2023.09.09

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同級生の前にさらされて…不登校経験者・Y(19歳)【連載】星のまなびや~札幌発・夜間中学校に集う人々(4)

なぜ学ぶのか?なぜ学ぶことができなかったのか?

繁華街・すすきのに隣接する校舎

札幌の繁華街、すすきのにネオンが灯る頃、その学舎(まなびや)に人々が通学して来ます。札幌市立星友館中学校は、すすきのに隣接する一角に、去年4月開校した北海道で唯一の公立夜間中学校です。高齢者、不登校経験者、外国出身者…通うべき時期に中学校へ行くことができなかった人たちが在籍しています。10代から80代までの多様な老若男女が、中には過酷な体験をした人が、夜の帳(とばり)の降りた校舎に机を並べています。

なぜ学ぶのでしょうか?なぜ学ぶことができなかったのでしょうか?何を求めて集うのでしょうか?星空の下、学び直しをする人々のそれぞれの事情と姿をお伝えします。

⇒前回:農作業と入院…少女時代を取り戻す82歳と72歳の青春【連載】星のまなびや~札幌発・夜間中学校に集う人々(3)

エピソード(4)は、同級生の前にさらされて…不登校経験者・Y(19歳) です。

同級生の前にさらされて…

校舎の前に建つ二宮金次郎像

星友館中学校が去年開校した時の1期生の1人が、Yさんです。19歳の男性で、不登校を経験しました。
穏やかな表情ながら、私を見据えて、ここまでの道のりをゆっくりと語りました。

勉強は小学生の頃から苦手で、授業のペースについて行けないことがありました。中学校に進んでからはバトミントン部に入り、生活委員会の活動も始めました。帰宅後は疲れて予習や復習に手をつけられない日が多く、授業がわからなくなって欠席が増え、学校が遠い存在になって行きました。当時、最も辛かったのは、授業で黒板の前に出て問題を解かされることでした。考えても考えても答えは出てこず、そんな姿で同級生の前にさらされていることが「きつかった。配慮してほしかった(本人談)」そうです。

それでも中学校は卒業した形となり、定時制高校に進学しましたが、1か月で退学しました。それは親と対立する原因となり、ひきこもり、時には暴力的になることもありました。そして家を出て、アパートで一人暮らしを始めました。家賃は母親が支払ってくれました。以来、アルバイトだけをしながら過ごす日が続きます。

24万人超…小中学生の不登校が過去最多

校章

文部科学省の最新の調査によりますと、小中学生の不登校は24万4940人(2021年度)です。この数字は前年度(19万6127人)から24.9%大幅に増えて過去最多となり、初めて20万人を超える状況となりました。
不登校が大幅に増えた背景について文科省は、「児童生徒の休養の必要性を明示した教育機会確保法の趣旨の浸透」「新型コロナウイルスによる生活環境の変化」「コロナ禍のもと学校生活においてさまざまな制限があるなかで、登校する意欲がわきにくい状況」などが考えられるとしています。

また、その要因について文科省は、児童生徒本人の「無気力・不安」が49.7%で最も多いとし、次いで児童生徒本人の「生活リズムの乱れ・あそび・非行」が11.7%などで、最も少ない要因は「いじめ」の0.2%としています。この調査については、教員が回答しているため、実態に即していないという批判もあります。

「もっと早くに出会いたかった」

校舎

Yさん(19歳)は、たまたま見たネットの情報で星友館中学校のことを知りました。書店の倉庫で本の整理をしたり、出荷の調整をするバックヤードでのアルバイトがYさんの仕事です。「高卒の資格がほしい(本人談)」と感じていて、その思いが呼び覚まされ、アルバイトを続けながら去年入学しました。高校を1か月でやめてから3年目のことでした。

「勉強のレベルをそれぞれに合わせて対応してくれるのが、すごくいいんです」。「いい学校に出会ったと思います。もっと早くに出会いたかったです」。
星友館中学校では上級レベルの「チャレンジコース」に在籍して、勉強の理解が進んでいるそうです。次の目標は高卒認定試験を受けることで、「それも現実的になって来ました(本人談)」と話します。

(イメージ)

「ここ(星友館中学校)には『自分だけではない』と感じる安心感があるんです」。
「クラスには年上の人もたくさんいて、話しやすいんです。趣味のバイクの話で盛り上がったりするんです」。
Yさんは4月にバイクの免許を取り、休みの日にはツーリングに出かけたりしています。将来は警察官になって、白バイ隊員として働きたいと思っています。

警察官を志望するきっかけは、不登校を経験した時のある日のことでした。家に引きこもっていて母親とけんかになり、自ら警察に通報して仲裁してもらったことがありました。その時の警察官の対応が心に残り、「同じような少年の気持ちは、自分がよく理解できるのかな(本人談)」と感じました。それは、自分にもできることがあるように思えた経験でした。
その後、Yさんは母親と和解し、時々実家に帰りながら、アルバイトと学び直しを続けています。

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「不登校新聞」編集長・茂手木涼岳(もてぎ・りょうが)さん(42歳)

不登校を自らも経験し、現在、不登校に関する情報を発信している「不登校新聞」の編集長、茂手木涼岳(もてぎ・りょうが)さん(42歳)に聞きました。

「小中学生の不登校の数が過去最多となったことについては、取材をしている感覚では、学校がストレスフルな環境になっていることがあります。教員は忙しく、担任を校長や教頭が兼務している所もあって、目が行き届いていない。また、“脱ゆとり教育”の影響でいじめが低年齢化していることもあるようです。そもそも不登校自体は問題でありません。不登校で子どもや親が苦しむことが問題なんです。不登校の子には、落ち着くことができて、『ここに居てもいいんだ』と感じてもらう場が必要です。親も自信がないんです。子育てには正解がありませんから。

子どもが不登校になると、親はママ友などのコミュニティから出されて孤立してしまいますので、そうした親に私たちは『親コミュ』というオンラインでつながって、まずは『お子さんをじっくり抱きしめて下さい』と伝え、様々な体験談を共有しています。夜間中学には、私もかつてボランティアとして生徒さんや教員のサポートをしたことがありますが、これから入学する人たちに向けて、例えば不登校経験者や外国出身者がそれぞれどれくらいの割合在籍しているかなど、細かな情報をどんどん発信してほしいと期待しています」。

***

*注1)不登校新聞:NPO法人全国不登校新聞社(東京)が発行する不登校の情報の専門紙です。1998年に創刊し、「学校で苦しむ子どもが安心して生きていける社会をつくる」ことを掲げ、不登校・ひきこもりの当事者・経験者・親の声や教育行政の動きなどを紙面とオンラインで発信し、講演や関連の出版も手掛けています。

*注2)中学校既卒者の再入学を認める措置について:文部科学省は「中学校の課程の大部分を欠席していた又はそれに準ずる状況であった等の事情により、実質的に義務教育を十分に受けられておらず、(中略)再度中学校に入学を認めることが適当と認められる」入学希望者には「積極的に入学を認めることが望ましい」という通知を、2015年に全国の市町村教育委員会に出しました。それまで既卒者は中学校への再入学を認められていませんでしたが、この通知によって希望者は公立の夜間中学校へ入学できるようになりました。

*注3)札幌市立星友館中学校は、入学を随時受け付けています。9月から12月までの間に受け付けの場合は来年4月入学となり、来年1月から8月までの間に受け付けの場合は来年5月から10月までの間の入学となります。詳細は同校へお問い合わせください。

◇文:HBC・油谷弘洋

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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