2023.06.29

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「性別に違和を感じている人たちの、こころの拠り所をつくっていきたい」【LGBTQムーブメントと「女性」たち②】

みなさんこんにちは、満島てる子です。

ライター・満島てる子

Sitakkeで「お悩みコラム」を書かせてもらえるようになり、もうすぐ2年。お悩み相談コーナーを軸としながら、様々なテーマでコラム執筆の機会をいただいてきました。

この6月はプライドパレードをはじめ、世界中でLGBTQに関する啓発イベントが開かれる「プライド月間」と呼ばれるシーズン。

今回はそのタイミングに合わせての特別連載。この特集【LGBTQムーブメントと「女性」たち】では、「女性」というくくりから改めてLGBTQのアクティビズムを捉え直すことで、どのような景色が見えてくるのかを考えていこうと思います。

全3回の特集です。

第1回「”女性らしくいるべき”が窮屈だったんです、ずっと」

第2回は、団体「トランスXコミュニティ」を昨年立ち上げた、トランス女性でレズビアン()の当事者、川島暢華さん(51歳)にお話をお聞きしました。

※注釈】トランス女性とは、生まれた身体の性別が男性で自分の認識している性別が女性という方のこと。生まれた身体の性別に対して自分が認識している性別が異なる方のことをトランスジェンダーといい、ここではトランスと略して記しています。

レズビアンは、自分が認識している性別(生まれた身体の性別ではない)が女性で好きになる相手の性別も女性という方のこと。自分が女性と認識しているトランス女性で、好きになる性別が女性であるため、トランス女性でレズビアンと記しています。

なお、トランス女性でも好きになる性別が男性の方、両方の性別の方などもいます。トランス男性(女性の身体で生まれたが男性と認識している方)で男性が好きになる人は、トランス男性のゲイ、ということになります。(なお、上記の概念に関しては一部異論もあります。ご了承下さい)

「トランスなんだ」という気づきと、トランスXコミュニティの立ち上げ

川島暢華さん

暢華さんとあたしの出会いは、2017年に遡ります。
当時は「7丁目のパウダールーム」の開店前。あたしは店長としての研修を兼ね、系列店である「7丁目のママ」で、日曜限定ママとしてカウンターに立たせてもらっていました。そこにひょっこりお客さんとして来てくれたのが、暢華さん。
とっても気さくな彼女。その後、さっぽろレインボープライドの実行委員として、2020年と2021年の2年間、一緒に活動しました。

そこから2022年に、暢華さんは自らが主催するかたちで、性的違和や性への疑問•ゆらぎを抱える人たちの集う場として、トランスXコミュニティの活動を開始。そこには、LGBTQコミュニティを暢華さんなりに見つめ直した上での、ひとつの想いがありました。

「性的マイノリティに関する運動は、これまでゲイやレズビアンの方などが中心に据えられていたように思うんです。もちろん、これまでゲイの方々などがセクシャルマイノリティの活動を引っ張ってきたことは理解しています。ですが、トランスジェンダー(以下トランスと略)やクエスチョニング(自分が感じている性別や望む性別、好きになる相手の性別が明確ではない方や決めない方など)といった人たちにも焦点が当たるべきなのではと、私は感じたんですよね」

札幌や北海道各地、東京などでも現在の取り組みを当事者として広げつつある暢華さん。ですが「自分はトランス女性で、レズビアンなんだ」という自認にたどり着くまでは、たくさんの苦労と紆余曲折があったと言います。

「幼稚園の頃には、身体違和がすでにありました。明確に『こうなんだ』って言葉にはできなかったんですが、『なんかおかしいな』ってずっと思っていたんです。でも世代として『男は男らしく、女は女らしく』が当然な世の中だったから、『女性になる』って発想自体が無かったんですよね」

6歳くらいの頃の写真(暢華さん提供)

漠然と「一緒にいるのも、なんにしても女の子の方がいい」と思っていた幼少期•学童期。その後、暢華さん自身の気持ちは、大学に入ってだんだんと明確になっていったそうなのですが、どこか本人の中で振り切れないところがあったんだとか。

「学園祭の催しで仮装パレードがあって、みんな思い思いの格好をするんですけれど、そこで女性の服を着てメイクをして歩いたら居心地がよくて。『脱ぎたくない!』ってなりました。ただ、性対象が女性であることがひっかかったんです。当時の自分は『女性になるなら男性を好きになるのが普通』だと思ってて。『女性になる。そして女性を好きでいる』っていう発想がなかったんですよ」

1990年代前半。まだLGBTQどころか、トランスという言葉も広まっておらず、知られていたのは「おかま」という単語のみだったという当時。暢華さんは、性的マイノリティ当事者であるとの認識をなかなか持てず、「自分はおかしい人間なんじゃないか」と考えていたと言います。その考えが解け始めたのは、この10年ほどの話。

「女性になりたいって気持ちがやはりあったから、メイクをしたりレディースの服やファッションを調べたりしていたんですが、その過程で2010年ごろに東京で大規模な女装イベントが定期開催されていることを知りました。そこに行って『こんなに世の中に仲間がいるんだ!』って思って。同じような人がいることに気づけたんです」

決定的だったのは、2015年の電通ダイバーシティラボによる、LGBTQ当事者に関する大規模調査結果の中に示されていた、セクシャリティツリー。性を3つの側面から考え、二分法でその組み合わせの多様さを示すこの樹形図を見た瞬間、暢華さんは「自分を説明できるものとようやく出会えた!」と思ったんだとか。
「あれは衝撃的でした。やっとこれで理論的にわかったというか、私の中で整理がついて。『これだ!』って発見したときの、頭でピカッて電球が光った感じがしたんです」

その気づきから自分自身を認められるようになり、その後ホルモン治療を始めて戸籍の名前も変更。公私とも全ての人にカミングアウトをするため、自分の想いを事細かく サイトに記してSNSなどで公開もしました。
そのうえで、LGBTQに関する活動にも積極的にたずさわるようになった暢華さん。今の「トランスXコミュニティ」の取り組みの中では、当事者同士の交流に焦点を当てているそうです。

「参加者の性のあり方はもちろん、年齢も様々で。全員の共通項ってなるとなかなか無いんですけど、やっぱり何かしら近い悩みや『それわかる』ってことはあるように感じます。性別違和のある人が主役になれるような場とか、繋がれる機会がもっとできていけばいいなって思っています」

暢華さんのような経験の持ち主が、実感に基づきながらアクティビズムを支えてくれること。彼女の語りを聞きながら「これは非常に貴重なことだよなぁ」と、あたしはひとりの当事者としてもいちインタビュアーとしても、そう思っていたのでした。

トランスを取り巻く社会の現状に関して思うこと

この取材、あたしには暢華さんにどうしても訊いてみたいことがありました。
今日本ではトランスジェンダー、その中でもトランス女性に対するヘイトが、SNSを中心に広まっています。「女性と偽ってお風呂やトイレに入り、犯罪を働くのではないか」というのが、その主な内容です。当事者の多くがこうした差別的な発言に傷ついているとあたしは認識しているのですが、この現状に関して、暢香さんの考えをぜひ教えてほしいと伝えたところ、彼女はまず冷静な返答をしてくれました。

「ネット、特に SNSに関しては、どうしても目に入ってしまうこともあったりしますが、そこにいちいちパワーを裂かないようにしています。周りからも『ひどいよね』って話をもちろん聞くんですが、そもそも短文での揚げ足取りや、一部だけ切り取られた恣意的な意見に対して、まともな議論をするって難しいと思うんですよね」

ウェブ上の攻撃的な発信をきちんと相対化してとらえ、それに動じないようにしているという暢華さん。ただ本人は、そのようなヘイトを問題無いと思っているわけではなく、むしろより広い角度から真剣に考えなければならないと感じていると言います。

「トランス差別って、トランスに対してのものだけではないと思うんです。アメリカでのバックラッシュの様子を見ていると、例えばとある州では『男性=精子を作る人、女性=卵子を作る人』に限定しようなんて話が政治的な場面で出ているけれど、この定義って例えば生まれた時の身体に男性と女性の双方の特徴を持つ性分化疾患の当事者の方、例えば不妊治療中の男性や女性に対しても、その存在を無視するような扱いを認めることにつながってしまうのでは、って思います。そういう問題もひっくるめてしっかり考える必要があるんじゃないかって」

「なるほど……!そうだよなぁ」と思わされる発言の数々。暢華さんはさらに、日本の政治的な事情についても、コメントを続けてくれました。
先日、衆議院•参議院でともに可決された「LGBT理解増進法案」。この法案は、当事者から様々な批判を受け続けてきましたが、特にトランスへの偏見にも基づくと思われる条文が盛り込まれたことが、コミュニティ内部に激震をもたらしています。暢華さんは自身の考えを、以下のように述べてくれています。

「理解増進法に関する諸々でも感じたんですけど、LGBTQの話になった時に、なんでトランスのトイレとお風呂の問題ばっかりになるんだっていうのはすごく思ってるんです。
トランスに関しては、進学や就職の制約があるとか、家を借りにくいとか、病院に行くにも制約があったりホルモン治療など保険適用されず10割負担になったり、トランスというだけで一般的な生命保険や医療保険にすらなかなか入れないとか、みなさんと同じように生きようとするだけでもさまざまな問題があります。理解を増進というのなら、本当はこうした問題に焦点をあててほしいです。

お風呂の懸念に関しては、厚生労働省が『公衆浴場における衛生等管理要領』で公衆浴場は身体の特徴に基づき男女別にわけると指針を出していて、増進法ができたからといって公衆浴場の法規が変わるわけではありません。それにも関わらず、『女性だと偽って女湯に入る人が出てくるかもしれない。恐怖だ。許せない』って話が流れて恐怖心を煽られ増幅して、ここだけクローズアップされているなと感じます。

不審な行動をしている人に声をかけることは差別だとは思いませんし、迷惑行為や犯罪目的で女性だと偽って女湯に入る人は今も昔も未来も悪質な犯罪者なので、性犯罪をもっと厳罰化する法改正とか、変質者が入りにくい施設はどんな設備や構造にすべきとか、こういう議論が本来必要なことなのではって思います」

あたしが一番印象的だったのは、暢華さんが性差別の根深さにもまっすぐな眼差しを向けていたことです。ジェンダー平等に関する議論がなされるようになって、日本でもいく久しい年月が経っているわけですが、その成果は日の目を見ているとは言い切れません。暢華さんは、それが性的マイノリティの問題とも結びつくのではないかと指摘します。

「トランスとかLGBTQ以前の話になりますが、私が思うことは2つあります。性犯罪とかの防犯をいかにするかということと、男女格差や男女差別を解消するということです。トイレだったら、犯罪が起きにくい構造や設置場所になっているのか疑問に感じることが時々あって、怖いなって感じるトイレはいっぱいあります。

それと、休日の街中とか女性トイレだけ順番待ちの列ができているってこと、よくあると思います。男性より女性のほうが用を足す時間は2倍も3倍も時間がかかるので、本来なら女性トイレの数は男性トイレの2倍か3倍あっていいと思うんですよね。平等に同じ数を作るというより、公平に利用できる機会を作るって考え方で。それと同時に、誰もが公平に利用できるようにと、バリアフリートイレや誰でもトイレがあるべきなのではって思います。今の日本の現状では。もっとも、トイレの占有面積が大きくなる問題とかコストの問題とかはあるでしょうけど。

根本的には男女の格差からどうにかしなきゃと思います。男女雇用機会均等法などはあっても、じゃあ女性が社会進出を満足にできるかといえば、実情はいまだ全然違います。女性の権利向上が進まないうちに『LGBTQの権利を!』となっても、なかなか理解が進みにくいでしょうし、権利向上にもつながりにくいと思います。女性の権利向上とLGBTQの権利向上を同時並行でやっていかなきゃいけないんだろうなと思います。

ただ、最近の女性を守るという流れの中のごく一部ですが、『女性を守る』を口実にLGBTQを叩いてフェミニズムを分断して、実は旧来の家父長制のような社会を目指すような意図を感じることがあります。女性を守ると言いつつも、それだと結局ジェンダーギャップがいつまでたっても埋まらないし、女性の権利向上にもつながらない気がします。考え方は人それぞれだと思いますが、時代とともに社会は変わるはずなので、誰もが排除されず、平等というよりも公平に社会参加できる世の中になればいいなって思っています」

今回の特集は、LGBTQのアクティビズムを、女性という視点を交えて捉え直したいと始めたもの。暢華さんの言葉は、そのふたつの強い結びつき•連帯が必要であることを象徴しているように感じ、企画者としてズシンとくるものがあったのでした。

「女性」について思うこと

暢華さんは、女性として生きると決意してから、強く感じるようになったことがあると言います。

「究極的には、自分が生きたいように生きられるっていうのが一番だよなぁと思っているんですけれど、社会に合わせるというか、何がしか自分の思いと周囲とのバランスを取ることって、多分一生ついて回ることなのかなと思うんです。独りよがりでなく、社会と調和のとれた『個性』を作らなきゃいけないというか」

自分自身の気持ちと、社会が突きつけてくる価値観の溝のようなもの。そこにどう折り合いをつけていくかは、あたしもLGBTQ当事者のひとりとして常に迷い続けていますし、正直そんな迷いや悩みが根本から無くなってくれればいいのにとも思うことがあります。
この点について、暢華さんも同じような考えを持ってくれていました。「女性」というくくりについて聞いたとき、彼女はこう語ってくれたのです。

「本来であれば男性とか女性とかの分け方自体『どうなのかなぁ』って思うんですよ。もちろん、生物学上の男性と女性の身体の特徴の違いは明確にあります。なかには性分化疾患の方もいらっしゃるので、厳密には完全に男女2つには分けられませんけど。

生物学上の男女の身体の違いはあった上で、性別についての自己認識や帰属意識、本当の自分という感覚は人それぞれ異なります。トランスジェンダーのように、性別に関して生まれてきた身体と自己認識や帰属意識が明確に異なる方をはじめ、性別の認識や意識が揺れ動くという方、性別はないという自己認識の方もけっこういます。さらに、性別適合手術を受けた方については身体の外見上は生まれた時と異なる性別でも、戸籍の性別を変えている方もいれば変えていない方もいます。

なので、究極の結論は、性別って本人に聞いてみないとわからないものだと思っています。医療など必要最低限の場合を除いて、性別をわざわざ聞く必要のない世の中、性別はその人の申し出次第だっていうのが、当たり前の世の中になればいいなぁと思います」

「自分は〇〇です」と、自己申告に基づく性のあり方が当たり前の世の中。そんな状態になればいいなとあたしも思いますし、それを実現するためにも、暢華さんの活動はこれからも続いていくのでしょう。彼女は笑顔で、トランスXコミュニティの今後の展開について語ってくれました。

「日本中でやりたいですね!資金と時間があればなんですけど(笑)。いろんなところに旅行しながらって夢見てます。私、旅行大好きなので」

暢華さんが全国に羽ばたき、各地で活動を広めていく……あたしはインタビュー中、そんな姿を垣間見た気がして、最後までワクワクした気持ちで話を聞いていたのでした。

おわりに

「女性」というカテゴリーから、改めてLGBTQムーブメントを見つめ直す、この連載。

第2回の暢華さんのお話は、トランス女性の置かれる現状について、根本まで遡って考えさせられる貴重なものでした。

ラストの第3回では、さっぽろレインボープライド実行委員会の新人であり、母として子育てをしながら、「アライ(LGBTQの活動を支援し、そこに積極的に関わろうとする人のこと)」として活動する、まゆげさんにお話をお聞きしていきます。

***

文:満島てる子
編集:ナベ子(Sitakke編集部)

<満島てる子 PROFILE>オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。LGBTパレードを主催する「さっぽろレインボープライド」の実行委員を兼任。2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム「てる子のお悩み相談ルーム」を連載中。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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