2023.09.13
暮らす道東の標茶町・厚岸町で、60頭以上の牛を襲っていたとみられるクマ、通称「OSO(オソ)18」。 7月末に駆除されたことが分かりました。
これまでOSO18を追い続けてきたハンターは、さらに危険なクマがいるのではないかと警鐘を鳴らしています。
これまでの「OSO18」を振り返り、これからの対策を考えます。
連載「クマさん、ここまでよ」
牛が初めて襲われたのは、2019年7月、道東の標茶町のオソツベツ地区。
放牧中の1頭が、背中を引き裂かれていました。
現場の地名と、足跡の幅が18センチだったことから、このクマは、コードネーム「OSO18」と呼ばれるようになりました。
出没1年目の2019年、標茶町で、あわせて28頭の牛が襲われました。
1頭、数十万円とすると、単純計算で1400万円以上の被害になります。
地元は、駆除に向けて「OSO18」の行動の把握に乗り出します。
しかし、監視カメラに姿が映るのは、わずか数回。 しかも、決まってハンターが銃を使えない夜の時間帯でした。
「OSO18」は、牛の襲撃を重ねるうちに、捕獲の網をすり抜ける術を学習していました。
深夜から明け方にかけて、放牧中の牛だけをねらい、沢などを移動し、足跡をほとんど残さないのです。
北海道猟友会標茶支部の後藤勲支部長は、去年8月の取材で「多くのクマは『自分の餌だから』と普通はそこから逃げないでいるけど、OSO18は関係なしに食べては逃げていなくなってしまう。われわれハンターは、ここが餌場だから寄って来るだろうと待ち構えるが寄って来ない。それだけ利口だということ」と話していました。
道東の広い酪農地帯を縦横に移動し、出没3年目の2021年以降は、隣の厚岸町にも被害が広がりました。
地域の酪農家は、クマの侵入を防ぐ電気柵を設置するなど、対策にあたります。
厚岸町の町営牧場では、2022年、周囲23キロにわたり、電気柵を設置。 2023年はさらに、5.5キロ増設しました。
牧場長は、「牧場全部を囲うのはそもそも無理。標茶町との境界のほうを重点的に、全放牧地の約4分の1を囲えば、何とかディフェンスできるかな」と話していました。
標茶町は「OSO18」の行方を追うため、町有林の16か所にセンサーカメラやヘアトラップを設置しました。
しかしことしも、「OSO18」による被害が…。
2023年6月24日午前9時20分ごろ、標茶町上茶安別の牧場の敷地内で、乳牛1頭が死んでいるのを、見回りをしていた牧場主が見つけました。
北海道によりますと、この牧場では夜間に乳牛を放牧していて、前日に見回りをした際は異常は確認されなかったということです。
乳牛は右の前足が折れ、腹部が裂かれていて、背中と肩の一部に食べられた痕跡がありました。
現場に残されたクマの体毛を鑑定した結果、「OSO18」による被害と確認されました。
2019年以降、確認されているOSO18による被害は、66頭目となり、32頭が死んだことになります。
自治体の担当者や専門家らは、対策会議を開いて、周辺に「くくりわな」を設置、捕獲する対策を試みることとしました。
8月22日午後に会見を開いた北海道釧路総合振興局によりますと、7月30日午前5時ごろ、釧路市の隣の釧路町で、ハンターがクマ1頭を駆除しました。
駆除されたクマは、体長が2メートル10センチ、前足の幅が20センチ、推定体重は330キロほどあり、手足に皮膚病がありました。
駆除の報告を受けた釧路町は、念のためDNA鑑定を道に依頼し、その結果、OSO18であることが判明しました。
2022年に「OSO18」に乳牛が襲われた厚岸町の酪農家は、駆除の知らせに「一安心した。牛を追いに行くときに怖がらずに行けるようになった」と話していました。
北海道大学大学院獣医学研究院の坪田敏男教授は、「人に対してどう対応すればいいか、十分に学習しているクマ。ちょっと変わったクマだった」と話します。
クマはドングリなどの木の実が主食で、牛を襲うのは、珍しいケースです。
なぜ「OSO18」は、牛に執着したのか。
坪田教授は、「厚岸町や標茶町はクマが生息するにはいい環境ではない。食べ物がたくさんある森林ではなくて平地が広がっている。OSO18はかなり放浪して、自分の餌を食べられる場所を学習して、『牛を襲う』という新たな戦略を獲得してうまく生き残ってきた」と分析します。
第2の「OSO18」を生み出さないためには、どうしたらよいのでしょうか?
坪田教授は、「すべての放牧地を電気柵で囲うのは難しい。牛の放牧管理をきちんとするということで、何日かに1回は牛舎に収容するとか、毎日カウントするとか、きめ細かい対応は必要になると思います」と話していました。
4年間OSO18を追い続けてきた地元・標茶町の猟友会の後藤勲支部長は、「どこ行くにしても携帯電話を肌身離さず、犬の散歩行くにしても持って歩いていた。農家の人たちに安心して、と報告できるのかな」と話します。
警戒心が強く、人前に姿を現さなかった「OSO18」。
駆除されたとき、顔に傷があったことから、猟友会は、「OSO18」よりも強くさらに危険なクマがいるのではないかと危惧しています。
後藤支部長は、「違うクマと争ってけがをして、そのけががもとで弱ったんじゃないかと。裏を返すとまだまだOSO18以上のクマがいるということを認識しなければいけない」と話します。
OSO18を駆除したことで、釧路町役場には、「これで安心できる」「ありがとう」など激励、感謝の声が10件ほど寄せられたといいます。
一方で、「なぜ殺したのか」「共存できなかったのか?」「捕まえて森に放すほうが良かったのでは?」など、主に道外から苦情が数十件寄せられました。
現場を知る猟友会は、「クマとの共存」に高いハードルを感じています。
後藤支部長は、「1回標茶町に住んでみてください、現場見てくれと言いたい。われわれだって面白半分でクマを追っているわけじゃない。共存なんてできるわけない」と話します。
簡単には実現しない、人とクマの共存。
だからこそ、第2、第3のOSO18を生まないために、早急な対策が求められています。
連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の情報は取材時(2019年~2023年7月)の情報に基づきます。
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