2023.08.28

ゆるむ

「奇跡」の安産…ゾウの赤ちゃん誕生!その瞬間に見えたスゴイ行動【札幌・円山動物園】

待望の出産!全国でも初めての大きな“意味”

待望のおめでたい瞬間が、ついに訪れました。

赤ちゃん(右下)が産まれ落ちた瞬間(札幌市円山動物園提供)

ゾウの赤ちゃんの誕生です。

札幌市円山動物園提供

8月19日夜、札幌市円山動物園のゾウ舎に大きな鳴き声が響き渡りました。

妊娠期間はおよそ22か月。

赤ちゃんは、産まれたてでも体重がおよそ110キロありました。

母ゾウ・パールに比べるととっても小さいけど、110キロ!(札幌市円山動物園提供)

誕生の知らせを聞いた来園者も「おめでとう!」と顔をほころばせます。

中には「ハッピーバースデー」を歌ってお祝いするお子さんも。

待ちに待ったゾウの出産は、円山動物園が北海道内で初めてです。

さらに、全国で初めてという、大きな意味も持っていました。

準間接飼育 で繁殖をしたということは、目指していたものの結果が出たかなと思う」と話すのは円山動物園飼育展示課の坪松耕太係長。

「出産をさせることだけが目的ではなく、 命を繋いでいくことが最大の目標 」と気を引き締めました。

準間接飼育…ゾウと飼育員の5年間

2018年11月、マフー(ゾウ使い)に連れられるゾウたち(札幌市円山動物園提供)

5年前、ミャンマーからやってきた4頭のゾウ。

円山動物園でゾウを飼育するのは11年ぶりでした。

当初から目指してきたのが「繁殖」です。

繁殖を目指し同居を始めたころのシーシュ(オス・左)とパール(メス)

あらたに国内最大級のゾウ舎を建設し、より自然に近い形で出産してもらおうと取り組んできたのが「準間接飼育」です。

ゾウと人が直接ふれあわず、常におり越しに接して健康管理することで、ゾウと人、両方の安心・安全を守ります。

格子が斜めになっていることでゾウの長い鼻が飼育員と接触してしまうのを防ぐ

足を出してもらうところから…「全国初」の出産へつながった5年間のゾウと飼育員の「信頼」の軌跡

妊娠の経過を観るのに欠かせない血液検査も、パールが自ら、檻の中から耳を出して協力してくれます。

「針を刺される」本来なら嫌いなはずの採血も自ら耳を出して協力してくれる

準間接飼育のもとでゾウが出産するのは全国で初めて。

私たちが普段みているゾウ舎の砂の上で、パールが自由に出産します。

職員はカメラ越しに見守るだけです。

出産時、職員たちが見守るミーティングルーム(2023年5月取材)

飼育展示課の坪松係長は、「砂の上で産まれるゾウなんて日本の映像でほとんどない」と話します。

「パールが頑張ったからとしか言いようがない」

出産が近づいた8月3日。

おなかの中をエコーで見ると、こちらにあいさつするように鼻を向ける赤ちゃんの姿が!

おなかの中から「こんにちは!」鼻の穴がくっきり見える(札幌市円山動物園提供)

そして、8月19日午後10時前、ついにパールに強い陣痛がやってきました。

砂の上を動き回るパール。

出産直前、破水し動き回るパール(札幌市円山動物園提供)

そして…赤ちゃんが産み落とされました。

午後10時39分 羊膜に包まれ赤ちゃん誕生(札幌市円山動物園提供)

産まれてみれば陣痛から1時間もかからない超安産!

パールがしきりに赤ちゃんに砂をかけたり、軽く蹴ったりするように見えるのは、赤ちゃんに呼吸や起立を促すための大事な行動です。

赤ちゃん(右下)に砂をかけるパール(札幌市円山動物園提供)

特にパールは赤ちゃんをしっかりと観察してから、いきなり足で蹴るのではなく砂をかけ、徐々に近づいて足や鼻で赤ちゃんの体を支えるようにしながら起き上がらせようとしていました。

蹴るというより赤ちゃんの体を足で支えて起こそうとしている(札幌市円山動物園提供)

出産直後にも関わらず冷静さも持っていて、もう、しっかりお母さんとしてふるまっています。

その後、最初の授乳もスムーズに始まり、本当に人の手が入らない「 ゾウのゾウによる出産 」が実現しました。

出産後、10分で立ち上がり1時間で初授乳!ちゅっちゅっと吸い付く音がしっかり飼育員の耳にも届いたそう(札幌市円山動物園提供)

本来、陣痛から出産までも10時間以上かかることも少なくありません。

無事産まれても、赤ちゃんが立ち上がるまでも数時間、授乳が始まるまでも6時間以上…なんてケースもめずらしくないのです。

パールと赤ちゃんの行動に、飼育員たちもみんな驚き、そして胸を撫でおろしたといいます。

24時間体制で見守りを続けた飼育員たち。ほっとした表情の坪松飼育展示課係長(8月20日の会見)

「今回は短時間、パールと子ゾウが優秀だったので、われわれは見ているだけで出産が終わった。 パールが頑張ったからとしか言いようがない 」と、坪松係長も思わずほっとした表情を見せてくれました。

もうひとつの子育てのカギ

実は、今回のパールの出産で、動物園にはもうひとつ、成功させたいミッションがありました。

去年11月、出産に向けた準備が急ピッチで進む中、ゾウ飼育担当のリーダー、小林真也さんが教えてくれました。

「出産経験のあるシュティンや次に出産するかもしれないニャインが、(パールの出産を)そばで見られる工夫をしてあげたい」

シュティン(左)とニャインの親子

ゾウは本来、メスの群れの中で子育てをする動物。

ゾウが円山動物園に4頭でやってきたのも、野生に近い「群れ飼育」を目指していたからでした。

過去にはメス3頭で同居もしていた。仲良くじゃれあうパール(左)とニャイン(2019年2月)

実際に、名古屋の動物園では、メスが複数頭いたことでスムーズに出産できたケースがありました。

名古屋市東山動植物園 さくら(左)の出産時母ゾウ(右)を助けたのは先輩メスゾウ(中央)だった

「陣痛で苦しんでいるときも、出産するゾウが先輩ゾウと鼻を絡ませているんです」と教えてくれたのは、名古屋市東山動植物園の茶谷公一副園長。

名古屋市東山動植物園の茶谷副園長(2018年)

「おそらく苦しいってときに先輩ゾウを頼って、先輩ゾウが『大丈夫だよ』ってなぐさめていたので、ずいぶんメンタル的には出産するゾウは助かっていたと思う」

出産を控えた円山動物園で進む準備と「先輩」動物園からみえたこと

群れ飼育に向けて、今回の出産はそんな重要な機会だったのです。

パールの陣痛が始まると、シュティン・ニャインのメスの2頭が柵の向こうにぴったりとくっついて出産の様子を見守ります。

パール(手前)を見守るシュティン(右)とニャイン 札幌市円山動物園提供

特に出産を初めて目にする若いニャインは、まさに釘付け!

出産直後、釘付けになって見守るシュティンとニャイン(札幌市円山動物園提供)

しっかりと出産を見届け、鼻で赤ちゃんにさわるしぐさも見せたそうです。

長年、北海道でゾウの飼育に携わり、円山動物園のゾウ導入から関わってきた小菅正夫参与。

パールの出産をほかのメスが見届けたことの意味についてこう話します。

小菅正夫参与

「パールにとって非常に心強いサポートだと思う。もう一つは、出産経験のないニャインが出産を見ることによって、自分が妊娠・出産するときに、ゾウはものすごく記憶力がいいから、ものすごく役立つと思う」

一般公開での「見どころ」

8月21日に公開された、赤ちゃんとパールの様子を見ると、もうしっかりした足取りで、ぴったりと寄り添って歩く姿が!

8月21日屋内エリアに初めて出た赤ちゃん(札幌市円山動物園提供)

私たちがこの姿を見られるのは、 9月中旬から下旬ごろ になりそうだということです。

一般公開が始まったとき、どんなところに注目して見るといいか、小菅参与に聞くと…

お母さん(パール)の気遣いを見てほしい 」と力をこめます。

「絶対に子ゾウを放置しないから。ずっとずっと力を入れて、万が一のときはすぐに鼻や足も出せるようにしている。自分から離れない場所にずっと置いておくんだ」と教えてくれました。

これまで、砂の上にごろーんと横になり、5~6時間もゆっくり眠っていたというパールですが、赤ちゃんを守る本能が働くのか、しばらくは立ったままうとうとする程度だったのだそう。

徐々に落ち着き、安心して過ごせるようになったのか、今は横になる時間もあるようです。

8月24日 砂の上に寝転がり休むパールとおっぱいを探す赤ちゃん(札幌市円山動物園提供)

赤ちゃんはお母さんのパールに守られ、足元で横になって寝ているということです。

8月25日、初めての水浴びをする赤ちゃん とっても好奇心旺盛!(札幌市円山動物園提供)

気になる名前は、今後、動物園側が候補を出して、来園者の投票で決まる予定です。

仲睦まじい親子の様子を見られる日が楽しみです。

文:Sitakke編集部あい

※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2023年8月21日)に基づき、一部情報を更新しています。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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