2023.03.25

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父親はわからない、でも産み育てたい…「ひとりだけど、ひとりじゃない子育て」につなぐ居場所

「かわいい…」
赤ちゃんの服をいとおしそうに見る、ゆきさん・22歳(仮名)。

「多分女の子だから、ピンクで」「出産予定日とかも入れられますか?4月です」

受け取ったのは、マタニティマークがついたキーホルダー。

「レースもついてて、かわいくなってるやつです。ずっとほしくて」

現在妊娠9か月。この春に女の子が産まれる予定です。

「湯船につかってて、あがった瞬間、重力感じると『重たい』ってなる。おなかの横のほうにいるんですよ、いつも。私の赤ちゃんは」

思いがけない妊娠、それでも…

赤ちゃんの父親は、はっきりとわかっていません。
ゆきさんは、ひとりで産んで育てることに決めました。

「予定していたわけでもなかったから、『マジ?』みたいな感じだった。嬉しいとかより、『堕ろすのは絶対にない』という想いが強かったです」

妊娠に気づいたのは、去年8月。
当時、ススキノのガールズバーで働き、食事や睡眠もろくにとらず、お気に入りのホストに多くの時間とお金をつぎ込んでいました。

ある日、生理が来なかったため、半信半疑で検査薬を試して出た結果は「陽性」。
その日に、授かった命のことを思い、働いていた店を辞めました。

ゆきさんが開いたアルバム。児童養護施設に入った頃のものです。

3歳から児童養護施設で育ったゆきさん。産んで、自分で育てると心に強く決めていた理由があります。

「私の母親が、私と弟のことは産んでるけど、それ以外に妊娠している子をおろしているんですよ、そういうのもあるし。自分が施設にいて、いい思いをしてきてないからこそ、施設には絶対入れたくない」

しかし、仕事を辞めて、収入が途絶え、住む場所も失いそうになりました。
そんな彼女を救った、居場所があります。

居場所さえあれば、「赤ちゃんのために」できること

佐々木さん「ごはんあるの?」
ゆきさん「いらないです、食べないから炊いてない」
佐々木さん「だめだよ」

親子のように、並んで料理するふたり。
でも、血のつながりはなく、出会ってまた数か月です。

ここは札幌の社会福祉法人「麦の子会」が運営する「リリア」。

家族に頼れない、住む場所がないなど、悩みを抱える妊婦さんなら、だれでも無料で一時的に住むことが出来ます。
去年の春に開設して、今まで11人のお母さんの居場所になってきました。

仕事もやめてお金がなく、頼れる家族もいなかったゆきさん。
去年9月に、市役所からの紹介で、「リリア」に入所しました。

ここに来て、「ゆきさんの笑顔がやわらかくなった」と、相談員の佐々木友美さんは話します。

「やっぱり人に頼るとか、相談するということをあまり経験できなかったのかなっていう印象があるので、赤ちゃんのために、人に頼るとか相談するとかできるようになってきているっていう印象があります」

佐々木さんはリリアで、ゆきさんに、お金のやりくりを教えたり、一緒に料理をしたりします。すべて、ゆきさんが赤ちゃんを育てていくための練習です。

佐々木さん「多分自分のためにはしないけど、赤ちゃんのためならするんじゃないかなって」
ゆきさん「いや、本当にその通りです」

支援と事件の分かれ道

こうした支援に、あと一歩頼れなくて、最悪の事態に陥ってしまった事件もあります。

去年5月、産まれたばかりの赤ちゃんを殺害し、JR千歳駅のコインロッカーに遺体を遺棄した事件。
罪に問われた23歳の女の裁判員裁判が2月に行われ、懲役5年が言い渡されました。

被告人質問のなかで、女は、妊娠相談窓口のLINE登録をしていたり、「北海道 赤ちゃんポスト」と調べたりしていたと話しました。

なぜ実際に支援を求めなかったのか。

法廷で、次のように話しました。
「健康保険証をもっていない。金銭的余裕もない、税金も払っていない。赤ちゃんの父親もわからない。似たような人はいないと思って、サポートは受けられないと思っていた」

「リリア」を運営する社会福祉法人「麦の子会」は、道からの業務委託を受けて、「にんしんSOSほっかいどう」という相談事業をしています。

女が支援を求めなかったことに対して、「にんしんSOSほっかいどうサポートセンター」の田中佳子所長は、「育ってきた環境で、人に助けられたとか相談したとかあまりなかった人なのかなとは思う。とにかく一人で悩まないでってことですよね」と話します。

ひとりだけど、ひとりじゃない

ゆきさん「きのうから9か月ですよ。あと55日」

出産の準備も大詰め。
産後は、今パートで働いているコールセンターの仕事で生計をたてていきます。

ゆきさんは、子どもには「とりあえずやりたいことは全部させてあげたいです」と話します。

リリアは、産後も次の居場所が見つかるまでいることができますが、ゆきさんは産後1か月ほどで出て、札幌市内の母子寮に入ると決めています。それからは、ここで出会った人たちと、ひとりだけどひとりじゃない子育てがはじまります。

文:HBC報道部・貴田岡結衣
編集:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2023年3月2日)の情報に基づきます。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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