2023.08.23

暮らす

【旭川】住宅近くにクマ…この夏から変わり始めた対策と、これから問われることとは

北海道では毎年のようにクマが出没していますが、「これまで出没がなかった地域」や、都市部でも目撃されるようになってきました。

「まさか」の事態にすばやく対応できず、反省が残るケースも。
旭川もそんな地域のひとつです。

しかし去年秋、旭川市はその反省をフォーラムで公表。
そしてこの夏から、新たな動きを始めました。

連載「クマさん、ここまでよ

反省を公表して、決意を宣言

「スタートからダメダメだった」

去年11月、旭川で開かれた、ヒグマの会のフォーラム。
旭川市の担当職員が、市のクマ対応の反省点を明らかにしました。

旭川ではおととし、中心部でクマの目撃や痕跡の発見が相次ぎました。

旭川市の講演より(去年11月・ヒグマの会フォーラム)

JR旭川駅にも近い出没情報でしたが、担当職員は、市の情報発信や河川敷の閉鎖には遅れがあったと発表。

NPO法人もりねっと北海道の代表・山本牧(やまもと・まき)さんは、「事故が起きなかったのは、このクマの自制心・警戒心のおかげ」と指摘していました。

旭川市の今津寛介市長も登壇。「人間とヒグマの知恵比べが今後も続く」「きょうを契機に、みなさまと想いをひとつにして、ヒグマとの共生を考えていきたい」と宣言しました。

フォーラムの詳細は過去の記事でくわしくご紹介していますが、反省を明かし、前に進む決意を表した旭川市に、期待が寄せられた一日でした。

NPOとの連携開始①地域のクマを知る

そしてこの夏から、市はNPO法人もりねっと北海道に、クマの調査や普及啓発を業務委託し始めました。

まず設置したのは「ヘアトラップ」。
地面に打ち付けた木に、鉄線を巻きつけます。

木に体をこすりつける、クマの習性を利用した調査です。

ヘアトラップ調査の様子(占冠村・2020年)(動画提供:酪農学園大学)

クマが体をこすると鉄線に毛がつき、その毛からDNAをとって、年代や性別などのクマの特徴を調べます。
ほかの場所で採取されたDNAとも比べて、同じものがあれば、行動が少しずつ見えてきます。

山本牧さんは、「クマは年代・性別によって行動パターンが違うので、それがわかった上で、それに合わせた対策をする」と話します。

札幌では、すでに別のNPOが市と連携してクマの調査や普及啓発にあたっています。
一つ一つの出没を調査し、膨大なDNAを蓄積していて、実際に対策に生かせた事例もあります。

札幌・南区(2019年)

たとえば、2019年に札幌市南区藤野・簾舞地区に繰り返し出没したクマは、4年前にその前兆があり、誰も管理していない果樹=「放棄果樹」が一因になっていることを突き止めました。
その結果を受けて、翌年から市や市民ボランティアと一緒に「放棄果樹の撤去」ボランティアをはじめ、ことしも継続しています。

じぶんの住む地域に、どんなクマがいるのか。
知ることが、対策の第一歩になるのです。

NPOとの連携開始②地域のみんなで知る

ヘアトラップ設置の合間を縫って、山本さんらは市内の学校に訪れていました。

JR旭川駅から車で30分ほどの距離にある、旭川第五小学校・桜岡中学校。
みどりに囲まれていて、クマを見たことがある生徒もいます。

小中合わせた全校生徒、約30人が体育館に集まりました。

冒頭、坂東裕美校長は、生徒たちにこう語りかけました。
「クマは人を脅かそうとして出ているわけではないと思います。でも人とクマとの距離は近くなってきているよね。私たち人がクマを驚かせてしまったりすると、大きな事故につながることもあります。ですから、きょう自分の身の守り方や、これからどう過ごしていったらいいかを考えながら学習してもらえればと思います」

山本さんがスクリーンに映したクマの写真。
道端でクローバーを食べているところです。

人を食べよう・襲おうと思っているわけではない
頭の骨や、毛皮に触れてもらいながら、クマの正しい知識を、落ち着いて伝えていきます。

山本さんは、「交通事故と似ています。車もひとつ間違えると危ないものになる。人のほうで気を付けながら考えていきましょう」と呼びかけました。

もしクマに出会ったら。
「とにかく逃げない・走らない・大声を出さない・友達と集まろう。そして様子を見ながらゆっくり離れる」。

「クマがここにいつかないようにするのは我々大人の責任だけど、今はずいぶん距離が近づいてきているので、身を守る方法もぜひ考えてみてください」と語りかけていました。

参加した生徒は、「クマは怖いイメージがあったけど、あまり人を襲わないんだなと思って、でも警戒もしなきゃいけないこともわかって、いい話だった」と話していました。

NPOの新メンバー・吉沢茉耶さん。
春まではクマ対策の先進地・知床で野生動物と利用者の軋轢を減らす仕組みづくりに関わっていました。

しかし、知床の対策がそのまま旭川で通じるわけではなく、旭川には旭川のクマ対策が必要だと話します。
「それぞれの地域が持っている環境を、クマ対策に合わせて考えるとどうなるのかは、地域地域でやっていかなきゃいけない」

地域にいるクマを知る。
NPOが専門的に調査をするのと並行して、市民もクマを正しく知り、一緒に考えていく必要があります。

去年、反省を明らかにし、この夏、NPOとの連携を始めた旭川市。
市、NPO、市民が一緒になって、クマ対策を考え、実行できるか…。

旭川のクマ対策が、変わり始めています。

連載「クマさん、ここまでよ
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

文:Sitakke編集部IKU

※掲載の情報は取材時(2023年7月)の情報に基づきます。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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