2023.04.14

深める

「やりたいことができない世の中は悲しい」ブルキナファソと富良野の2人をつなぐ‟野球の力“

4月2日、新千歳空港に降り立ったのは、カファンド・アミールさん・25歳です。

新千歳空港に到着したアミールさん(2023年4月)

アミールさんは、西アフリカのブルキナファソから、ある夢を叶えるために来日しました。

出合さんとアミールさん(2023年4月)

出迎えたのは、出合祐太さん・39歳。

2人の出会いは、15年前に遡ります。

連載「じぶんごとニュース

野球には意味がない?

2008年、当時25歳の出合さんは、ブルキナファソにいました。
野球文化を広める目的で、JICA・国際協力機構の青年海外協力隊員として派遣されたのです。

「野球で国際協力ができるなんて素敵だな」と、期待に胸を膨らませていた出合さん。

しかし、ブルキナファソは世界最貧国の一つと言われています。
周囲からは、厳しい声がかけられました。

「野球なんて一銭にもならない」「腹が減るだけ、意味がない」

農業や医療の支援に比べ、野球には意味がないのか…。
何もできないまま半年が過ぎたころに、出合さんの前に現れたのが、当時11歳のアミールさんです。

アミールさん(当時11歳)

アミールさんは、当時のことをこう振り返ります。
「空手の先生と思っていましたよね。うちの国って子どもたちケンカすることいっぱいあるから、友達に負けたくないと思ってました」

アミールさんは、白いユニフォームを着たアジア人を、空手家だと勘違いしていたのです。
「最初は出合さん自分の部屋の中入ってグローブ持ってきたんですよ。食べ物かと思ったら全然違いますよね」

出合さんは、アミールさんとその友達に、一から野球を教えました。

バットでボールを打つと飛ぶこと。
チームで協力するスポーツであること。

出合さんは、「バットで打って100メートルくらい飛んだら、みんな『わー』ってなるんですよ。想像を超えたようなものを見たような気持ちになって、『おれもやりたい』ってなった」と振り返ります。

アミールさんらは、グランドに行く交通費だけでなく、食費にも事欠く日がある状況でも、野球を続けました。

アミールさんは、「野球始まって、ずっと笑うことだけになってきた。それが1番変わった」と話します。

野球に出会ってからを振り返るアミールさん(2019年の取材時)

「やりたいことができない世の中は悲しい」

出合さんは、2年の任期が終わって帰国したあとも、仕事の合間を縫ってブルキナファソに行ったり、選手を日本に呼んだりして、野球の指導を続けてきました。

その功績が認められて、2018年にはブルキナファソ代表の監督にも就任しました。

2019年には、インターネットで資金を募り、ブルキナファソからアミールさんを含む9人を北海道に招待。

2019年、札幌ドームでの練習試合

練習試合で対戦した日本人ピッチャーは、アミールさんらの実力について、「手足が長くて、アウトコース投げても真ん中くらいでふってこられるので、すごい難しかった」と話していました。

およそ1か月にわたる合宿の中では、日本人と触れ合う機会を多く作りました。
出合さんは、「アフリカへの認知度の低さと、悪いイメージがあると思う。でも、僕らが逆に学ぶこともあるので」と話していました。

出合さんは、選手たちと一緒にいると、自信や挑戦する意欲が湧くと言います。
「やっぱり色んな人生があるので、どれも正解だと思う。自分がやりたいことがあって、それができない世の中って厳しいし悲しいので、それが実現できる社会になったらと思う」

出合さん(2019年の取材時)

「僕も、すごくボールを遠くに飛ばしたい」と、夢を追うアミールさん。

水や食べ物さえあれば、生きられるかもしれない。
でも、さらに夢があれば、楽しく生きられる…。

2019年、札幌ドームでの練習試合

出合さんは、「同じ目線でいようと思う。上もないし下もない」と話していました。

与え・与えられる「支援」ではなく、お互いに力をもらう「国際協力」。
彼らは、一緒に夢を追いかけてきました。

チームに監督としてサインを送る出合さん(2019年の練習試合)

そして、ことしの春。アミールさんが、日本で働くことが決まりました。

アミールさんが日本の子どもたちに伝えること

ブルキナファソから来日して3日後、アミールさんは富良野にいました。
野球の魅力を教えてくれた出合さんと、5月から新たな挑戦をします。

出合さん「スポーツをやったことのない人とか、スポーツへのハードルを意識してやりたくない人とかに向けて、スポーツ全部の普及をします」

富良野でスポーツクラブについて相談する2人(2023年4月)

スポーツクラブを作り、アミールさんがインストラクターとなって、野球をはじめとした、スポーツの普及に取り組みます。

出合さんは、「スポーツを通じてアミールが日本の子どもたちに伝えられることはたくさんあると思って」と話します。

アミールさんは、その先に大きな夢を抱いていました。

「ブルキナファソでプロ野球リーグを作りたい」

夢を叶えるために、時間の使い方も学びます。

パンをつくる出合さん(2023年4月)

出合さんの本業はパン職人。富良野で「ブーランジェリー・ラフィ」というパン店を営んでいます。ことしで10周年を迎える、人気店です。

アミールさんは早朝からパン作りの手伝い…。生地作りから完成までの作業を覚えます。

パンをつくるアミールさん(2023年4月)

大きな夢を叶えるためには、1つ1つの小さな手順を踏んでいく。

出合さんは、「何かを成し遂げるための逆算的発想じゃないけど、ゴールに対してどう実現していくかをプラン立てて行くのは、アフリカ人の苦手分野」と話します。

アミールさんは、「自分の人生はずっとスポーツやってきた。スポーツ以外に人生のコントロールをどうするかわからなかった、どうやってお金を稼げるとか、フリータイムを作れるとか」と話します。

悪戦苦闘しながらも、日々勉強を続けるアミールさん。
その原動力は、自身が初めて野球に触れたときの思いです。

アミールさん(2023年4月)

「こういうスポーツが世界にあると思っていなかった。ボール捕って投げて1番楽しかった」

当時25歳だった出合さんが、ブルキナファソでアミールさんと出会って、野球を教えてから、15年。

出合さん(2023年4月)

奇しくもアミールさんが同じ25歳になって、今度は北海道で子どもたちに野球を教えます。

2人は今も同じ野球で、ボール1つで、心は繋がっています。

キャッチボールをする2人(2023年4月)

エコールラフィスポーツ

アミールさんがインストラクターをつとめる「エコールラフィスポーツ」は、5月から芦別と富良野の2会場で始まります。
対象年齢は5~13歳。

スポーツを通して、「好き」「楽しい」を見つけることで、チャレンジ精神や想像力、行動力を育みます。

ブルキナファソで、道具もないところから野球を始め、夢を追って日本で働くところまでやってきたアミールさん。
子どもたちにも、自分の目標を叶えるために、できない理由より「どうしたらできるか」を考える大切さを伝えていきます。

キャッチボールをするアミールさん(2023年4月)

説明会(入場無料)

【芦別会場】
・4月24日(月)ごご6時~
・芦別市総合体育館会議室

【富良野会場】
・4月25日(火)ごご6時~
・富良野市人材開発センター会議室

【問い合わせ】
yutadeai@gmail.com
090-7517-0952

ブーランジェリー・ラフィ10周年

出合さんが営む「ブーランジェリー・ラフィ」は、ことしで10周年。
4月15日(土)、16日(日)には、10周年限定商品が並び、先着20名にはブルキナファソグッズがプレゼントされます。

くわしくは、「ブーランジェリー・ラフィ」のFacebookなどでご確認ください。

【ブーランジェリー・ラフィ】
・富良野市西扇山2
・営業:午前10時半~14時半(売り切れ次第終了)
・定休日:月曜、火曜

連載「じぶんごとニュース

文:HBC報道部、Sitakke編集部IKU

※掲載の情報は「今日ドキッ!」放送時(2023年4月11日)の情報にもとづきます

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

この記事のキーワードはこちら

SNSでシェアする

  • X
  • facebook
  • line

編集部ひと押し

あなたへおすすめ

エリアで記事を探す

FOLLOW US

  • X