まだ電力が復旧していない時点での宮脇局長のデスクまわり。自家発電から最低限の照明とメールが使えるPCとプリンター、ポータブルTVを立ち上げて情報収集と番組放送に臨んだ。

前述した通り、FMいるかは地震発生の直後から緊急放送を開始した。自宅から着の身着のままでスタジオに駆けつけてマイクの前に座ったのは、局から車ですぐそばの町に暮らす局長の宮脇寛生さんだ。

放送ではJアラートからの確実な情報を繰り返しアナウンスしながら、ついさっき自宅から局までの道すがら得たわずかな視覚情報を自分の言葉で伝えた。

「停電直後から朝〜昼〜晩と、時間の経過とともに集まる情報と求められる情報のフェーズがどんどん変わっていきました。まず最初は圧倒的に電気・水道の復旧に関する情報、やがてガソリンスタンドの営業情報、そして電気が復旧し始めるとスーパーやコンビニでの販売状況の情報、といった流れです。
SNSをチェックすると『ここは営業してましたよ』とか『あそこの店にはこんなものが売ってます』といった投稿は散見されたんですが、裏が取れていない以上うちとしては流すことはできないですよね。かといって一つずつ真偽の確認をとってからだとあまりに時間がかかる。
そのかわり、リスナーから直接届いた情報は信頼の上で流しました。これって普段から続くリスナーとの良い付き合いとか近い距離感だからできることで、『うちのリスナーがデマなんて送ってくるはずがない』とこちら側がリスナーに寄せる信頼です」

その一方、停電直後からSNSで拡散された「函館市内で大規模な断水が行われる」というデマをFMいるかはいち早くキャッチし、水道局に真偽を確認。
生放送で繰り返しこの情報が誤りであることを明確に伝えたことで「いるかが言うなら間違いない」と、市民を不安にさせたデマの拡散は沈静化していった。

信頼と距離感。これこそが、小さな街で30年間地域に親しまれてきたこのラジオ局の強みであり真髄だ。そして、そのことが有事になって改めて証明された。

平時のFMいるかのオープンスタジオ。(撮影/2021年10月)

もう一つ、局とリスナーの関係を示す象徴的な出来事があった。それは、まだ大半のエリアの電気が復旧されていない6日夜のことだ。

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