2022.08.08

暮らす

この中にいる「クマ」、見つけられますか?実験で「クマとまちづくり」を考える【前編】

この写真の中に、クマの等身大パネルを置いています。どこにあるかわかるでしょうか。

正解は…赤丸で囲ったあたり。まったく見えませんね。

反対に、クマ側の目線から見てみます。

視界一面が笹やぶ…ここはどこでしょう。森の中でしょうか。

やぶをかき分けて進んでいくと…突然、視界が開けて、公園に出ました。人もいます。

笹やぶから突然広がる景色。右端に人がいる

クマは基本的には、体が隠れるようなやぶや茂み、川を使って移動します。クマと人がお互いに気づかずに近づいてしまい、ばったり出会うと、事故につながります。

HBCでも、クマのニュースをお伝えすることが多くなってきました。
道東の標茶町や厚岸町で次々と牛を襲っているとみられるクマ、通称「OSO18」。
道南の松前町では、畑で作業中の夫婦がクマに襲われ大けがをしています。

どんどん深刻化していくクマと人の関係を見ていて、クマによる被害だけではなく、解決の道筋も考え伝える必要性を感じています。クマの専門家や、クマ対策に関心のある大学生、札幌市に協力いただき、「クマとまちづくり」を考えるプロジェクトを始めました。

「クマとまちづくり」

今年度からスタートした「クマとまちづくり」プロジェクトには、酪農学園大学の佐藤喜和(さとう・よしかず)教授や、クマ対策に関心のある学生、そして札幌市が協力してくれています。学生は、北海学園大学、酪農学園大学、北海道大学大学院から参加してくれました。

訪れたのは、札幌市南区真駒内。例年クマの出没が相次いでいる地域のひとつで、先月も真駒内公園や、マンションの目の前でクマが目撃されています。

先月、クマが目撃された真駒内南町4丁目。佐藤教授と訪れました

出没現場を見た佐藤教授は、「緑地と川がたくさんつながっているようなエリア」と指摘します。

ここは出没現場だけを見れば住宅地ですが、南には森が続いていて、西には川が流れています。

出没現場から南側を振り返ると、森が見える

クマの移動ルート、いわゆる「みどりの回廊」が複数あるのです。真駒内だけではなく、みどり豊かな北海道には、こうしたみどりと住宅地がつながったエリアが多くあります。

豊かな場所だからこそ、リスクとも向き合う必要性が…

クマの移動ルートを遮るための対策が、「草刈り」です。

真駒内南町7丁目の町内会が、公園で草刈りを予定していると聞き、プロジェクトのメンバーで、その効果を調べたいとお願いすると、快く受け入れてくれました。

持ち込んだのは、クマの等身大パネル。

鼻先からお尻まで130センチ、足もとから肩まで、およそ90センチ。
住宅地でよく目撃される平均的な若いオスのクマの大きさです。

クマの研究をしている、酪農学園大学の下川慈生(しもかわ・いつき)さんが中心になって作りました。
下川さんは、「“みどりの回廊”がつながっている場所を判断して、優先的に対策したらいい場所を見つけられたらいい」と意気込みます。

奥が下川さん。研究室の先輩たちと一緒に、実際のクマの写真と合わせながら制作してくれました

公園に生い茂る草は、一見、高い草には見えません。しかし、入ってみると…

続く笹やぶ。奥には川が流れています。

佐藤教授は、クマは「わざわざ好んでこういうところを通るわけではないが、隠れることはある」と話します。

笹やぶの中にクマのパネルを置いて、徐々に近づけていき、公園からどのように見えるか、実験します。

公園内の複数の地点で測定したのですが、地面に高低差があり、もっとも深かったのは、遊具に近いエリアでした。前を歩く人も見失うほど背の高い草が生い茂っていて、歩くのもやっとです。

30メートル地点。すぐ近くにいる私の視界にも、クマは入らず、佐藤教授と学生の上半身しか見えません。

もちろん、公園にいる下川さんには、クマどころか人も見つけられません。

白い線=メジャーの先に、教授と学生と私とクマがいるはず…

30メートルなら、見えなくても問題ないのでは?と思うかもしれませんが、札幌市によると、クマの走る速さは時速50キロほど。30メートルなんて、その気になれば2秒の距離です。ほとんどのクマは積極的に人を襲うわけではないので、すぐに走ってくるわけではありませんが、安心できる距離ではありません。

クマを置く場所を5メートル間隔で公園に近づけていきます。10メートル地点まで近づきました。笹やぶに入ってすぐの場所です。

手を挙げている学生の足もとにクマを置いています

しかし、ここでもクマは見えません。

下川さんは、「住宅地によく出ると言われている、若いオスのサイズだと、場所によっては5メートル・10メートルでも見えないことがわかった」と驚きながら、そうした場所は「ここだけじゃなくて、ほかのマチ、札幌市内でもいろいろなところにありうる。対策をしないと被害は増える」と話していました。

下川さん

実験中、北海学園大学の宗廣(むねひろ)みことさんは、町内会長の久保専一(くぼ・せんいち)さんに草刈りを企画した経緯を聞いていました。久保さんは、「子どもたちが遊びに来るのに、安全な場所でないと遊べない。10年前にここでブランコに乗っていた子どもたちがすぐそこでクマを見て」と教えてくれました。

宗廣さんと久保町内会長

この公園では、2012年、小学生が、この笹やぶにいるクマを目撃しているのです。

宗廣さんは、「子ども目線でも撮ったほうがいいのでは」と提案してくれました。

先ほどの半分ほどの目線の高さで、遊具の場所から笹やぶを見てみます。クマが見えないのはもちろん、その場所にカーキの服を着た学生が立っていますが、彼もはっきりとは見えません。

遊具から子どもの目線で見た視界。中央の学生さえ気づきづらい

遊びに夢中になっていたら…放課後の夕暮れどきで暗くなり始めていたら…クマが動いて笹やぶが揺れても、気づかないかもしれません。

久保さんは10年前のクマ出没のニュースが印象に残っていて、町内会長に就任後、まちの安全を守りたいと草刈りを企画したのです。

草刈り当日。パネルを使って実験をさせてもらうと、予想以上の効果が実感できました。その様子と、実験を通した気づきは、後編の記事でお伝えします。

連載「クマさん、ここまでよ

文:Sitakke編集部IKU
2018年HBC入社、報道部に配属。その夏、島牧村の住宅地にクマが出没した騒動をきっかけに、クマを主軸に取材を続ける。去年夏、Sitakke編集部に異動。ニュースに詰まった「暮らしのヒント」にフォーカスした情報を中心に発信しています

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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