2022.12.03

暮らす

もうすぐ流氷の季節。知床で生きる人たちの、今の声

観光船沈没事故から7か月が経ちました。

「観光バスが消えた」、「売り上げは半減」…。
観光客の知床離れが進む中、関係者の信頼回復に向けた努力が続けられています。

おしりがつかえて、ガードレールをくぐり抜けられないヒグマ。

結局、ガードレールを乗り越え、お目当ての川に向かいました。

サケの遡上がめっきり減った川で、ごちそうにありつけたのでしょうか。

観光シーズンを終えたオホーツク海側の斜里町ウトロ地区。
流氷が接岸するまで静かな時が流れています。

流氷を間近に感じられる、会心のツアーも…

自転車のメンテナンス作業に追われているのは、知床でサイクリングツアーを企画・販売する、「知床サイクリングサポート」の西原重雄(にしはら・しげお)さんです。

夏の観光シーズンを振り返りました。
「東日本大震災級かなと思う。従業員がいないので、とりあえず食いつないでいるが、従業員に給料を払うとなると食っていけない」

「知床離れ」で客は集まらず、知床以外のサイクリングツアーを企画するなどしましたが、利用客は例年の7割に満たなかったといいます。

「流氷ファットバイクアドベンチャー」。
スパイクタイヤを装着した自転車で、流氷が接岸した海岸を走ります。

外国人観光客向けの冬の主力商品として、3年前に企画した会心のツアーですが、「コロナがちょうど始まってしまって、ほとんどインバウンドは来なくなり、今年は更に遊覧船事故でダブルパンチ」だと話します。

「例年だと何件か予約が入る時期だが、今年は予約がない状況。早く次のステップに行けるように、地元の人がみんな集まって観光を盛り上げていきたい」

いつものウトロに戻る日を願いながら

高級魚キンキをさばいていた、種田成司(たねだ・せいじ)さんです。漁船の元船頭で、海産物販売店「知床朝市大成丸」を営んでいます。

ことし、店先で回る魚に足を止める観光客はほとんどいませんでした。

傷がついたキンキを格安の1200円で販売していました。
漁師が命がけでとってきた魚を1匹も無駄にしたくないと始め、今では店の名物になりました。

今年の売り上げは、新型コロナの影響で落ち込んだ去年のさらに半分…深刻です。

種田さんは、「観光バスが全然来なくなった。大型バスね、見ないもね、あんまりね。修学旅行で秋口に少し来ていたぐらいで、ほとんど見なかった。そうだね、みんなに食べてほしいよね。いっぱい来てね」と話します。

観光客であふれるいつものウトロに戻る日を願いながら、キンキをさばきます。

捜索と、再興と。

4月23日。

観光船「KAZU Ⅰ」は乗客乗員26人を乗せ、ウトロ漁港を出発したあと、知床半島沖で沈みました。

20人が死亡し、6人の乗客の行方は分かっていません。

行方不明者の捜索と観光の再興。
関係者が複雑な思いに苛まれたシーズンでした。

一方で、新しい動きも出てきました。

「これも漂着物だと思います。幸か不幸か世界遺産の知床が受け止めてくれている」

地元のホテル「北こぶし知床」に勤める、村上晴花(むらかみ・はるか)さん。
日課は「ごみ拾い」です。

村上さんがごみ拾いを始めたのは、おととしの春。

ゴミをくわえるヒグマのニュースを見たのがきっかけでした。

ウトロ地区周辺の海岸線や国道を中心に、数人の友人と始めたごみ拾いは共感を呼び、地元住民や観光客を巻き込んだ「知床ゴミ拾いプロジェクト」に発展しました。

おととし7月

村上さんは、「人が住んでいるからこそ知床の自然が守られる。人が訪れるからこそ、人が来るからこそ知床の自然が守られる。そういった流れがごみ拾い活動を通じて生まれていけば嬉しい」と話します。

ごみ拾いのツアー化も検討されています。

知床のブランディングを手がける、「知床しゃり」の寺山元(てらやま・げん)事務局長は、「知床は海の世界遺産だと思う。流氷から始まる海と陸の命のサイクルがある。観光船が一手に海を感じてもらうアクティビティを担っていた。それがなかなか難しい厳しい状況になっている」と話します。

新たな海のアクティビティとして考案したのが、海岸トレッキングにごみ拾いを盛り込んだサステナブルツアーです。
拾ったごみも資源ととらえ、利用方法などを模索しています。

寺山事務局長は、「海岸を歩いてみませんか。ちょっと資源を拾ったらアップサイクルできるのではないか。そういった体験を提案できるようになるかもしれません」と話します。

知床を楽しみながらごみと向き合うツアーは、来年の商品化を目指しています。

事故から7か月

斜里町役場に設けられた献花台に、新しいメッセージが添えられていました。

「はやく みつかってね。みつかったら いっしょに あそぼうね」

知床に、流氷が海を閉ざす冬が迫っています。

文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は「HBCニュース」放送時(2022年11月24日)の情報に基づきます。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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