移動しているかもしれない」ということです。
いやいや…でも、こんなに駅や住宅地のすぐ近くで、クマなんて大きな動物がいるのに気づかないことってあるでしょうか?
ということで、クマの等身大パネルを使って、実験をしてみました。
クマの研究をしている、酪農学園大学の下川慈生(しもかわ・いつき)さんが中心になって作った、クマの等身大パネルです。
鼻先からお尻まで130センチ、足もとから肩まで、およそ90センチ。
住宅地でよく目撃される、平均的な若いオスのクマの大きさです。
北海道の統計によると、2021年度の小学1年生(6歳)の平均の身長が、約116センチなので、体の高さは小学生より低いことになります。
こちらは、去年7月末、真駒内南町7丁目の公園で実験したときの写真です。
公園と川の間に生い茂る笹やぶに、等身大パネルを置いてみると、クマの目線の高さでは、視界全体が笹。この向こうに公園があり、人がいるのは見えません。
公園の中から、笹やぶのほうを見てみても、人の目線の高さでは、クマの姿はまったく見えませんでした。
このような、クマと人が近くにいてもお互いに気づかない場所は、地下鉄真駒内駅の近くにもあるのか?
下川さんを中心に、酪農学園大学の学生たちが、真駒内川沿いをず〜っとたどって、調べてくれました。
その結果が、こちら。
地下鉄真駒内駅から600メートルほどの場所にある真駒内川。川の東側=駅側にある歩道からの目線で測定しました。
クマが見える範囲=黄色はほとんどなく、見えない範囲=青が続いているのがわかります。
測定した範囲の、「約6割の場所でクマが見えない」という結果になりました。
私たちが気づかないうちにも、高い草が生い茂っている場所を利用して、クマが住宅地の近くを通っているのかもしれない…。
そこからクマが少しだけ出てきたときに、あるいは、人がランニングや散歩で川沿いに近づいたときに、クマと人がばったり出会い、事故になるリスクがあるのです。
では、事故を防ぐためにはどうしたらいいのか?
真駒内の「クマとまちづくり」マップに戻ります。
南側の端にある、「12」のクママーク=2012年にクマ出没があった場所。真駒内南町7丁目の公園です。ここで去年の7月末、町内会の方々と一緒に、対策をしました。
こちらが南町7丁目の公園。遊具越しに川のほうを見ると、笹やぶが生い茂っています。
中央に学生が立っているのさえよく見えませんが、その足もとに置いたクマの等身大パネルは、まったく見えません。
こうした場所に有効な対策が、「草刈り」です。
草刈り中、この範囲を公園側からの目線で、撮影してみました。
実はクマの等身大パネルを3頭分置いたのですが、まったく見えません。
町内会の方々との会話も楽しみつつ、はさみや鎌を使って刈っていくと…
このとおり、すっきり!
手前のクマが公園から5メートル地点、次が15メートル地点、いちばん奥が20メートル地点。
休憩も挟みながら、ここまで約1時間で刈ることができました。
町内会のみなさんは、電動草刈り機で一気に刈っていき、1時間半ほどで公園全体がこのとおり!きれいになりました。
見通しがよくなることで、クマと人が遠くにいるうちから気づきやすく、ばったり出会って事故になるリスクを下げることができます。
ただ、川沿いのみどりすべてを刈るのは大変ですし、「みどりの景観」はマチの魅力でもあります。
「どこにクマの通り道があるのか」、それはこれまでのデータなどから予想できるかも知れませんが、「どこにみどりがほしくて、どこは人がよく利用するのか」は、そこに住む人だからこそ考えられること。
「どこでクマ対策をするのか」は、そこに住む人たちの想いや、暮らし方が関わってきます。
じぶんの住むマチの「クマとまちづくり」マップを作って、マチの守りたい魅力は何なのか、どんな暮らしが理想なのか、考えてみませんか?
連載「クマさん、ここまでよ」
「クマとまちづくり」プロジェクトを通して学生たちが感じたことや、道内各地からの学び、クマに関わる人の想いなど、「クマとのいい距離の保ち方」を考えるヒントをお届けしています。
協力:「クマとまちづくり」プロジェクトチーム
酪農学園大学の佐藤喜和教授、札幌市、クマに関心のある学生たち(北海学園大学、酪農学園大学、北海道大学)、HBCで構成
■「クマの事故はメディアのせい」批判受け、1年半前の取材を“記者の目線”から振り返る
■クマが飼い犬を地面に…「OSO18」の影で続いていた「RT」の被害から学ぶ、クマとのつき合い方
■クマに会ったらどうする?札幌の“チカホ”に現れた「クマさん」たちが教えてくれたこと
連載[「クマさん、ここまでよ」] (https://sitakke.jp/tag/285/?ref=sn)
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