2023.09.28
深める札幌の繁華街、すすきのにネオンが灯る頃、その学舎(まなびや)に人々が通学して来ます。札幌市立星友館中学校は、すすきのに隣接する一角に、去年4月開校した北海道で唯一の公立夜間中学校です。高齢者、不登校経験者、外国出身者…通うべき時期に中学校へ行くことができなかった人たちが在籍しています。10代から80代までの多様な老若男女が、中には過酷な体験をした人が、夜の帳(とばり)の降りた校舎に机を並べています。
なぜ学ぶのでしょうか?なぜ学ぶことができなかったのでしょうか?何を求めて集うのでしょうか?星空の下、学び直しをする人々のそれぞれの事情と姿をお伝えします。
⇒前回:「虐待で育ったから…」父子で通う同級生親子【連載】星のまなびや~札幌発・夜間中学校に集う人々(5)
エピソード(6)は、3時起床23時就寝…もっと勉強したい56歳です。
札幌が爽やかな初夏を迎えていた5月26日(水)、星友館中学校の体育館では、夜間の照明が灯り、スポーツ交流会が行われていました。全学年の生徒が一緒に体を動かし、クラスが違う生徒とも交流を図る体育の授業の1コマです。
競技は、10代から80代までの多様な生徒が無理なく参加できるようにと、卓球、的当て、ダーツ、玉入れなどが用意されました。
各コーナーでは、点数が入るたびに歓声が沸き、生徒も教員も境なく運動に興じる中で、生徒の様子に目を配る生徒がいました。
金澤カマルさん(56歳)は、星友館中学校の開校と同時に去年入学した生徒のリーダー的な存在です。バングラディシュ出身で、1988年、21歳の時に仕事を求めて東京に初来日しました。バングラディシュでは「田舎で、兄弟が多い中で育ちました(本人談)」というカマルさんは、母親に「勉強することだけは、誰にも奪われることはないよ」とよく言われていました。しかし当時その言葉の重みはわかっていませんでした。
「日本に来て働き始めて、お母さんの言葉が全部自分にはね返って来ました」。
東京で苦労を重ねる一方、日本人の女性と出会って結婚し、後に札幌へ移り住みました。そして仕事の傍ら自主夜間中学の札幌遠友塾に3年間通い、星友館中学校に移って2年目を迎えています。
今の仕事はホテルの朝食会場のサービス係で、起床は毎日午前3時です。仕事の後は帰宅して家族の食事をつくった後、「ちょっと休んで(本人談)」、授業が始まる1時間以上前の午後4時過ぎには登校します。
「ここに来ている人はみんな、何かしら過去を持って来ているんです」。「人は一人では何もできない。でも、一人ではできないことも、例えば重たい荷物も、仲間がいれば運ぶことができるでしょ?」。
「最初はみんな不安で、名前も知らない関係から始まるんです。私もそうでした。だから、今はみんながコミュニケーションを取れるよう、つながることができればいいなと思って、よく話をするんです」。
【連載記事のラインナップ】
●プロローグ 開校2年目の夏~札幌市立星友館(せいゆうかん)中学校
●エピソード(1)モロッコと清龍~異国で生まれ育ったある日本人の場合 その1「思い出したくもない過去」
●エピソード(2)モロッコと清龍~異国で生まれ育ったある日本人の場合 その2「奇跡の来日」
●エピソード(3)農作業と入院~少女時代を取り戻す82歳と72歳の青春
●エピソード(4)同級生の前にさらされて…不登校経験者・Y(19歳)
●エピソード(5)「虐待で育ったから…」父子で通う同級生親子
●エピソード(6) 3時起床23時就寝…もっと勉強したい56歳
●エピソード(7) モロッコと清龍~異国で生まれ育ったある日本人の場合・その3「再びホームレスと…」
●エピソード(8)「自主」と「公立」~交流で“生きた学校”として変わり続ける”まなびや”