日高は競走馬の生産日本一の場所でもあります。しかし近年は、牧場の後継者不足が課題とされています。
将来の馬産業の担い手を増やすお手伝いとして、日高管内の牧場等と連携し、馬産地の仕事の魅力を私、HBCアナウンサーの水野善公と堀内美里アナで体験してきました。
そこで私にとって、これからの人生を歩む上で忘れられない〝馬が合う〟お方…との出会いがありました。
2人が向かったのは、札幌から車で2時間ほどの所にある「ひだか・ホース・フレンズ」。
ここは、牧場で働くための必要な基礎知識と、基本的な作業などを教えてくれる、全国でも珍しい研修施設。
〝ウマの仕事〟の経験がまったくない人でもOKで、全国から研修生が集まります。
競馬を愛して30年の私も初めて、牧場での〝半日就労体験〟をさせていただきました。
場長の村上善己さんは、19歳でこの世界に飛び込んだという、40年以上の大ベテラン。
競馬ファンなら誰もが知る、G1レース6勝の名馬・ゴールドシップの育成にも携わったエキスパートの手によって、きょうは私が〝調教〟していただくことに。
吐く息は白く冷たく、辺りはまだ真っ暗な中、厩舎から馬を放牧場に連れて行くことから1日が始まりました。
馬を引くのを実際に体験してみると、実は奥が深いんです。
「大切な馬に、もしものことがあってはいけない」と思うと、たった数十メートル歩かせるだけでも緊張に包まれます。
そんな私の緊張感は、手綱を通して、馬にも気づかれているような気がしました。
村上場長は「馬を信用すれば大丈夫」と…、人も馬も、信頼関係が第一なんですね。
ちょっと、パドックの見方が変わった気がするぞっ!
放牧を終えた頃、日高山脈の輪郭が姿をあらわし、降り注ぐ〝太陽光のシャワー〟に心が洗われるかのようです。
「何度見ても、こんな贅沢な景色はないね」と、村上場長がやさしく微笑みます。
すぐさま次の作業へ!
ここでは〝ボロ〟と呼ばれる、馬のフンの掃除をしたり、藁を入れ替えて寝床を整える〝ベッドメイキング〟の作業です。
専用の道具を使い『部屋の、壁側に藁を高く積み、そこから中心部に向かって、滑らかな傾斜をつけフカフカにする』のが、いい寝床の条件なのだそう。
それには、なかなかのテクニック&パワーが必要で、41歳の私の腰には、ちょっとつらい作業…。
「手だけではなく全身を使うのがコツ」という村上場長の仕事ぶりは、なんとも名人芸!
一流シェフが、軽やかにフライパンを裁くかのように、あっという間に、ふかふかの寝室が出来上がっていきます。
愛する馬に「気持ちよく寝てほしい」という、長年にわたる愛情こもった作業を続けてきたたまものです。
作業中に、村上場長が話してくれた「ボロをしっかり確認すれば、その固さ、柔らかさ、ツヤ、ニオイなどで馬の健康状態がわかる。毎日こういう小さいことの積み重ねが大事。いろんな人が馬を優しく守ることで馬を成長させ、レースでの1勝が生まれる」という言葉が、私の胸に強く響きました。
やはり「人が馬をつくるのだ』と。
華やかなステージに立つことが出来る名馬は、血統などもあるのでしょうが、どのような環境で育てられてきたのかきたかという、馬への〝愛情〟が大きく関わるような気がしました。
夕方が近づき、放牧した馬たちを厩舎に戻す〝集牧〟の時間に。
〝朝のコミュニケーション〟があったからでしょうか、いくぶん楽な気持ちで馬たちとふれあえました。
特に意識したわけではないのですが、自分が引く馬に「今日はいい天気だったね。お疲れ様でした」などと声をかけながら、私がメーキングをした〝ベッドルーム〟に移動。
すると場長から「馬に声をかけるのは、とても良いこと。それによって馬も人も安心するだよ」と、〝お褒め〟の言葉をいただきました。
マッサージを兼ねた、汚れを落とすブラッシング作業の時も、〝声かけ〟をしていると、ほんの少しですが、馬も喜んでくれたように感じました。
どの世界も〝声かけ〟は大事なんですね。
ただ、馬の足の裏をキレイにする作業は、村上場長にまったくかないません。
私が足を持ち上げようとしても、馬は微動だにしないのに、村上さんが声をかけで、足に軽くタッチすると、すーっと足を上げるのです。
愛する馬たちとの〝信頼の積み重ねがいかに大切か〟を学習し、半日の〝調教〟メニューが終わりました。
牧場にあるベンチで、ホットコーヒーで、ささやかな打ち上げ。
そこで、ゴールドシップとの出会いについて語る、村上場長の熱い言葉に、私の心は貫かれた思いがしました。
「あれは神からのご褒美だった。一生懸命頑張っていれば、そういう世界に触れる機会があるということを馬に教えていただいた。そんな自分が感じた感動を今度は次の世代に伝えていきたい…」
〝ボロ〟ひとつにまで、注意を払うことを決して忘れずに、馬にも人にも、謙虚に接してきた村上場長だからこその言葉です。
気がつけば、私の目から光る雫が“〝ボロボロ(?)〟と落ちていました。
「ひだか・ホース・フレンズ」には将来、馬に関わる仕事につきたい人はもちろん、人生に迷ったり、悩みを抱えた人たちも訪れるのだといいます。
村上場長は、「自分が決めたことを信じて進めば、必ず先が見える」と結びました。
〝馬には乗ってみよ、人には添うてみよ〟…、日本一の馬産地・北海道日高で、〝人生〟を教えていただいたような気がします!
水野善公アナと、堀内美里アナが〝ウマのお仕事〟を体験した動画は、北海道日高振興局が企画・制作したもので、北海道公式YouTubeチャンネル「牧場ははじまりの場所」でご覧いただけます。
文:水野善公
※2024年2月時点の情報です。
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