その夕張高校で今春、入学者数が久しぶりに増加に転じました。と言っても、定員40人に対して26人の入学ですが、その中には札幌からの入学者が2人と埼玉県からの入学者が1人含まれる珍事です。理由は最寄りの中核都市、岩見沢市への路線バスが減って進学校への通学がし辛くなったことも一因とみられていますが、魅力化プロジェクトの一つして生徒を初めて全国公募したことが形になりました。
では、この入学者数の増加は手放しで喜ぶことができるのか?プロジェクト開始から8年目を迎えるまでにどのような人々が関わり、どのような試行錯誤があったのか?
同校の濱村隆康校長は「新入生の期待が空回りしないようにしなければならない」と表情を引き締めます。
「外にばかり目を向けていては先がありません。地元の中学生はこの先もどんどん減り、子どもの高校進学を機に岩見沢や札幌へ家族ごと引っ越す家庭が少なからずあります」
「これまでは手を付けてこなかった地元の中学校や高等養護学校と連携を図り、生徒一人一人の情報を共有し、地元で育った子どもたちをちゃんと受け入れることができる、つまり地元の子どもたちに選択される高校にならなければなりません。市外や道外から生徒が来てくれたことはもちろんうれしいですが、多様な生徒を受け入れることができる学校になるには、何を優先させなければならないのか、課題はたくさんあります」
「生徒にはここで『できること』と『できないこと』を見極めてもらい、少しずつ成長してもらいたい。その見極める力を養うことも夕張の魅力と捉えて様々なことにチャレンジしてもらい、生徒の活動を後押しできる学校でありたいと思っています」
同校は去年、学校の魅力化と地域の連携を図る探究型の授業として、地元の夕張メロンの出荷に関わる課題解決に取り組み、評価を得ました。授業では、メロンを畑から消費地へ送る際、輸送中に熟成が進んでフードロスになることを減らすため、北海道大学が開発した「プラチナ触媒」を鮮度の保持に利用できないか、実証実験を行いました。その結果、プラチナ触媒を使って冷蔵すると1か月以上保存できることを確認し、運搬のためのバッグも考案して、フードロスの削減に関するコンテストで最高賞を獲得しました。
道立高校の存続に市が主体となって関わる背景には、高校の有無が自治体の存続そのものを左右しかねないとする危機感があるためです。魅力化の授業は、地元の特産品が抱える課題に解決の一助を示し、地元校の存在感を示しました。
しかしこの成果は、市と高校と地域の人たちのさまざまな試行錯誤があってのことで、この先の新たな課題も出て来ました。
⇒(第2話)行政と教育現場をつなぐのは…【連載】夕張は倒れたままか?
◇文・写真 HBC油谷弘洋