2023.07.28
深める安井朋香(やすい・ともか)さん、26歳。
彼女がつくる、小さな部品が、宇宙に飛び立ちます。
ある宇宙ベンチャーで、たった2%の“女性エンジニア”。
女性が少ない業界に飛び込むことに不安はなかったのか…取材すると、そんな懸念は吹き飛ばすほどの笑顔で迎えてくれました。
安井さんにも迷った時期はあったと言いますが、いま、笑顔でいられる理由とは?
HBCでは、特集WEBサイト「HBC宇宙チャンネル」をオープンし、【あらゆる世代が期待感を持って暮らせる地域づくり】を目指し、宇宙にまつわる北海道の情報を発信しています。
HBCの糸賀舜(いとが・しゅん)アナウンサーが、宇宙で活躍するアナウンサーとなるべく道内各地で取材する「糸賀を宇宙に連れてって!」のコーナーでは、十勝の大樹町の宇宙ベンチャー・インターステラテクノロジズを取材しました。
インターステラテクノロジズは2013年、小さな事務所で数人でスタート。
この10年で、社員130人まで増えました。
うち100人ほどがエンジニア。その中に、2人の女性エンジニアがいます。
2020年4月に入社したのが、安井さん。
ロケットなどに使う部品作りを担当していて、コストを下げるためにどんな材料を使うか考えるところから、実際に金属を削る作業まで関わります。
大きなロケットも、小さな部品の積み重ね。
実際の作業は、とても緻密です。1ミリより小さい単位で、溝を削ったり…細かい作業が、壮大な夢につながります。
「宇宙に行くの『強いじゃん』『かっこいいじゃん』 みたいなところが、まずあった」と話す安井さん。
小さな頃から宇宙へのあこがれがあり、大学は機械工学科へ。
ロケットを作るサークルに入り、ものづくりを学びました。
他大学のロケットサークルのOBがインターステラテクノロジズで働いていました。当時は社員も少なく、大々的な募集はしていませんでしたが、安井さんは自ら「インターンシップに行かせてほしい」と連絡したといいます。
インターンシップに参加したのは、観測ロケット「MOMO」2号機が、打ち上げ後すぐに落下し、炎上した頃でした。
少ない人数で、各々にできることに取り組む社員たちと一緒に、安井さんも「MOMO」3号機の制作に関わります。
そして2019年5月。「MOMO」3号機は、打ち上げから4分で宇宙空間に到達しました。
民間単独で開発したロケットが、日本で初めて、宇宙に到達したのです。
「私が作ったものが『宇宙に到達しました』 ってなって、これは楽しいなって。いやもう、『ロケットって宇宙行くんだ』ぐらいの感じで!」
その興奮を今もありありと覚えている安井さん。
「私はインターンシップでちょっと来て、やらせてもらっていただけなんですけど、ずっと努力されてきた先輩方がいる。その人たちがやっぱりもっと『じぶんごと』で、すっごい楽しそうで、この中に一緒に入りたいなって思ったんです」
インターステラテクノロジズのエンジニアの中でも女性は2%ですが、安井さんは、大学で専門を選ぶときにも、周囲から性別について言葉をかけられたことがあったといいます。
「機械工学科選びますって言ったら、『女の子で行ってる人いないよ』って言われて。本当に大学に行っても、女性は10%を下回っているような状態だった」
安井さん自身、「周りに女の子がいたほうが楽しい」「機械加工で油まみれになる仕事でいいのか、いわゆる街にいるOLもやってみたい」という気持ちもあり、迷った時期がありました。
それでも、宇宙へのあこがれ、ロケットが好きという気持ちをあきらめきれず、「やりたいから、やろうかな」と、この道に進むことを決めました。
いま、性別を理由に夢を迷っている人へのメッセージを聞きました。
「私も迷った側の人間だったので、その気持ちはすごく分かる。でも、やっぱりどこに行っても、一生懸命やってたら応援してくれて、手伝ってくれる人がいっぱいいる。だから安心してがんばってほしいなと思います」
安井さんは現在の仕事で、性別を理由にやりづらさを感じたことはなく、周囲も応援してくれると言います。
そして入社した2年後、「すごく嬉しかった」と話すできごとが起こります。
待望の、次の女性エンジニアがやってきたのです。
知念美貴(ちねん・みき)さん・29歳。大学などで専門的な勉強をした経験はありませんが、20歳の頃、ある漫画がきっかけで宇宙への道を志しました。
未経験から、どう夢を追ってきたのか。知念さんのストーリーは、後編の記事でお伝えします。
「HBC宇宙チャンネル」では、2人のインタビューを動画付きでさらにたっぷりご紹介しています!
多様な生き方連載「こう生きたっていい」
※掲載の内容は取材時(2023年7月)の情報に基づきます。
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