2023.09.28
深める札幌の繁華街、すすきのにネオンが灯る頃、その学舎(まなびや)に人々が通学して来ます。札幌市立星友館中学校は、すすきのに隣接する一角に、去年4月開校した北海道で唯一の公立夜間中学校です。高齢者、不登校経験者、外国出身者…通うべき時期に中学校へ行くことができなかった人たちが在籍しています。10代から80代までの多様な老若男女が、中には過酷な体験をした人が、夜の帳(とばり)の降りた校舎に机を並べています。
なぜ学ぶのでしょうか?なぜ学ぶことができなかったのでしょうか?何を求めて集うのでしょうか?星空の下、学び直しをする人々のそれぞれの事情と姿をお伝えします。
⇒前回:同級生の前にさらされて…不登校経験者・Y(19歳)【連載】星のまなびや~札幌発・夜間中学校に集う人々(4)
エピソード(5)は、「虐待で育ったから…」父子で通う同級生親子です。
「虐待で育ったから…」。臆することなく、そう話し始めた札幌の布施寿浩さん(43歳)は、4月に入学した20人の新入生の1人です。息子の駿太さん(16歳)も、父と一緒に入学した新入生で、2人は親子の同級生です。
父の寿浩さんは、幼いころから家族に身体的な虐待を受けて育ち、体のあざが癒(い)えない少年でした。小学生のころから学校や児童相談所、教育委員会に家のことを話すチャンスもありました。しかしどこの担当者も「そんなことあるか?」と疑ったそうです。そこで体を見せると、「骨が折れてるわけではないからね」と言われました。さらには「親が望む子どもになれ」と言われたそうです。
「大人は子どもの話に聞く耳を持たない」。
「学校への親しみはわかなかった」。
10代の少年には、絶望的な対応でした。大人は皆、自分の立場だけで考えているにように見えました。時代はバブル景気が崩壊してゆく90年代前半で、社会が荒れる中、寿浩さんの心もすさみ、「ヤバいこともしたよ(本人談)」と振り返る日々を送りました。
息子の駿太さんは小学生の頃、YouTubeに興味を持ち、ゲームに関する情報発信をして報酬を得るくらいの登録者数が付いていたことがあります。
当時、駿太さんは「気が弱い性格で、他人の中で過ごすことが得意でない(父・寿浩さん談)」状況でした。そのため情報発信は、社会とつながり、そのことの緩和に良い影響を与えるかも知れないと、父の寿浩さんは見守っていました。ところがその様子に、当時通っていた小学校から、報酬を得ていることを理由に発信を止めるよう言われました。以来、駿太さんは学校を休みがちになって、時を過ごしていました。
その後、通信制の高校へ進学する予定で準備をしていたところ、星友館中学校のことを知り、去年、説明会に父と一緒に参加して入学を決めました。そしてその説明会で、父・寿浩さんは、事情を聴いた同校の教頭、末原久史教諭から「お父さんも一緒に来てみたらいかがですか?」と一緒に学ぶことを勧められました。
【連載記事のラインナップ】
●プロローグ 開校2年目の夏~札幌市立星友館(せいゆうかん)中学校
●エピソード(1)モロッコと清龍~異国で生まれ育ったある日本人の場合 その1「思い出したくもない過去」
●エピソード(2)モロッコと清龍~異国で生まれ育ったある日本人の場合 その2「奇跡の来日」
●エピソード(3)農作業と入院~少女時代を取り戻す82歳と72歳の青春
●エピソード(4)同級生の前にさらされて…不登校経験者・Y(19歳)
●エピソード(5)「虐待で育ったから…」父子で通う同級生親子
●エピソード(6) 3時起床23時就寝…もっと勉強したい56歳
●エピソード(7) モロッコと清龍~異国で生ま れ育ったある日本人の場合・その3「再びホームレスと…」
●エピソード(8)「自主」と「公立」~交流で“生きた学校”として変わり続ける”まなびや”