2024.04.16

暮らす

(第2話)行政と教育現場をつなぐのは…【連載】夕張は倒れたままか?~北海道発・高校存続プロジェクトの現在地と課題

行政と教育現場をつなぐのは…

夕張高校の校章

道立の施設(高校)を市が主体的に関わって磨き上げる作業には、表でも裏でも調整を要します。主従関係になりがちな異なる組織を超えてプロジェクトを進めることは、時に理想と異なり、行政(市)と教育現場(高校)の違いもあって、一筋縄では行きません。

夕張市は高校と向き合う窓口を、教育委員会ではなく地域振興課としています。

夕張市職員・熊谷光騎さん

同課の熊谷光騎(くまがい・こうき)さん(28歳)は夕張高校のOBで、魅力化プロジェクトに市側の実務者として4年以上関わって来ました。

「当初は行政と教育現場のスピード感に違いを感じました。そこでまずは、高校の先生や職員の方々とよく話をしようと思い、職員室に私の机を置いてもらうことを提案して認めてもらいました。それから週4日は高校にいて、教職員のみなさんや生徒と同じ空間で過ごしながら、教育現場の論理も理解しようとして来ました」

「高校の存続には地元の中学生の確保が必須ですが、子どもの数が減ってゆく上、他市町村への転出も進んでいるのに、市が管理する夕張中学校と道が管理する夕張高校にはそれまで情報の共有があまりなかったんです」

立場は違っても人と人のつながりから目線を合わせようと、熊谷さんは時間を割いて来たそうです。今年4月、熊谷さんは人事異動で地域振興課から税務課に移りました。

「今春、道外からも新入生を迎えることができました。しかし市はそのことに満足せず、誰のためのプロジェクトか、子どもたちのためのプロジェクトであることを見失わないようしたい」

夕張市地域おこし協力隊員・島倉大和さん

熊谷さんと入れ替わるように、去年7月から高校に机を置くもう一人の市職員がいます。島倉大和(しまくら・やまと)さん(29歳)は、魅力化プロジェクト担当の地域おこし協力隊員です。夕張で生まれ育ち、熊谷さんと保育園の頃から夕張高校を卒業するまで1年先輩としてずっと一緒でした。

「高校を出た後、自立したくて札幌で仕事をしていました。その後、家庭の事情があって夕張に戻りました」

「夕張高校の魅力を具体的に作り出すことが仕事ですが、SNSで情報発信したり、地元の人に生徒の活動を知ってもらったり、生徒がこの学校を誇りに思えるようにすることを、生徒主体でやりたいんです」

「僕は20代で生徒と年が近いので、先生でもない、もちろん親でもない関係で生徒を盛り上げたい。時には恋愛相談も受けるんですが、それはうまく伝えられなくて…」

「生徒には『何でも3年は続けてごらん』と言っています。それから『今、悩んでいることがあるとしたら、それは小さなことなんだよ』と言っています。僕も外に出てみて初めてきづいたことなんです」

新入生の教室に飾り付けられた風船(夕張高校・4月8日)

教職員ではない20代の大人が、校舎の中や外で生徒に直接関わることで、生徒は社会を垣間見る新たな窓を得たのかもしれません。

夕張高校は門戸を全国に広げて、今春、埼玉県から初めての地域留学生を迎え入れました。その15歳の新入生が夕張高校を選んだきっかけは、意外な出会いにありました。

・・・・・・

道半ばの“魅力化”事業

「夕張メロン」は地域名を冠したブランド商品として全国的な人気を誇り、今年も来月には出荷が始まります。その産地=北海道夕張市(ゆうばりし)には、「財政破綻した街」という枕詞が加わるようになって人口の減少が続き、市内で唯一の高校も廃校の危機に瀕しています。

「夕張は、倒れたままか…」。刺激的な言葉で理念を謳(うた)い、高校の存続を模索する同市のプロジェクト「夕張高校の魅力化事業」は道半ばです。8年目を迎えた春に、プロジェクトの現在地と課題を3話連載で探ります。

◇文・写真 HBC油谷弘洋

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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