2024.04.09
出かける一般的に、カフェをオープンするには、カフェの場所決めから、商品のコーヒーの仕入れ、カフェや塾の運営を行う人手の確保…用意しなければならないことは、多岐に渡り、時間もかかります。
平野さんが、「喫茶こともし」のアイデアを構想したのは、2022年10月。
そこから、2023年5月にオープンを迎えるまで、たったの約半年ほどでカフェオープンを実現したといいます。
平野さんは、いったいどんな裏技を…!?
「(2022年の)10~11月くらいには僕は『E-LINK』のメンバーにこの構想を話してて、1月にこの建物のオーナーさんと会って、そこから、たたたたたーっと進んで。」
まず、場所を貸してくれたのが、平野さんのやりたいことに共感してくれたビルのオーナーさん。
実は後に、「正直収支の見立てはだいぶ甘いと思ってたよ(笑)」と言われたのだそう。それでも平野さんの描く「“新しい形”のカフェ」に共感してチャレンジさせてくれたといいます。
コーヒー豆の提供は、三本珈琲という会社。
「コーヒー豆を活用して、子どもたちの助けになりたい」という思いが一致し、品質には問題ないものの、箱詰めなどの過程で出た端数を、お店に提供してくれることになったんだそうです。
「こともしをオープンできたのは、たくさんの“おせっかい”な方々の協力のおかげです。応援の気持ちで協力いただけたのは、本当にありがたいことだなあと思いますね」
あたたかい“おせっかい”を噛み締めるように当時を振り返る、平野さん。
そんな平野さんのもとには、これまた“おせっかい”なスタッフたちが集まったのです。
カフェの店員として働いているのは、大学生と大学院生の2人です。
もともと平野さんの知り合いで、偶然にも同じ某有名カフェチェーンで働いていた2人でしたが、平野さんの想いに共感し、大学に通いつつ、こともしで喫茶店のスタッフをすることになったといいます。
こちらは、そのうちの一人。
塾長兼、カフェスタッフとして働く今村太一(いまむら・たいち)さんです。
今村さんは、北海道大学工学院に所属する学生です。
もともと、平野さんの娘の家庭教師をやっていたという今村さん。
「喫茶こともし」で塾を開くことになった際に、平野さんが今村さんに声をかけたそうです。
「勉強を教える時、目に見える成績をあげることが求められがちだけど、太一くんは、つまづいている所をなくすことという根本に目が向いていたんです。それがすごくいいなと思って」と、平野さん。
今村さんは、「喫茶こともし」で、塾の開校時間は、塾長として授業をしています。塾がないときも、カフェスタッフとして働き、自主的にお店をカフェ利用する子どもたちの様子を見守っているといいます。
取材の日もいらっしゃったので、本人からもお話を聞くことができました。
私「カフェで塾の授業を行うことで、子どもたちにとってなにか良い影響はあるのでしょうか?」
今村さん「ありますね。そもそも、学校での勉強が楽しくない子にとっては、同じ形式でやる塾での勉強も楽しくないと思うんですよ。小学校のうちから勉強ができるように頑張ることも大事だけど、まずはなにより、勉強すること自体のハードルを下げたいなと思っています」
今村さんは、勉強が嫌いな子がつまずいている原因を解消するため、個別・少人数指導の方式をとっていて、一度に担当するのは3人以下だといいます。
塾が開校されるのは、学校でもなく、塾でもなく、大人も子どもも集う喫茶店。「喫茶こともし」の、いい意味で「塾らしくない」雰囲気も、勉強が嫌いな子の勉強へのハードルを下げるためにいい働きをしているようです。
塾の時間以外も、子どもたちから「太一くん!」と話しかけられ、慕われているのを目にしました。
カフェ店員として働いている時も、お客さんと賑やかにおしゃべりしつつも、「自習をする子どもたちがやっぱり気になる」という今村さん。
ついつい覗き込んだり、やる気が出ない子には少しずつ前に進めるように声をかけたりしている優しいようすは、さすが“おせっかい”な店員さんです。
もう一人、喫茶こともしでカフェ店員として働く竹田真唯(たけだ・まい)さん。
藤女子大学人間生活学科で、プロジェクトを企画・運営するための手法を学んでいます。現在は、「えなが」というペンネームで料理家として活動しています。
Xのフォロワーはなんと15万人!過去にはレシピ本も出版し、今年の4月からはラジオのパーソナリティーにも挑戦するとのことで、大活躍中の竹田さん。
竹田さんは、平野さんが現在関わっている、探究授業のいわば「0期生」だそうです。
高校で、探求授業を受ける前は、やりたいことが特になかったという竹田さん。探求授業をきっかけに、様々な人に出会い、その縁で地域のマルシェに参加することになったといいます。
「マルシェで、北海道のりんごを使ったアップルパイを提供したんです。みんなに喜んでもらえたのが、すごく嬉しくて」。
それから「食を通じて地元に恩返しがしたい」という思いを持ち、そのために必要な事を学ぼうと進路を変えたそうです。
いま、様々な分野で大活躍している竹田さんですが、それはきっと、これまで出会った大人たちからもらった助言や後押しなどの”おせっかい”があったからこそ。
いまでは竹田さん自身が、「こともし」で働きながら、お客さんの挑戦を応援する立場となって、様々な縁を繋いでいるそう。 すっかり”おせっかい”な店員さんです。
様々な人の“おせっかい”な思いが集まって、オープンすることができた「喫茶こともし」。今ではお客さんから“おせっかい”が届くことも多いのだそう。
一人の“おせっかい”なおばあちゃんのエピソードを、平野さんが話してくれました。
ある日、近所のクリーニング店で、クリーニングを待っているおばあちゃんが、ふらっとお店に立ち寄ってくれたといいます。
おばあちゃん「ここは入れるの?」
平野さん「どうぞ~」
そんな会話だけ軽くかわし、おばあちゃんはカフェオレを頼んだそうです。
そのとき、平野さんは、カウンターで高校生の子の悩み相談を受けていました。どうやら、そのおばあちゃんも、ちらっと話を聞いて事情を察したようです。
「生きてるとね、大変なことあるよねぇ。でも生きてるといいことあるから。必ず返ってくるから」
おばあちゃんは、そうやって高校生に声をかけてくれたそうです。
「私、遠くてなかなか来られないんだ」
おばあちゃんは、そういいながらも、その次の日、お店がオープンする前に、そっと差し入れを置いて行ってくれたといいます。
それからも、そのおばあちゃんは、時折そっと差し入れを置いていっては、
「この喫茶店は、いいことやっているから、長く続けてほしい」と、平野さんに声をかけてくれるといいます。
取材を通し、平野さんたちのお話を聞いていると、私もあたたかい気持ちになりました。誰かのためにやってあげたいという思いが、こんなにもたくさん集まる場所はなかなかないように思います。
最後に、こんな質問を平野さんにしてみました。
私「こともしを一言で言うと、どんな場所ですか?」
平野さん「“おせっかい”集めをしている場所ですね。“おせっかい”という言葉をポジティブなイメージに変えていきたいと思っています」
「“おせっかい”って、本当は相手を思いやる気持ちからする行動だと思うんです。子どもたちはもしかしたら望んでないかもしれない。でも大人は応援したいんですよね(笑)それを表すなら“おせっかい”かなと。そんな思いを込めて、お店のコンセプトを決めました。 このお店で誰かのためにすることには、見返りを求めずに済むんです、だって僕たちの“おせっかい”だから(笑)」
「喫茶こともし」があるのは、札幌中心部でありながら、二条市場やお寺など古き良き文化の残る創成側東エリア。
「新幹線開通に伴う町開発によって、古き良きものと新しいものが絶妙に入り混じるこの地域には、下町感があるんですよ。この町だからこそ、生まれる“おせっかい”って、きっとあると思います」と、平野さん。
困っている人を見た時、皆さんの中の思いやりの気持ちが反応しつつも、行動に移す勇気が出ないことはありませんか。
後になって「また、勇気が出せなかったな」と思ったことはありませんか。
そんなときには、ぜひ、「喫茶こともし」を訪れてみてほしいです。
このお店に来てコーヒーを一杯頼む。それだけで子どもたちへの”おせっかい”に繋がります。
そして、あなたも気づけば、
小学生に勉強を教えてあげているかも。
悩める中学生の相談に乗っているかも。
みんなに差し入れを持っていっているかも。
普段、心の中にしまっていた思いやりの気持ちが、ついつい素敵な、おせっかいの行動に繋がっていくと思います。
「喫茶こともし」。
ここはとても、「おせっかいな喫茶店」です。
なぜならここは、“おせっかい”な店主とスタッフが、訪れた人の“おせっかい”を引き出してしまう、不思議な空間だからです。
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※2024年1月時点の情報です。最新の情報は施設のHPをご確認ください。
◆喫茶こともし
〒060-0052 北海道札幌市中央区南2条東3丁目
Instagram @ kotomoshi_elink
文・取材:Sitakke学生ライター講座受講生 いーがん
編集:Sitakke編集部 ナベ子