2023.03.12
深める年間2000人以上が診断される、小児がん。
子どもと家族は治療優先の生活で、多くの我慢が強いられます。
笑顔と思い出を守りたい…先輩ママの取り組みとは。
大好きなキャラクターと、楽しいゲームが盛りだくさんの部屋。
招待されたのは、がんと闘う男の子と、その家族です。
たくさんのお菓子を運んできたのは、札幌の阿部美幸(あべ・みゆき)さん。
小児がんの子どもたちと家族を支える活動をしています。
2月、美幸さんは、雪まつり会場にいました。人込みをかきわけ、誰かとオンラインで話しています。
「四国の小児がんの子どもたちが雪を見たことがない、雪だるまを見たことも触ったことがないと言っているから」
画面の向こうは、四国で活動している、小児がんの子どもと家族を支える別の団体。
この日は、香川県の病院とつなぐ、雪まつり中継の下見です。
「こういうところっていちばん楽しいはずだけど、闘病中の子どもたちは観られないから」
四国で闘病中の子「わーすげー!!」
親「すごいね」
2日後、中継は無事に成功。子どもたちに届けることができました。
美幸さんは、「病気が治ってから行けばいいっていう問題じゃなくて、やっぱりその歳に楽しみたいことをさせてあげたいっていう思いがある」と話します。
実は美幸さんには、活動を続ける理由となる経験があります。
いまから3年前の美幸さんと、長男の透真(とうま)くんです。
透真くんは、小学校3年生のときに、白血病と診断されました。
透真くん「おいしそう」
美幸さん「でも治療中に食べていたものは一切に見るのも食べるのも…」
透真くん「前はにおいだけで吐き気がした」
痛い検査に、抗がん剤治療。
入院生活は1年以上続き、美幸さんも病院に泊まり込みました。
美幸さんは、「もう地獄。親は介護ベッドで毎日寝て寝不足の状態で子どもの治療をみて、親もメンタル的にやられていくでも子どもの前では泣けないし」と振り返ります。
美幸さんは我慢ばかりの入院生活で、好きな食べ物をつくってあげるなど、笑顔でいられる工夫を続けました。
しかし美幸さんにはもう1つ、気がかりだったことが…。
家に残してきた長女のことです。
「お弁当とか学校とかどうしてるんだろうって。病院で『お母さんまだ帰ってこれないの』ってきょうだいが言って電話でなだめているお母さんたちも、入院中に見ていたので」
子どもと家族の目線に立った、支援を作り出そう。
退院後につくったのが、「勇者の会」でした。
闘病中に遅れた勉強の支援など、退院後のサポートをしたり、子どもが怖がる検査について、説明する動画もつくったりしています。
力を入れているのが、治療中でも子どもと家族が一緒に楽しめる空間づくり。
室内でも、季節を感じる遊びができるようにします。
10月。
札幌のホテルに、ある家族が招待されました。
がんの治療が落ち着いた一橙(いちと)くんと、お姉ちゃんのこころちゃん、そして両親です。
部屋の中は、好きなものでいっぱい。
弟が入院している間に、お留守番を頑張った、こころちゃんも主役です。
美幸さんは、「がんの子どもだけじゃなくて、きょうだいも頑張った、お父さんお母さんも頑張ったっていう、家族全員のご褒美」と話します。
お魚柄のTシャツに着替える一橙くんと、お姉ちゃんのこころちゃん。
家族で、治療の間に過ぎてしまった、夏の思い出づくりです。
病院とは違って、ここでは興味のままに、自由に動き回れます。
こころちゃん「魚釣りだー!」
勇者の会スタッフ「がんばれ!あー釣れた!」
もうひとつの部屋では、晩ご飯の準備が進んでいました。
そこには、小児がんと闘った美幸さんの長男・透真くんと、お姉さん・優花(ゆうか)さんの姿も。
イベントの中身は、家族が「主体」となって決められるよう、こだわっています。
美幸さんは、「体調のことを考えたら、決められた時間とか場所に行くのってなかなか難しい。一番楽しい歳にそれができなかったって諦められないので、『できないならできないなりのサポートを』と思いまして」と話します。
一橙くんの母親は、「家族の時間をみんなでもりあげて作ってくれて、皆さんの気持ちがうれしかったです」と話します。
こころちゃんは、「4人でもみんなで一緒に遊ぶ機会はあんまりないから、今日いっぱい遊べて楽しかったです」と話していました。
長い間、多くの我慢を強いる小児がんの治療。
後回しになってしまうことの中には、かけがえの無い瞬間が詰まっていることに、子どもたちが気づかせてくれます。
文:HBC報道部・泉優紀子
札幌生まれの札幌育ち。記者歴4年。道政・市政を担当しながら、教育・福祉・医療に関心を持ち、取材。大学院時代の研究テーマは「長期入院児に付き添う家族の生活」。自分の足で出向き、出会った人たちの声を聞き、考えたことをまとめる仕事に魅力を感じ、記者を志す。居合道5段。
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