2021.09.28

出かける

穏やかに、軽やかに、暮らしを彩る amamuëkleの甘いもの。

心ときめくアマムエクルのお菓子

小さいもの、カラフルなもの、丸いもの、甘いもの。何故だろう、理屈抜きで心がキュッと掴まれるような、そんなときめきを感じてしまうのは。
初めてこのお菓子を見たのは、小さな雑貨屋でのイベントだった。可愛らしいアンティークのガラス棚に並ぶコロコロとしたその見た目に、食べる前からひと目惚れをしてしまった。きっと、根っからの甘党でなくたって誰もが、この色とりどりの姿を見たなら、心がワクワクするのを感じるはず。

すべて植物性原料の、心身にやさしいおやつ

アマムエクルのお菓子たちが生み出されているのは、音更町にある、ごく普通の民家の中、そこにある小さな工房(と言ってもちょっと広めのキッチンといった体)だ。ネット販売がメインで、工房隣の小さな店舗と、一部での委託販売の他には決まった販売先はなく、主に受注生産で製造を続けている。
作り手は、岩本大介さんと、妻の朋子さん。大介さんがお菓子の製造を、朋子さんがパッケージやショップカードのデザインを担当している。

鮮やかな赤い壁が印象的な工房で作られるお菓子は、全部で15種類ほど。これらを店で見かけた人は、きっとまず、その中身のカラフルさと、シンプルかつ目を引くパッケージに足が止まるはず。そして手に取ってよーく見て、くず粉を使ったクッキーや、米粉のガトーショコラなど、日頃あまり見かけないラインナップにちょっと驚き、興味をそそられる。

カラフルな仕上がりの秘密は、紫芋やかぼちゃ、抹茶など色の綺麗な素材を使用し、かつ色の鮮やかさを失わない絶妙な焼き加減を意識しているから。さらに特筆すべきは、今開発中の物も含め、お菓子がすべて、植物性の原材料からできているということ。乳製品や卵はもちろんのこと、白砂糖も一切使っていない。実はこれらのお菓子、商品化するまでに4年の歳月を費やしたという苦労の成果。

衣食住を、改めて考えなおすきっかけに

そもそも「株式会社sorato(ソラト)」としてデザインやイラストレーション、そして音楽制作などを行っていた岩本夫妻がお菓子作りに乗り出したのは、15年以上前のこと。互いに在宅で仕事をしてきたこともあり、暮らしについて思いを巡らす機会が多く、結婚後は特に、「衣・食・住」について考えるようになっていたという夫妻。

「食材を選んだり、自炊をしたり、やろうと思えばきちんとできる環境にあったことが大きかったと思います」。これまでにやってきた仕事である、デザインを通したものづくりと、暮らしの核となる「食」をどうにかしてコラボレーションさせたいという思いを抱くようになった。

そんな中で出会ったのが、マクロビオティックのケーキやクッキー。一般的に植物性のもののみを使用するとされるマクロビオティックの食品に、ケーキやクッキーなどの焼き菓子が含まれていることに驚いたという大介さん。動物性のものを使わなくてもお菓子を作ることができるという事実は、夫妻にとっての好奇心の対象となった。

「初めから興味があったわけではないんですが、この先は食がキーワードになるだろうな~ってことはぼんやりと考えていて」。食に関わることをこの先の仕事にしていきたいと考え、その取っ掛かりとしてお菓子作りを選んでからは、長い長い試行錯誤の日々。まずはスタンダードな材料とレシピで作り、その後で、少しずつ材料を植物性のものに入れ替えていく。その繰り返し。「卵の代わりになるものは何だろうとか、牛乳の代わりになるものは何だろうとか、ひとつずつ考えて、その配合も変えながら作っていくんです」。

我慢しなくていい、ストレスフリーなお菓子

多少なりともお菓子作りをしたことのある人ならばきっと、卵や乳製品が入らない焼き菓子がどんなに珍しく、そして難しいことかはすぐに想像がつくことと思う。おそらくまったくの素人だったとしても、ケーキを膨らませるには卵やバターが欠かせないことくらいは想像できるだろう。マクロビオティックの世界には、動物性のものを使わない焼き菓子のレシピがいくつもあるようだが、たとえそれを参考にしたとしても、不可欠と思われている材料を別の(植物性の)もので代用するのだから、オリジナルレシピを作るのはたやすいことではない。

さらに、代用品とその配合を研究する一方で、大介さんにはどうしても実現したい目標があった。それは、植物性の焼き菓子を食べた際に感じる「物足りなさ」の解消だ。乳製品を使ったお菓子に慣れ親しんでいる私たちにとって、植物性の材料のみだと、味の面でどうしても物足りなさを感じてしまう。けれど「我慢はしたくなかった」と大介さん。自身を「ゆるい」ベジタリアンと称するだけあって、無理をして決まったものだけを食べたり、食べたいものを我慢したりするわけではなく、楽しく、ストレスなく続けられるような食生活を目指している。

だからこそアマムエクルのお菓子も、「植物性だから」「身体に優しいから」という理由だけで選ばれるのではなく、「味がおいしいから」「進んで食べたいから」という理由で選んでもらえるように、卵や乳製品を使った焼き菓子と比べて味や見た目に何ら遜色ないものを作れるまで、研究に研究を重ねたのだ。そうしてやっと納得のいくものができ、商品として販売を始めたのは、菓子作りを始めて4年後の、2011年夏のことだった。

口コミでの広まりが、おいしさの証

ネットによる通信販売のみで、広告や宣伝を一切していなかったため、当初注文はそれほど多くはなかったという。けれど最近になって、口コミでゆっくりゆっくりと知れ渡るようになり、十勝管内の雑貨店でのイベントに出店したり、同じく管内の温泉ホテルの客室用茶菓子として使われたりと、その人気はじわじわと広まりつつある。今でこそ仕事内容はお菓子作りがメインになっているが、大介さんは音楽制作の仕事も行ってきたため、もし構想が実現すれば、朋子さんが手がけるインテリアなどの空間作りのほか、店で流す音楽までも、総合的にプロデュースすることが可能なのだ。まずはその第一歩として2013年4月に始めたのが、工房の玄関先でのささやかな店頭販売。その後、工房の隣に小さな店舗を構えた。

暮らしを無理なく、楽しみながら

岩本夫妻の話を聞いていて、終始感じたのは、この暮らしを楽しんでいるということ。動物性のものを一切使わないと聞き、初めに思い浮かんだのは「我慢」という言葉。けれど、2人の語り口からはそんな雰囲気は一切感じられなかった。「これしか食べない!」と決め込むのではなく、無理なく、楽しく、できる範囲で動物性のものを植物性のものへ変えていく暮らし。

そんな大介さんに、何故動物性のものを摂らないよう心がけるようになったのか質問しても、確たる答えは返ってこなかった。「身体にいいから?」「野菜が好きだから?」きっかけはいろいろあるのだろうけれど、4年も研究して作り上げたレシピに関しても、ニコニコ顔で「何でだろうな~、でも、できちゃうんです」なんていう姿を見ていると、何かを摂らないことで得られる見返りよりも、摂らずにどこまでできるか考えることを、2人は楽しんでいるのではないかと思えた。

当たり前のことだが、人は食べなければ生きていけない。「食べ物が人を作る」ということは、誰もがわかっていながら、好き嫌いや手間ひまを考えて疎かにしてしまう。健康的な食生活ほど手間がかかると考えている人も多いのではないだろうか。けれど、岩本夫妻の作り出すお菓子は、我慢とは無縁、むしろ積極的に選んで食べたいし、大切な人にも食べてもらいたい。
(掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更が発生する場合がありますので、最新の情報は各店舗・各施設にお問い合わせください。)

通信販売

季節の焼き菓子セット(小)→https://www.n-slow.com/shopdetail/000000000492/
季節の焼き菓子セット(大)→https://www.n-slow.com/shopdetail/000000000499/

amamuëkle【アマムエクル】

住所 音更町木野西通19-23
電話 0155-67-8047
※店頭販売の詳細については、HPを参照するか、直接お問い合わせ下さい。
URL  http://www.amamuekle.jp

スロウ日和|北海道の、寄り道ライブラリー

メイドイン北海道のウェブメディア「スロウ日和」。心があったまる、人・店・景色に出会うためのとっておき情報を、本棚(ライブラリー)形式の特集でご紹介。創刊18年の雑誌『northern style スロウ』からWEBへ、私たちが大好きな北海道の豊かさを伝えます。

https://slowbiyori.com/

この記事のキーワードはこちら

SNSでシェアする

  • twitter
  • facebook
  • line

編集部ひと押し

あなたへおすすめ

エリアで記事を探す

FOLLOW US

  • twitter