2023.06.24
暮らす札幌市南区の真駒内地区では、公園や国道など、私たちの生活に非常に近い場所でクマの目撃が相次いでいます。
事故にも警戒すべき状況です。
HBCでは、去年夏から、クマの専門家や、クマ対策に関心のある大学生、札幌市に協力いただき、「クマとまちづくり」を考えるプロジェクトを行っています。
そこで注目していたのが、再開発計画も進む真駒内地区。「どこにクマの通り道があるのか」、これまでのデータと実験をもとに考えてきました。
真駒内で出没が相次ぐ今、ことし3月に配信した記事から真駒内のクマの出没理由に関する部分を抜粋してお届けします。
今回の出没を受けての専門家のコメントもご紹介します。
真駒内で相次ぐクマの目撃情報。
6月21日の朝には、豊平川と真駒内川に挟まれた真駒内公園で5件、夜には公園から南に行った柏丘で1件、さらに22日未明には同じ柏丘の国道453号線で1件、目撃されました。
札幌市では、クマの出没情報を「札幌市ヒグマ出没情報」のページで公開しています。
地下鉄真駒内駅周辺のクマの出没情報を、マップに重ねてみました。
丸の中にある数字が、出没情報の年数の下2桁です。(=22と書いてある丸は、2022年の出没情報の場所)
地下鉄真駒内駅からも近く、区役所や小学校・中学校、スーパーマーケットなどもあり、一軒家やマンションが建ち並ぶ住宅地ですが、ここ10年ほどでクマの出没情報が多く寄せられているのがわかります。
今回、ことし6月21日から23日の出没地点も追記してみました。
すると、すでに過去の出没情報が密集していた場所に、ことしの出没地点も重なりました。
この出没情報を分析してくれたのは、「クマとまちづくり」プロジェクトに参加している、北海道大学の大学院生・伊藤泰幹(いとう・たいき)さん。
大学1年生から「北海道大学ヒグマ研究グループ」・通称「北大クマ研」に入ったのをきっかけに、クマの調査や人との関わりの研究を続けています。
伊藤さんは、マップを見て、「川やみどりの周辺に、出没情報が集中している」ことに注目します。
住宅地を流れる豊平川、真駒内川。そして、駅の裏に広がるみどりは、ずっと南、山のほうから続いています。
クマは川沿いの茂みなど、体を隠せる背の高い草の中を好んで移動します。
札幌の「みどりや川が住宅地と接している」という、マチの特色が、住宅地への出没に影響しています。
さらに、クマの生態にくわしい酪農学園大学の佐藤喜和(さとう・よしかず)教授は、「出没情報は、人の目があるところでしか集まらない」と指摘します。
出没情報の丸があるのは、みどりや川沿いの中でも、人が通る道に接していて、人の目が届く場所。
情報がある「点」だけがクマが通る場所なのではなく、「点」につながる途中のエリアも、「人が気づかないうちに、クマが移動しているかもしれない」ということです。
人が気づかずにクマが移動できるエリアがどれだけあるのか。
クマの等身大パネルを使って、実験をしてみました。
クマの研究をしている、酪農学園大学の学生たちが作った、クマの等身大パネルです。
鼻先からお尻まで130センチ、足もとから肩まで、およそ90センチ。
住宅地でよく目撃される、平均的な若いオスのクマの大きさです。
北海道の統計によると、2021年度の小学1年生(6歳)の平均の身長が、約116センチなので、体の高さは小学生より低いことになります。
こちらは、去年7月末、真駒内南町7丁目の公園で実験したときの写真です。
公園と川の間に生い茂る笹やぶに、等身大パネルを置いてみると、クマの目線の高さでは、視界全体が笹。この向こうに公園があり、人がいるのは見えません。
公園の中から、笹やぶのほうを見てみても、人の目線の高さでは、クマの姿はまったく見えませんでした。
このような、クマと人が近くにいてもお互いに気づかない場所は、地下鉄真駒内駅の近くにもあるのか?
酪農学園大学の学生たちが、真駒内川沿いをたどって調べてくれました。
その結果が、こちら。
地下鉄真駒内駅から600メートルほどの場所にある真駒内川。川の東側=駅側にある歩道からの目線で測定しました。
クマが見える範囲=黄色はほとんどなく、見えない範囲=青が続いているのがわかります。
測定した範囲の、「約6割の場所でクマが見えない」という結果になりました。
私たちが気づかないうちにも、高い草が生い茂っている場所を利用して、クマが住宅地の近くを通っているのかもしれない…。
そこからクマが少しだけ出てきたときに、あるいは、人がランニングや散歩で川沿いに近づいたときに、クマと人がばったり出会い、事故になるリスクがあるのです。
こうした場所は、草刈りで見通しをよくすることが有効な対策です。
真駒内公園と藻南公園は閉鎖が続いていますが、真駒内公園のアイスアリーナ周辺に限り、クマの目撃や痕跡が確認されていないとして、22日夕方、閉鎖が解除されました。
しかし警戒は続いていて、23日も、小学校の通学路では保護者や警察官などが登校を見守りました。
なぜ今、クマの出没が相次ぐのか。
何に気をつけたらいいのか。
佐藤教授は、「クマの繁殖期の真っ盛り」と指摘します。
「子グマを連れた親子連れがちょっと人目につくところにあえて来ることで、オスから逃げていたりとか、若いオスたちが新しいすみかを求めて積極的に歩き回る時期に当たっている。市街地と森の境目をずっとあちこち移動しながら市街地地方面に入り込みやすい傾向がある」
佐藤教授は、繁殖期を理由にクマが市街地と森とを行ったり来たりする状況は、7月上旬くらいまで続くとみていて、改めてクマとの不要な遭遇を回避するよう呼びかけます。
「早朝とか夕方、夜間の人気の少ない時間帯がよく目撃が発生してますので、特にそういった時間帯には注意していただきたい。外出時は、よく周りに気をつけていただくということがまずは重要かと思います」
HBCのまとめサイト「クマここ」では、佐藤教授の監修のもと、「クマに出会ったら」「出会わないためには」の基本の知恵をまとめています。
対策の情報やこれまでの取材をまとめたページもあります。
クマの出没が相次ぐ今、ぜひ命を守る知恵を確認してください。
連載「クマさん、ここまでよ」
「クマとまちづくり」プロジェクトを通して学生たちが感じたことや、道内各地からの学び、クマに関わる人の想いなど、「クマとのいい距離の保ち方」を考えるヒントをお届けしています。
協力:「クマとまちづくり」プロジェクトチーム
酪農学園大学の佐藤喜和教授、札幌市、クマに関心のある学生たち(北海学園大学、酪農学園大学、北海道大学)、HBCで構成
※掲載の草丈の結果は去年の調査時、ことしの真駒内での出没に関する内容は2023年6月23日時点の情報に基づきます。
■まとめサイト「クマここ」
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