2022.12.22
深める真珠湾攻撃によって太平洋戦争がはじまってから、12月8日で、81年を迎えました。
同じ日、身に覚えのないスパイ容疑を着せられ、逮捕された人々の中に、1人の大学生がいました。
今、この事件に向き合う意味を現役の学生たちが考えます。
連載「じぶんごとニュース」
北海道大学には、学業で優秀な成績をおさめた学生を称える表彰が3つあります。
1つが、ノーベル賞を受賞した鈴木章名誉教授の名を冠したもの。
残りの二つの賞に名を刻むのは、「宮澤」と「レーン」です。
第二外国語の成績が優秀だった学生に贈られる「宮澤記念賞」。
英語の成績が優秀だった学生に贈られる「レーン記念賞」。
法学部2年の荒木裕介さんは、中国語の成績が認められ、「宮澤記念賞」を受賞しました。
荒木さんは、「事件について知らなかったのですが、この賞を受賞したことで知りました」と話します。
事件とは、81年前におきた「宮澤レーン事件」のことです。
1941年12月8日、太平洋戦争が始まった日。
当時北大生だった宮澤弘幸さんと、英語教師だったアメリカ人のハロルド・レーン夫妻らが、「軍機保護法違反」の容疑で逮捕されました。
舞台となったのは、雪が降りしきる北大のキャンパスでした。
旅行が好きで、各地を飛び回っていた宮澤さん。
そこで見た根室飛行場を、レーン夫妻、つまりアメリカ側に伝えたとして、スパイの容疑をかけられたのです。
しかし、この飛行場は、絵葉書になるほど公に知られていて、軍事機密とは言い難いものでした。
にもかかわらず、宮澤さんらは実刑判決を受けたのです。宮澤さんとハロルド・レーンさんは懲役15年、妻のポーリンさんは懲役12年を言い渡されました。
終戦後釈放された宮澤さんは、冤罪を訴え続けました。
大学に復学願を出し、アメリカ留学の夢も抱いていましたが、願いむなしく、獄中で患った結核により27歳の若さでこの世を去りました。
荒木さんは、同じ北大生に起きた「冤罪」事件を知り、強い衝撃を受けたといいます。
「僕たちにできることは、事件を風化させないように、語り継いでいくことと、もう二度と同じような事件を起こさないようにすることだと思っています」
10月、事件ゆかりの場所をめぐるツアーが行われました。
長く真相が語られなかったこの事件を、多くの人に知ってもらおうと作られた「宮澤レーン事件を考える会」が主催です。
会のメンバー・北明邦雄さんは、参加者に「宮澤レーン事件が、なぜ起きたか、そういうことを色々北大の歴史の中で理解をしていく」と説明していました。
北海道大学文書館には、宮澤弘幸さんの写真が残されています。
各地を巡る笑顔の宮澤さんや、家族とともに映る写真。
直筆の手記やイラスト。
そして、今も残るクラーク像やポプラ並木など、北大でのキャンパスライフの様子もみることができます。
宮澤さんと英語教師ハロルド・レーン夫妻の接点となった「心の会」。
「心の会」とは、戦時下におかれても外国人教師と学生が友情をはぐくみ、自由に学問を語り合う会でした。
宮澤さんは日米開戦の一報を聞いてすぐ、外国人官舎に住むレーン夫妻のもとに駆け付け、こう告げたといいます。
「戦争は国と国の間の出来事です。私とレーン先生の間の出来事ではありません」
国籍を超える信頼関係が不当に奪われた事件を通して、今の学生たちに「平和」について考えてほしい…
「考える会」は、8月、「心の会の碑」の建設を北大に求めました。
会のメンバー・奥井登代さんは、「北大の学生たちにも誇りとして残して伝えていきたい」と話します。
しかし、会によると12月2日に大学は「応じられない」と回答。大学も賞を設けたり80周年特別展を開催したりと、事件を風化させまいと様々な取り組みをしていますが、学生たちの認知度は低いままとなっています。
レーン賞を受賞した、文学部3年の石本万象さんです。
石本さんが、事件について知ったのは、去年総合博物館で開かれた80周年の特別展でした。
「ただ事件があったと聞くと「他人事」という感じがするかもしれないんですけど、肉筆だったり、当時の社会の伝える実際のものをみることで、本当にあったんだなと」
大学ではアイヌ民族の歴史を研究する石本さん。
「アイヌ」と「宮澤レーン事件」に共通しているのは、歴史を正しく知って語り継ぐことだと、考えています。
石本さんは、「色々な世界の様子を見ていても、民主主義とか民主的な社会というのが、いかにもろくて、すぐに失われるかというのがひしひしと感じる。歴史を知ることで、このままでいいのかな、もっと積極的に自分たちで守っていかなきゃならないのかなという意識を高めることができるのではないかと考える」と話します。
自身の研究の中でも、「伝える」ことの難しさを感じるという石本さん。
しかし、その意義を、言葉を選びながら話してくれました。
「本当80年前の出来事ではあるんですけど、ものすごく近いところで起きた事件だなと。こういう時代とか世界に行き着かないように、意識をもって伝えていかなければいけないと思う」
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2022年12月7日)の情報に基づきます。
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