2024.05.08
深める佐藤さんと西さんのような「事実婚」の夫婦は、法律婚の夫婦に比べて、実はさまざまな「壁」があります。
まず、お互いに相続権がなく、生前贈与などを行わなければ遺産を相続することができません。
ほかにも、配偶者控除や医療費控除といった税制上の優遇を受けられなかったり、夫婦としての証明が難しいため、パートナーの手術の同意書にサインができなかったりするのです。
佐藤さんは、「お互いが名字を変えたくないというだけで、なぜ法律婚から排除されないといけないのかが私はわからない」と話します。
「一緒にいて、家族になりたいって思うこと、それを国が邪魔する権利はあるんですか?」
選択的夫婦別姓を求める訴訟は今回が全国で3回目。
最高裁は、2015年と2021年に「現在の制度は憲法違反ではない」として、訴えを退けています。
しかし、選択的夫婦別姓を求める声は年々高まっています。
2021年、内閣府が18歳以上の男女約2900人を対象に行った調査では、「婚姻による名字・姓の変更で何らかの不便・不利益があるか」という問いに対し、女性の55.5%が「不便・不利益がある」と回答。
30代では最も多く、70%を上回りました。
さらに、「現在の夫婦同姓制度を維持するべきか」という質問に対しては、「維持した方がよい」と回答した人は27%。
これに対し、「旧姓の通称使用について法制度を設けた方がよい」と答えた人が42.2%、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」と答えた人が28.9%と、いずれも上回りました。
原告でもある西清孝さんは「この問題は女性の問題とされがちですけど、結婚する、結婚しようと思っている全ての人が当事者。男性にも選択的夫婦別姓を自分ごととして、考えてもらいたい」と話します。
実現を望む世論の声は高まる一方、長く国会での議論は進んでこなかった現状。
駒川智子教授は「本当にどうしてこんなに長くかかっているのだろう」と率直に話します。
夫婦が自分の望む姓を選べばいいという声は若い人ほど多くなっています。
「社会でこれから活躍をしていくこの人たちの声を全く無視していいとはなりません。それは日本の社会をどんな未来へと描いていくのか、ということと関わっているのではないかと思います」
幸せの形はさまざま。
色々な価値観を認め合える。
そんな社会になっていこうとしている私たちの今。
駒川教授は「一つの枠に当てはめるのではなくて、選べて全てそれが保障されていくっていうことは大事なのではないでしょうか」と問いかけます。
選択的夫婦別姓をめぐる司法の判断は、「3度目の正直」となるのでしょうか。
札幌での裁判は、まもなく第一回の口頭弁論を迎える見込みです。
******
取材協力:北海道大学教育学部 駒川智子教授(労働社会学)
ジェンダーの視点から労働をみることを通じて、多様性が認められる社会の実現に向けて、何が必要なのかを研究。
2024年1月、「キャリアに活かす雇用関係論」を出版。編者として就職から始まるキャリアの形成過程をジェンダーの視点から分析し、現状・課題・解決への道筋を示す。
******
文:HBC報道部記者 三栗谷皓我
編集:Sitakke編集部あい