2023.07.27

暮らす

【え?この草やぶの中に人が?】大学生が「世界遺産・知床」で学んだ、クマとのつき合い方

クマ出没を「ひとごと」に思っていた、札幌の大学生・みことさん。去年、初めてクマ対策のボランティアに参加し、地域に住む人や対策に関わる人の想いに触れて、「気づき」を得ていきました。

そして今年、「知床に行ってきます!」と連絡が…。世界有数のヒグマ生息地・知床で、クマにまつわる観光ツアーのボランティアスタッフをやるというのです。

札幌から知床までは、深夜バスで7時間かかります。それでもみことさんを知床にまで動かしたきっかけは、何だったのか?知床で何を感じたのか?

みことさん自身が、想いをつづってくれました。

連載「クマさん、ここまでよ」

***

「クマ対策の仲間」に

北海学園大学のみことです。
生まれも育ちも札幌の私は、クマの市街地出没のニュースを今まで何度も見てきましたが、「行動するにも、何をしたらいいかわからないし…」と、どこか「ひとごと」に感じていました。

でも去年、HBCから、「クマとまちづくり」を考えるプロジェクト(※1)に誘っていただきました。道民として、クマを学べる機会を逃すべきではないと思い、何も知らない状態から活動しながら、知識を吸収しています。

その活動の中で出会ったのが、村上晴花(むらかみ・はるか)さん。知床ウトロのホテル「北こぶしリゾート」で働いています。

村上晴花さん(去年の札幌の「クマ活」で撮影)

「北こぶしリゾート」では、大切な観光資源でもあるクマと私たち人間が安全に共存していくための活動、「クマ活」を定期的に行っています。「おしゃれに、たのしく、わかりやすく」をテーマに、クマ対策として街の草刈りやゴミ拾いをしています。

その「クマ活」の初の出張版が、去年、札幌のアウトドアレストラン「mountainman」で開催され、私はそこで村上さんに出会いました。
村上さんと話していて、印象に残ったのは、「クマ対策の気軽さ」です。

村上さんは、家のまわりのゴミ拾いなど、個人個人でできる小さなことが、クマと人の安全な暮らしにつながることを教えてくれました。私は「クマ活」に参加したことで、クマが出没したときは、今後そのクマがどうなってしまうのかというところまで考えて行動しようと思うようになりました。

左が私・みこと、右が村上さん(去年の札幌の「クマ活」の様子)

私は村上さんと「クマ対策の仲間」になったような気持ちになりました。
そしてことし、村上さんから、本場・知床での「クマ活」のボランティアスタッフをやってみないかと、お誘いいただいたのです。

大学生のフットワークの軽さの活かしどころだ!と思い、札幌からの参加を決断しました。

北海道全体で大切な考え方も

札幌から知床まで、深夜バスに揺られて約7時間。朝6時半に知床に到着しました。

朝食を食べに入ったカフェで、「『クマ活』のために知床に来ました」と店員さんに話すと、説明せずとも理解していただき、「クマ活」が当然のように地域の方々に知られていることに驚きました。

札幌で「この前『クマ活』をして…」と言うと、「何それ?」と言われるのが、まだまだ普通。知床は町ぐるみでクマに対する意識が高いのだなと思うのと同時に、札幌でも「クマ活」の知名度がもっと上がるといいなと思った出来事でした。

集合場所はホテル・KIKI知床。
今回は、札幌や網走、北見などから、9人の学生ボランティアスタッフが集結しました。

クマを専門的に学んでいる学生ばかりかと思っていましたが、私のようにクマの専門知識を持たない学生も半数ほど参加していて安心しました。
「クマ活」に関わるホテルスタッフの方々も私と年齢が近い方ばかりで、なんだか明るく和やかな大学のサークルのようです。

今回の「クマ活」の参加者は、ツアーで知床を訪れた、一般の社会人の方々。
まずは「クマ活レクチャー」を受けていただきます。

レクチャーには、知床でクマを含む野生生物の保護管理などをしている「知床財団」も参加。知床財団の方と村上さんから、知床のクマや「クマ活」について解説がありました。

スタッフの私もちゃっかり話を聞いていましたが、その中で登場した「ゾーニング管理」は、今後、北海道全体で大事になってくると感じました。「ヒグマ優先ゾーン」と「人間優先ゾーン」を、人間がしっかり管理することで、クマとすみ分けをしていく考え方です。

有効な対策のひとつが電気柵ですが、正しく使うことが大切。水のあるところなどには設置できず、そんな小さな穴を見つけて柵を突破してしまうクマもいるとか。
クマ対策は一筋縄ではいきません。

レクチャー会場後部には「トランクキット」という教育キットを広げました。クマの毛皮などの標本が入っていて、参加者は見て、触れて、学ぶことができます。

「この毛皮は大人のもの?」「『ゴールデンカムイ』で見たあのクマのシーンは本当?」などという質問が飛び交います。
ここではクマを専門的に学んでいる学生が、その知識を大いに活かしていました。

レクチャーの後は、いくつかのチームに分かれて、それぞれ自己紹介。
私たちスタッフも混ざって、普段どんな仕事や勉強をしているのかを話したり、「クマ活」経験者が未経験者にアドバイスしたりと、交流をしました。

ほとんどの人が初対面ということでよそよそしい雰囲気になるのかなと思いきや、気さくな方ばかりで楽しい時間になりました。

台湾からも!総勢70人で草刈り

2日目、私たちスタッフは、朝8時から参加者への貸出品の準備や安全の確保を行い、9時からは「草刈り」に参加しました。
草刈りは、クマが隠れられる背の高い草を刈って見通しをよくし、クマの住宅地への侵入を防ぐ対策です。

なんと今回の草刈りの参加者は、過去最高人数の70名!

道内はもちろん、道外、さらには台湾から来たという方も。「クマ活」の認知度が徐々に上がっていることを感じて、なんだか嬉しくなりました。

ホテルから徒歩5分ほど。道路わきにある漁師さんの作業場から、山につながる斜面に生えた背の高い草、「オオイタドリ」をみんなで刈ります。

6月はシカが子どもを産んで草やぶに隠すことがあるため、クマもそれを狙って草やぶに入ってきやすいのだとか。
実際に、この草やぶにはクマが潜んだこともあるそう。

実は上の写真の草やぶの中に男性一人が立っているのですが、全く見えません。それどころか、成人男性が手を上に伸ばしても見えませんでした。
クマが迷い込んだとしても、草やぶの外に出るまで気づくことができないでしょう。

そんな状況で、ばったり人とクマが出会って事故になるのを防ぐためにも、草を刈ります。

草刈りが始まると、70人が一斉に動き出し、ものすごい勢いで草が倒れていきます。

草を手で刈るという行為がなかなか爽快で、ついつい夢中で斜面を刈り進め、振り返ってその見晴らしの良さにびっくりしている人も。

参加者どうしで雑談をしたり、「こうしたら効率がいいよ。」「足元滑るから気を付けてね。」などと声を掛け合ったりして、自然に団結力が生まれました。

最後に参加者どうしで感想を共有する場面では、「あっという間に見晴らしのいい斜面になってしまい、まだまだやりたかった」との声があるほど、参加者がアクティビティ感覚で楽しく草刈りをしていたのが印象的でした。

草刈り中の村上さん。クマの等身大パネルを持って草の長さを実感させてくれました

その日の午後は、ホテルの「クマ活」スタッフと学生ボランティアとで、ワークショップを行いました。

2グループに分かれ、模造紙に観光資源としてのアイデアやクマ対策について、思いつくことを自由に書いていき、今後の「クマ活」で何をしたらいいかを話し合います。

塗り絵、ビンゴ、スタンプラリーといった実現可能性の高いものから、子ども向けの「紙での草刈り体験」や、「クマルームを作る」「冬眠穴に泊まる」などユニークなものまで、たくさんのアイデアで模造紙が埋められていきました。

3日目はツアー客を交えず、学生ボランティアのみで草刈りを行いましたが、移動の都合で私は参加できず、仲間たちに託すこととなりました。楽しい人たちとクマ対策に取り組むことができ、とても充実した活動でした。

意識の高い一人だけでは実現しない

地域の問題に関心を持ち、一生懸命に取り組む若者はそう多くないと思っていましたが、たくさんの20代、30代が地域の問題に進んで楽しく取り組んでいる空間が知床にはあり、驚きと感動がありました。

「おしゃれに、たのしく、わかりやすく」をモットーにしている「クマ活」は、普段できない体験や人との交流を楽しむことも重要視していて、自然保護の活動の中でもイベント感覚で気軽に参加しやすい、素晴らしい活動だなと改めて感じました。

村上さんによると、今後の課題のひとつは、村上さんがいなくても「クマ活」を行えるようになることだそう。

今や札幌でもクマは市街地に多く出没しています。
札幌、そして北海道全体で、クマと人間が共存していくために、クマ対策に関する発信の意義をより強く感じる活動になりました。

クマと人間が共存していくには、人間が境界線をつくるために努力していかなければいけません。それは意識の高い一人がいれば実現できることではなく、多くの人の力が必要です。

この記事を読んで「クマ活」を知ることも、自宅の草を刈ってみることも、ゴミをきちんと出すことも立派なクマ対策。規模がどんなに小さくても、クマを意識した行動をひとりひとりが生活に取り入れてみることが大事ではないでしょうか。

安心で安全な暮らしを守るために、自分にできることをしてみませんか?

去年の札幌での「クマ活」から、村上さんの人柄に惹かれ、ぜひ知床のホテルに泊まってみたいと思っていた念願も叶い、嬉しかったです。

「クマ活」を通してでなければ出会うことがなかった人たちに出会い、お話をすることができました。ときどき環境保全や地域貢献などという堅いことは忘れてしまうほど楽しかったというのが正直な感想です。

クマと人間の生活を守る楽しい「クマ活」を、もっと多くの人に知ってもらいたいと思った3日間でした。

※1・「クマとまちづくり」プロジェクト
酪農学園大学の佐藤喜和教授、札幌市、クマに関心のある学生たち(北海学園大学、酪農学園大学、北海道大学)、HBCで構成。2022年にスタートし、地域の方々のお話を聞きながら「クマとまちづくり」について考えています。

連載「クマさん、ここまでよ
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

文:「クマとまちづくり」プロジェクトメンバー・みこと

編集:Sitakke編集部IKU

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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