2023.07.28

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漫画「宇宙兄弟」で人生が変わった。未経験から宇宙業界へ、”2%”の女性エンジニアからのメッセージ

高校を卒業して、アルバイトをしていた20歳の頃。
ある漫画との出会いが、大きく人生を変えました。

知念美貴(ちねん・みき)さん・29歳。沖縄出身で、今は北海道の宇宙ベンチャーで働いています。この会社でたった2%の“女性エンジニア”です。

女性が少ない業界、未経験、沖縄から北海道へ…挑戦の連続のように思えます。
迷った時期はあったと言いますが、いま、笑顔でいられる理由とは?

連載「こう生きたっていい」

宇宙で活気づく北海道

HBCでは、特集WEBサイト「HBC宇宙チャンネル」をオープンし、【あらゆる世代が期待感を持って暮らせる地域づくり】を目指し、宇宙にまつわる北海道の情報を発信しています。

HBCの糸賀舜(いとが・しゅん)アナウンサーが、宇宙で活躍するアナウンサーとなるべく道内各地で取材する「糸賀を宇宙に連れてって!」のコーナーでは、十勝の大樹町の宇宙ベンチャー・インターステラテクノロジズを取材しました。

インターステラテクノロジズを訪れた糸賀舜アナウンサー

インターステラテクノロジズは2013年、小さな事務所で数人でスタート。
この10年で、社員130人まで増えました。

うち100人ほどがエンジニア。その中に、2人の女性エンジニアがいます。
1人目の女性エンジニアについては、前編の記事でお伝えしましたが、この記事では、知念さんのストーリーをお伝えします。

ロケットは「最強の乗り物」

知念さんは、2022年1月にインターステラテクノロジズに入社。

部品が設計図通りにできているかを検査する仕事などを担当しています。

この日は、水をポンプで流して部品に圧力をかけ、変形しないか・漏れがないか確認していました。
この検査をクリアした後は、ガスを使った作業があるため、この段階で水を使って検査しておくことが、安全のために非常に重要なのです。

「ロケットは宇宙に行くために軽く作られている。軽くて薄くなっている部分もあって、それでも宇宙に耐えられるぐらいの強さがあって。なので、最強の乗り物だなって思います」

宇宙やロケットの話になると、つい笑顔に。

でも、小さな頃から宇宙を夢見ていたわけではありません。

漫画をきっかけに「一回挑戦してみよう」

知念さんの人生を動かしたのは、漫画「宇宙兄弟」でした。(作・小山宙哉/講談社)

漫画「宇宙兄弟」(作・小山宙哉/講談社)

「宇宙兄弟」は、宇宙飛行士を目指す兄と、一足先に夢を叶えた弟を中心に進む人間ドラマが魅力。漫画に夢中になった知念さんは、自身も宇宙開発にあこがれを持つようになります。

当時、普通科の高校を卒業して、アルバイトをしていた知念さん。
まずは航空会社で整備士として働き始めました。その後、宇宙開発への想いを「ずっと持ったままでいるくらいなら、一回挑戦してみよう」 と、インターステラテクノロジズに応募しました。

未経験からでも挑戦できる仕事なのか尋ねると、「入ってからは結構苦労すると思いますね(笑)航空整備の仕事も、勉強してきたわけではないので、入社してからたくさん学んでいかないといけなかったですし、インターステラテクノロジズでもまだ勉強していかないといけないですし。でも、いつも入ってから頑張ろうとは思ってます(笑)」と、明るく答えていました。

今の仕事は、重く大きい部品の組み立てや安全面の配慮で、航空整備と通じるところもあり、前職の経験も役立っているといいます。

「女性だから」あきらめるのは、もったいない

知念さんが入社したとき、女性エンジニアの先輩は1人しかいませんでした。
安井朋香(やすい・ともか)さん。知念さんが入社する2年前、2020年4月に入社しています。

安井さん

安井さんは女性が少ない業界に飛び込むことで、周囲から言葉をかけられたり、自身も迷ったりした時期もあったと話します。
それでも自分の夢を貫いて働いている姿に、知念さんは「すごくかっこいい」と感じたといいます。

一方、知念さんに性別を理由に立ち止まったことはあるか尋ねると、間髪入れずに「なかったです」と言い切りました。

『やりたいから』っていう理由で今まで来たので、私はそこまでは悩まなかったですね。宇宙開発をやりたいのは、別に男の人だけ・女の人だけではないと思う。もし女の人が少ない理由が、周りに女の人がいないからならば、もったいない」

左から安井さん、知念さん

いま、夢を迷っている人へのメッセージを聞きました。
後悔しないように、やってみたいと思ったら、やってみたほうがいいなと思う。もしかしたら不安かもしれないですが、きっと周りの人が助けてくれると思うので、どんどんチャレンジしてほしい」

知念さん自身も、漫画がきっかけではあったものの、周囲の友人や先輩が背中を押してくれたことで、「前に進もう」と思えたと言います。

インターステラテクノロジズに入社してからも、特に性別を理由に困ったことはなく、むしろ重いものを持つときや、高いところにあるものに手が届かず困っているときに、男性社員が率先して手伝ってくれることが多いそう。
仲間もいるので、全然不便に感じることなく作業ができています」と話していました。

「北海道の楽しさ」

でも、知念さんにも不安がありました。
それは「北海道で暮らす」こと。

沖縄出身で、北海道にはゆかりがなかった知念さん。初めての冬は、一番最初の夜で風邪をひいたといいます。
「ストーブの使い方がわからなくて、怖くてつけずに寝てしまった。次の日もう鼻水と咳が止まらなくて(笑)」

寒さが一番の強敵でしたが、今では慣れてきて、「北海道の楽しさ」を知りました。
「温泉に行ったり、キャンプしたり、いきなり家でバーベキューしだしたり…今までになかった楽しさで、北海道に来たからこそだなって思ってます」

知念さんは安井さんにとって待望の女性エンジニア。安井さんからよくごはんや遊びに誘ってもらっているといいます。

”生き方の多様化”と言われても、「女性だから」とあきらめたり、「男性だから」と役割を期待されたり、「性の多様性」を認めてもらえなかったり…
性別が理由になる”生きづらさ”は、まだまだ残っている時代。

小さなマチのベンチャー企業で働く、たった”2%”の女性エンジニア。
取材する前は、迷ったり、壁にぶつかったりした経験もあるのではと、「自分の夢を強く貫いているからこその、今迷っている人へのメッセージを聞こう」と考えていました。

でも実際に会って話してみると、印象に残ったのは、強さよりも笑顔でした。
2人とも共通して話していたのは、「周囲の応援」に助けられたこと。そして、宇宙へのあこがれと、宇宙開発にかかわる楽しさ。

「好き」という気持ちの強さで、仲間と一緒に夢を追う2人。
その想いが、北海道から宇宙への玄関を開こうとしています。

HBC宇宙チャンネル」では、2人のインタビューを動画付きでさらにたっぷりご紹介しています!

多様な生き方連載「こう生きたっていい

文:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は取材時(2023年7月)の情報に基づきます。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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