2023.06.27
ゆるむ札幌市円山動物園で、道内初となるゾウの赤ちゃんが誕生間近です。
これまでも「もう出産間近です」とお伝えしてきましたが、ついに、来月にも生まれる可能性が高いことがわかってきました。
そして、この出産は、「道内初」だけではない、全国から注目される出産でもあるんです。
エコー画像に映るのは、5月に撮影されたゾウの赤ちゃん!
札幌市円山動物園・飼育展示課の坪松耕太係長は、「背中の一部とか、何か映ったという形しか分からなくなっている。去年10月だと、まだ赤ちゃんが小さかったので、パーツがある程度分かる画像が撮れたんですけど、どんどん胎児が大きくなってくると、生まれる直前だと100キロくらいになりますから」と話します。
現在、4頭のアジアゾウが暮らす円山動物園。
パールとオスのシーシュの間にできた赤ちゃんを迎える日が迫っています。
円山動物園でゾウの赤ちゃんが産まれるのは道内初なことはもちろん、実は、全国的にも新たな歴史の一ページとなる出来事なんです。
坪松係長は、「砂の上で、自由な場所で産む。円山が先駆者となって、国内の多くの園館にわかってもらうことも使命」と話します。
ずらりとそろった安産のお守りに願いを込め、出産の期待がかかる、パール。
飼育員たちが出張や帰省、プライベートな旅行などのたびに買い、北は羅臼、南は沖縄・宮古島まで集まりました。来園者からのプレゼントもあるんだそうです。
円山動物園が目指すゾウの出産スタイルは、道内初どころか「全国初」の試みでもあるんです。
過去に他の動物園で出産したときの映像を見てみると…陣痛に苦しむメスゾウは安全に配慮し、動きを制限された檻の中にいます。
コンクリートの上に生まれ落ちた赤ちゃん。
飼育員が直接、体にふれて、檻の外へと引っ張り出します。
日本におけるゾウの出産例は少なく、そのすべてがこうして、飼育員が檻に直接入ってケアをする「直接飼育」で管理されてきました。
ただ、直接的に人が介入することは、野生動物であるゾウ本来の生活や子育てを、ときに妨げることにもなりかねません。
今回、円山動物園では、より自然に近い形、人間が入らない「ゾウのゾウによる出産」を目指します。
坪松係長は、「砂の上で自由な場所で産むというのが想定される。今まで直接飼育だと、子ゾウを引っ張り出して体を全部拭いていたが、そういったことは一切しない。自然界では土などがつくのは当たり前ですから」と話します。
ゾウたちがやってきた5年前から徹底してきたのが、人間とゾウのエリアをしっかりと分ける飼育方法「準間接飼育」。
人とゾウ、両方の安全・安心も守ることができます。
坪松係長は、「今までの直接飼育だと、技術の継承が難しかったり、人の安全がはかれない。ゾウにとってもどんな飼育員さんでも水準が変わらず世話をしてくれる」といいます。
また、「人が動物との関わりを想像するとき、ペットのような感覚で身近に触れ合いながら世話をするイメージをもってしまうんですけど、野生動物は身近にいながらも危険性があったり、野生と人の生活というのはあくまで一定の距離感を保たなければ保全はできないと思っている」と、準間接飼育に込められた動物園の意義についても語ります。
出産の時期を特定するのに欠かせない採血。
飼育員は檻の中に入らず、ゾウに協力してもらう形で健康管理を行います。
パールは檻越しに耳を出し、針を刺されてもまったく動じません。
これが5年間、ほとんど毎日欠かさず積み重ねてきたゾウと飼育員のトレーニングの成果です。
ゾウたちが来たばかりのころは、まず、足を出してもらうことから始まりました。
慣れてきたら足を洗ったり、爪を切ったり。
次は、薬を与えるときに備えて口をあけてもらったり。
鼻の中にウイルスがいないかもうがいをしてチェックできるようになっていきました。
その中でも特に、針を刺される採血や足をつながれる係留はゾウにとって「本来はいやなこと」。
だからこそ、採血なら、「耳を出す→耳を洗う→耳に針がついていない注射器をあてる→塗り薬の麻酔をしながら注射針を刺してみる」…
係留では、「足を出す→細いひもを足にあてる→細い鎖を足にあてる→ほそい鎖をまいてみる→鎖を太くしていく→鎖をつないで係留してみる(係留する時間を長くしていく)」…
「決して無理やり従わせない」「嫌がることはしない」ことを徹底し、時間をかけて、飼育員とゾウの信頼関係を積み重ねてきました。
欧米ではすでに主流となっている準間接飼育を、円山動物園で定期的に指導してきたアメリカの専門家、アラン・ルークラフトさんは、「すべてうまくいっているのは偶然ではない。飼育員たちとゾウの成長や発展はすべて計画通り、よく進んできた」と話します。
そうしてやってきたすべてが今、「準間接飼育での繁殖」という全国で初めての成果につながろうとしています。
出産タイミングの目安となるのが、血液中の黄体ホルモン。
高い数値だったホルモンの値は、ここ3か月ほどの間に少しずつ下がり始めてきています。
この日は「2.82」で、まだ少し高い数値。ゾウ担当動物専門員・小林真也さんによると、
出産前は数値が1を切るといいます。
一気に下がったときが、数日後に出産する合図です。
坪松係長は、「7月くらいに生まれてくれると夏休みもくるし、冬の準備をしていく中で余裕をもって子ゾウを見ることができる」と話します。
さらに、出産のトラブルに備えた検査もできるようになりました。
「出産でトラブルが起きたとき、破水しても分娩が始まらないとか、産道に胎児が引っかかってしまったときに、動きを制御して補助をしないといけない」という小林さん。
「パールも何をされているかわかっているので、つながれても嫌なことされないって理解している」と話します。
飼育員はパールの背後へ。
出産の「もしも」に備えた大事な準備、直腸周りの処置に慣れるため、このときだけは檻に飼育員が入り、直接パールの腸を洗浄したり、直腸からのエコー検査をします。
このときのパールのしっぽに注目。完全にリラックスして、飼育員に体を預けているのがわかります。
そしてこの日、出産が近づくもう一つのサインも。
パールの母乳です。
まだまだ色は薄いですが、出産に向けて、体はどんどんお母さんになっています。
ちなみにこの母乳、大学などと成分の共同研究を行って成分を分析中。
将来的に「ゾウの粉ミルク」ができるヒントになる可能性もあります。
パールに任せて自然に出産してもらう。
一方で、動物園で命をより確実に次につないでもらうためできる準備はすべて整える。
今、自信をもってその歴史的な日を待っています。
パールは、普段私たちがみている観覧エリアで出産するので、ホルモン値が下がって出産が近い!となっても、陣痛がきた!という本当に産まれる直前のぎりぎりまで、普段通り私たちも観覧できます。
今、妊娠している「妊婦さん」のゾウがみられる動物園はほとんどありません。
「赤ちゃんがいるな」と観察できるポイントは2つ。
ひとつはおっぱい。母乳も出ていましたが、かなり大きくなっているのがわかります。
もうひとつはふん。実は、赤ちゃんが大きくなっておなかが圧迫されると、ふんがどんどん小さくなってきます。
ちなみに、今出産が近い状態ですが、おなかが膨らんでいるかどうかは、飼育員さんでも「全然わからない」そうです。
出産は来月末から、遅くても9月までの間。
早ければ夏休み中に、遅くても秋には、道内初、全国初のゾウの赤ちゃんに会えそうです。
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2023年5月15日)の情報に基づきます。
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