2023.08.12

暮らす

ビンゴ大会?いえ、「クマ対策」です。がんばりすぎない“季節の一コマ”、10年目【札幌】

8月6日、札幌・南区の一部屋に集まった、約40人。
大学生に、70代も…広い世代の人が集まっています。

手元にはビンゴカード。誰かがビンゴになると、全員で拍手…なんともあたたかい空間です。

ティッシュや札幌市の指定ゴミ袋など実用的なものから、いくら入っているかわからないのし袋など、ちょっとわくわくする景品が用意されていて、参加者全員が当たるまで、ゆるりと続けます。

初対面の人どうしでも笑いあう和やかさ…
ビンゴが楽しいのもありますが、その前に、一体感が生まれる時間を過ごしているのも一因かもしれません。

連載「クマさん、ここまでよ

【この記事の内容】
・石山地区の10年と、その効果
・持続する秘訣は?
・石山地区から、札幌全体に広がる対策

1頭のクマをきっかけに、10年続けてきた対策

札幌・南区石山地区。
この地域では、全道でも「先駆け」といえるクマ対策が行われています。

スタートは10年前、2014年。
その前の年に、豊平川沿いでクマの出没があったのがきっかけでした。

場所は石山大橋のすぐ近く。
車通りも多く、住宅地も近いですが、見上げると山々があります。

クマは背の高い草に身を隠して移動することを好み、みどりが生い茂る川沿いは「通り道」になります。

出没を受けて、「2年連続で同じ場所からクマの侵入は許さない!」と始まったのが、草刈りです。

草刈りは、背の高い草を刈ってクマの通り道を遮り、住宅地への侵入や、人と突然出会って事故になるのを防ぐ対策。
徐々に札幌市内の各地域で開催されるようになってきましたが、ここ石山地区が先駆けでした。

その後、夏になると毎年開催。ことしで10周年を迎えました

酪農学園大学の発表によると、草刈りを始めた2014年から2021年まで、この近くでのクマの出没情報はなくなりました
去年は石山地区での出没がありましたが、石山大橋を超える前の地点での目撃で、草刈りをした地点を通って住宅地に侵入したことは確認されていません。

クマが利用しづらい、いてもすぐに見つけられる環境を作ることができていると言えます。

持続する秘訣は?

参加者は、地域に住む人たちや、酪農学園大学の学生が中心。
年によって、その日開催される学会の参加者たちを招いたり、高校生が来たり、ほかの大学の学生が来たり、議員も来たり…ゆるやかに参加者を受け入れてきました。

ことしはあいにくの雨模様でしたが、それでも約40人が一緒に汗を流しました。

石山地区まちづくり協議会の副会長・寺田政男(てらだ・まさお)さんは、参加者たちに「クマのことを考えるうちに、駆除ありきじゃなくて、人間として我々がやるべきことをやっていかないとと思うようになった。クマも市街地に来たいわけではなくて理由があるわけだから、みなさんもゴミの問題や、山に入ったら食べ物おいてこないとか、ほんの注意が必要」と呼びかけます。

「10年、意外と早かった」と話す、酪農学園大学の佐藤喜和(さとう・よしかず)教授。

ここまで続いた秘訣を尋ねると、「『がんばりすぎない』のが大事だなと思っている。ひとつのイベントに労力をかけすぎると息切れしちゃうので」と話します。

草刈りの実施には、地域の人や学生たち、札幌市の協力が不可欠ですが、「持続」を意識して、事前の打ち合わせの回数は少なくしているといいます。

それぞれがやりたいこと・できることを持ち寄って、その年ごとの変化も受け入れながら、「ゆるく協働」を続けてきました。

日ごろから関係を築いて声かけし合い、仲間を集める地域の人は、ビンゴ大会など楽しみも企画。

酪農学園大学の学生は、毎年クマの生態や対策についてのレクチャーを実施。
ことしは佐藤教授も一緒に、10年の成果を振り返りました。

レクチャーも、お茶やお菓子を楽しみながらゆるく聞きます

札幌市は道具の用意や保険の加入、場所の許可取りなどを引き受けてくれます。
現担当者に加え、歴代のクマ担当の職員もボランティア参加。

地域のベテランや市の職員が、草刈り機で一気に刈ってくれるのが、疲れてきたときに救世主に見えます…。

ことし5回目の参加だという住民は、「地域に住んでいて協力しないとと思って。いつ自分のところにクマが出てくるかわからないからね。みんな参加して、地域のコミュニティが結成されるのでいい」と話していました。

石山地区から、札幌全体に広がる対策

10年前の石山地区を先駆けとして、徐々に広がってきた草刈りの市民運動。

札幌市が共催したものを数えると、ことしは5月から8月11日までに
・南区簾舞川の河川敷
・南区南沢の公園
・南区藻南公園の豊平川河川敷
・東区中沼町の石狩川河川敷
・南区真駒内の豊平川河川敷
・南区石山の豊平川河川敷
・南区野々沢川の河川敷
と、 市内の7カ所で実施されました。

寺田さんと佐藤教授は、対策の広がりをうれしく感じているといいます。

佐藤教授は、「クマ問題って『行政なんとかしてよ』っていう他人ごと感があると思うけど、じぶんたちの地域の問題を、じぶんたちでできることやろうと多くの人が思ってくれているということだと思う。具体的なアクションに結びついているのはすごくいい形だと思う」と話します。

ことしは去年の1.8倍のペースでクマが出没している札幌市。南区、西区、中央区と出没地点は幅広く、さらに対策の広がりが求められています。

佐藤教授は、「1頭が何回も出ているというのもあるけれど、それが1頭だけじゃなくて複数なのがことしの新しい傾向。今後もクマが身近にいる状況は、なかなかすぐには変わらないと思う」と指摘します。

「これからの10年」、市民は何を心がけるべきか聞きました。

「石山地区には、年に1回ここで会うみたいな方もいらっしゃって、『またことしもよろしく』みたいな、年中行事感があります。雪が降る前に冬タイヤに交換しましょうというように、春が来たら花が咲いて、夏が近づいたら草を刈って…そんな “季節の一コマ”にクマ対策がなっていくと、クマに強い地域づくりに結びついていくと思う」

記念すべき10周年のことし。寺田さんは、開始早々から「年に1回だけど、クマのことを考える日があったほうがいい。来年もやっていきたい」と意気込んでいました。

草刈りをして、お茶を飲んで、ビンゴ大会をして…。
参加者たちは、笑顔で「また来年」と声をかけ合っていました。

連載「クマさん、ここまでよ
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

文:Sitakke編集部IKU

※掲載の情報は取材時(2023年8月6日)の情報に基づきます。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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