2023.06.28

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「”女性らしくいるべき”が窮屈だったんです、ずっと」【LGBTQムーブメントと「女性」たち①】

みなさんこんにちは、満島てる子です。

ライター・満島てる子

Sitakkeのお悩み相談コーナーを担当させてもらうようになって、もうすぐ2年。

読者の方々のお手紙と向き合うことを通じて、たくさんの言葉を紡がせてきてもらいましたが、それだけでなく、私が副実行委員長を務める「さっぽろレインボープライド」について自分の想いを綴らせてもらったり、映画や音楽に関してゲイ当事者の視点から語らせてもらったりと、折りにつけて様々なテーマでコラム執筆の機会をいただいてきました。

この6月はプライドパレードをはじめ、世界中でLGBTQに関する啓発イベントが開かれる「プライド月間」と呼ばれるシーズン。

今回はそのタイミングに合わせ、性的マイノリティをテーマにした特別記事を発信していきます。

普段からなんとなく思っていることなのですが、LGBTQを「LGBTQ」として捉え、語る取り組みは多くみられます。しかし、そこに別のカテゴリーをあえてぶつけ、新たな問い直しを行うことは、なかなかありません。

Sitakkeは「北海道で暮らす女性たちの明日につながる“きっかけ”を」という文言をキャッチコピーに掲げています。このミニ連載【LGBTQムーブメントと「女性」たち】 では、「女性」というくくりから改めてLGBTQのアクティビズムを捉え直すことで、どのような景色が見えてくるのかを考えたいと思います。

全3回に渡ってお伝えします。

第1回目は、札幌でレズビアンの当事者として長らく活動を続け、コミュニティを支えてきたアクティビストの先駆者、工藤久美子さんにお話をお聞きしました。

工藤久美子さん

「さっぽろミーティング」で得た“レズビアン”という気づき

工藤久美子さん(48歳)は、「さっぽろレインボープライド」の前身団体である「レインボーマーチ札幌」(1999年〜2013年)を立ち上げた創設メンバーのひとり。長らく札幌のLGBTQシーンを牽引してきた方で、あたしにとっては大先輩にあたります。

2004年に開催された第8回のパレードでは実行委員長に。女性単独でプライドパレードの長を務めるというのは、当時としては全国初のことだったんだとか。
現在も、当事者向けのLINE相談などを行なっているNPO法人「L-port」の運営に関わるなど、コミュニティを支える活動を積極的に展開しています。

性的マイノリティについて「女性」という側面からのエンパワメントを続けてきた工藤さん。ですがご自身は、LGBTQのアクティビズムに関わるずっと以前から、「女性らしくいるべき」という社会の圧力に疑問を感じていたと言います。

「女性らしい服装や化粧には元々あんまり興味はなかったんですが、おしゃれが嫌いなわけじゃないんですよ。自分なりのセンスというか、『かわいいな』『素敵』って思える装いを昔から楽しんでたほうなんですが……美しさの基準って人それぞれなはずなのに、なぜか女の子っぽくないと『もったいない』と言われてしまう。それが窮屈だなと感じていました」

社会がもたらす圧力の例としては、「男らしさ」「女らしさ」以外に「誰かを好きになるのが当然」という“恋愛至上主義的”な価値観も、そのひとつとして挙げられます。工藤さんはそこにも違和感を感じ、学生時代に苦しい思いをしたんだとか。

「周りが当然のごとく男子と触れ合うようになっていくのに、なんか私って人を愛せない人間なのかなって思うようになったんですよね。この世の中の大半の話題は恋愛でできているのに、それを味わえない私はとてつもなく不幸なんじゃないかって。このまま孤独なまま暮らしていくのかとか、楽しみもないのかなって気持ちがありました」

ネットがまだ普及しておらず、情報も限られていた当時。レズビアンに関する図書や映像作品には偏見に基づいた内容のものが多く、工藤さん自身も困惑したそうです。「異性でなければ同性にではないか……?」と、自身のセクシュアリティを知るために資料を集めても、納得のいく答えは得られなかったそう。

そんな中で、当時定期的に当事者交流会を開催し、電話相談なども受け付けていた団体である「札幌ミーティング」の存在を知ったことが、工藤さんの人生にひとつの光をもたらします。

「実際にミーティングに参加して、そこから徐々に自覚が芽生えてきたんです。等身大の当事者が『私はレズビアンです」と自己紹介していて……その人に『あなたは?』と尋ねられたときに『レズビアンです』って口にしている自分がそこにいたんですよね。『この人がレズビアンならば自分もそうだ』って思えたというか」

札幌ミーティングに参加していたメンバーの中には、今でも北海道のLGBTQムーブメントの活性化に精力的に関わっている方が多く、札幌のパレードの歴史もこの団体から始まったところがあります。

工藤さん提供写真

仲間との出会い、その中でもたらされる自分自身の変化と気づき……。
あたし自身も、今勤めている7パウの系列店に飛び込んだことで、ひとりのゲイとしてそういう経験をすることができたのですが、工藤さんの場合そのきっかけとなったのは「札幌ミーティング」という、北海道のコミュニティが開かれていくきっかけを作った空間だったのだなぁと思うと、お話を聞きながら後輩として、感慨深い気持ちが絶えなかったのでした。

活動の中で気づいた「女性の多様性」とその困難

お話を伺っていて一番心に響いたのは、工藤さんが「女性」や「性的マイノリティ」といった複数のカテゴリーが交錯したところに生まれる「多様な現実」と、真摯に、そして真っ直ぐに向き合おうとしている点です。工藤さんは、女性が置かれがちな状況について、社会構造にも眼差しを向けながら、次のように語ってくれました。

「本当に女性は多様だって思うんですよ。存在自体が多様なんだけれど……なぜか社会では、ウケのいい『女性らしさ』ってやつから外れてしまうと、それだけで苦労が多いんですよね。例えば『彼氏いないの?かわいそう』ってやつとか。そうした価値観ひとつとっても、他人から勝手に評価されることが多くて、女性のセルフエスティーム(自尊心)って一方的にすごく下げられてしまうんですよ。そして、レズビアンやバイセクシャルの女性について言えば、パートナーがもしいたとしても、法律上はもちろん、カミングアウトしていなければなおのこと、どうしてもシングル女性として捉えられてしまう。自動的に『かわいそう』な人扱いを受けることになるんです」

世に言う「ダイバーシティ」的な概念は、「みんなちがってみんないい」といったシンプルかつポジティブなニュアンスと、どうしても安易に結びついてしまいがち。ですが工藤さんは、様々な属性が組み合わさって発生する当事者の様々な「苦しみ」を、その複雑さそのままに、深い視点でもって受け止めています。

過去資料をたくさん持ってきてくれた工藤さん。どれも当時のコミュニティの様子を記録したものとして、貴重なものばかりでした。

その背景にはここ札幌市で、当時ゲイ中心、言い換えれば男性が中心となっていた当事者のコミュニティ活動に「性的マイノリティ」の「女性」として参加し、その中で様々な経験をしてきたことがあるのではないかと、あたしはインタビューの中でそう強く感じました。
工藤さんは、LGBTQの集いの只中でありながら、ジェンダー格差に直面する瞬間があったことを、かつての自身の活動を振り返りながら話してくれました。

「抑圧を受けることはありました。男女の差というのが、マイノリティのコミュニティの中にもやっぱり存在していたんでしょうね。女性の発言はシャットアウト!ってされちゃうことも場合によってはありましたし……とあるイベント運営の話し合いで『ゲイが多い催しなのだから、女性の要望を聞く必要はない』と言われた時は、『差別と闘うための活動で、弱い立場の人の話を聞かないの?」とがっかりしたこともあります。もちろん、そういう人だけでなく、『言ってることよくわかるよ』って手を差し伸べてくれるメンバーもいたんですけどね。」

つい先日、『躍動するゲイ•ムーブメント〜歴史を語るトリックスターたち〜』(明石書店)という書籍が出版され、アクティビズムに関わってきた当事者たちをはじめ、コミュニティの内部で様々な反応を呼びました。当事者の語りを収録したこちらの本は、「正確な情報ではない箇所がある」と一部厳しい指摘を受けてもいますが、札幌の性的マイノリティの歩みについても記録されるなど、取り組みとしては目覚ましいものがあります。
工藤さんはこの本を読んで、当時のことを懐かしく思うと同時に、同じ風景を「レズビアン」という視点からも語り直し、残していくことの必要性を感じたんだとか。

『躍動するゲイ•ムーブメント〜歴史を語るトリックスターたち〜』(明石書店)

「ちゃんとアーカイブを作っておかないとって思いました。人間ってきっと老いていくと、無意識に記憶を都合のいいように改竄しちゃうだろうから。なので、(レズビアンやバイセクシャル女性の札幌の活動については)私の手で、単なる記憶ではなく文字媒体で、何かをどこかに残さないとなって感じますね。あと、(LGBTQのアクティビズムについては)やはり男性目線から語られる機会の方が多いから、それと異なる視点で情報を届けることも必要だなと思います」

工藤さんの活動家としての歩みは、これからも確実に続いていきそうです。

これからの「女性」像について

性的マイノリティと、女性と。
それぞれをアイデンティティとして持ちながら、そして、それぞれのカテゴリーの「多様さ」を実感しながら、当事者に対するサポートを行ってきた工藤さん。「最近印象的なことがあるんだけれど」と、取材中あたしにひとつ率直な想いを教えてくれました。

「『女性が惹かれる女性像』であったり、『女性が女性として尊敬できる女性』というのが、魅力的なタレント像として発信されるようになってきているじゃない?その発信ってたいていが『私は私のために美しくなるんだ、誰のためでもない』ってメッセージ性を持っているように思うんですよね。それがすごくウケていることが、個人的には印象的で」

これには「なるほど」と思いました。男性から消費される偶像としての女性ではなく、「自分らしさ=女性らしさ」というメッセージを伝えられるアイコン的存在が、今たくさんの人に求められているのかもしれない……。装いとして、女性らしさが自分らしさの中に確実に組み込まれているあたしにとっても、これは目覚ましい問題提起でした。
工藤さんは、こう続けます。

「奥ゆかしく生きるっていうのも、もちろん選択肢として全然アリだとは思うんだけれど、そうじゃない女性としての生き方もあるよなぁというか。男性の目線とか関係なく、私は私として綺麗になるんだっていう、自分で自分の自尊心を上げていく世代が、これから育っていくのかなって」

女性のこれからについて開かれた目を持ち、その展開を期待する工藤さん。
札幌のコミュニティをずっと牽引し、LGBTQアクティビズムの歴史の一端を担ってきた方が、ひとの「未来」について想いを馳せている瞬間に立ち会えたことは、いちライターとしても、レインボープライドをはじめとする活動に現在関わる者のひとりとしても、大きなことでした。

Sitakkeの読者の方々は、きっと様々な属性だったり、バックグラウンドだったりを持っていることと思います。性のあり方もそれぞれ。年齢層も多岐にわたるでしょう。
だからこそあたしは、いつもお悩み相談に答える際「あなたはあなたでいいんだよ」というメッセージを伝えられるよう、意識しているところがあります。

工藤さんの「私は私」を評価する姿勢は、そうした自分の普段心がけていることにつながる部分があるように感じ、お話をお聞きしながら非常に嬉しく思ったのでした。

おわりに

「女性」というカテゴリーから、改めてLGBTQムーブメントを見つめ直す、この連載。

初回の工藤さんのお話は、性的マイノリティ/女性の当事者が札幌で歩んできた「これまで」を考えさせられるものでした。
そして、その語りを通じて、女性というくくりの中に生まれている現実としての多様さや、社会一般が求める「女性」性に縛り付けられないことの大切さが見えてきたように思います。

***

第2回では、性的違和や性への疑問•ゆらぎを抱える人たちの集う場・「トランスXコミュニティ」の活動を主催している、川島暢華さんにお話をお聞きしていきます。

文:満島てる子
編集:ナベ子(Sitakke編集部)

<満島てる子 PROFILE>オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。LGBTパレードを主催する「さっぽろレインボープライド」の実行委員を兼任。2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム「てる子のお悩み相談ルーム」を連載中。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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