2023.07.15
深める和服に身を包み、おしろいをつけて、美しい姿の「芸妓」さん。
京都にしかいないと思っていません?
でも、いたんですよ、この令和の札幌に。それもすごく魅力的な人たちが!
ある日、こんなメールが編集部に届いたんです。
―えっ! 芸妓って、札幌にもいるの?
ってか、そもそも芸妓ってどんな人達なの?ウラ事情とかも聞いてみたーい!
ミーハーな気持ちが取材につながり、今回の企画がスタートしました。
「こと代と申します。お時間いただき有難うございます」。
こと代さん、28歳。所作が美しいせいか、年齢よりも貫禄のある第一印象。メールに書いてあった「さっぽろ名妓連」とは、札幌を中心に全道で活動する芸妓さんが所属している団体のこと。
「花柳界(=芸妓の世界)に興味のなかった人にこそ、私たちの活動を知っていただきたいんです」と、こと代さん。
さっそく素朴なギモンをぶつけてみることに。
―ざっくり言うと、芸妓ってどんな職業なんですか?
料亭などのお座敷で、唄、舞踊、三味線などを披露し、お客さまにおもてなしをさせていただくことが活動の主な内容ですね。
―「舞妓さん」との違いはなんですか?
舞妓と芸妓の違いは、年齢です。舞妓は芸妓になるための、みならい期間のようなものです。
舞妓は、舞踊や着付け、おもてなしの作法を実践しつつ修行をします。20歳くらいになると芸妓として活動していくケースが多いです。芸妓は活動期間の定めがなく、何歳になっても活動できます。
ちなみに、関東~北海道では、舞妓のことを半玉(はんぎょく)さんと呼びます。地域によって呼び名や文化が違う場合が多いですね。
―こと代さんは、「芸妓」になって何年目ですか?
この世界に入って、まだ6年目です。
―(エッ!6年目にして、この貫禄はスゴイ!)そもそもなぜ、芸妓の道を?
もともと和文化には興味がありました。茶道部にも入っていましたし、テレビで見る芸妓さんにも憧れていました。でも「北海道に芸妓さんはいない」と思っていたので、まさか自分がなれるとは思っていませんでした。
―芸妓になる前はなにをしていたんですか?
大学を卒業後してからは、ワーキングホリデ―でアイルランドに滞在していました。大学で学んだ英語を仕事に生かしたいなと思って。
転機となったのは、日本にいる母からのメールでした。「こんな募集があるよ」って、新聞の切り抜きをメールで送ってくれたんです。
その年(2017年)に、若手後継者を育成する“さっぽろ芸妓育成振興会”が設立したんです。母から送られてきたのは「芸妓育成の第一期生募集」と書かれた、小さな記事でした。
幼い頃からの憧れに挑戦したいという気持ちで応募をしてみたんです。唄も踊りも全くの未経験でしたけど。
―えーッ!未経験だったんですか。
書類選考は通過できたのですが、面接では、ガチガチに緊張してしまって!憧れの芸妓さんたちを前にして、なにを話したのか。細かい部分は自分でもあんまり覚えていないです(笑)。
海外に出たからこそ、あらためて和文化の魅力に気づくことが出来ました。その想いをしっかり伝えたい。その一心でしたね。
数日後、無事に“合格”の電話が鳴りました。母も私も大喜び。
そこから憧れの「花柳界」での日々がスタートしました。
―花柳界の生活はどのようにスタートしたんですか?
面接合格のお電話を頂いたあと、すぐに「置屋(おきや)のお母さん」との面談がありました。
―ん?「置屋のお母さん」ってなんですか?
「置屋」は、舞妓や芸妓が所属する先で、所属プロダクションみたいなものです。私たちの場合、住居は別々ですが、芸妓が「置屋」で共同生活を送る場合もありますよ。
―あ!なんか舞妓さんのドラマか漫画で見たことあるかもです!
同じ置屋に所属する、年上の芸妓さんを「お姐さん」、師匠を「お母さん」と呼びます。
面談では「芸妓としてやっていく覚悟が本当にあるのか」と、お母さんから意思確認をされました。覚悟を告げ、初めて正式な合格を頂くことができました。
そこからは、もう「稽古尽くしの日々」ですね。
着物の着付け、三味線、唄、踊り、お座敷での礼儀作法。芸妓が覚えるべきことって、たくさんあるんです。
今も稽古尽くしの日々ですが、最初は特に大変でしたね。お母さんやお姐さんに着いていくのが精一杯で。
―芸妓さんの1週間のスケジュールって?
稽古は、ほぼ毎日していますね。火水木が「踊り」、金土は「小唄」と「三味線」、午前10時から午後1時くらいまで。
他に「お茶」や「鳴り物(打楽器など)」を習っている芸妓もいるので、午後も稽古を“ハシゴ”する場合もあります。稽古が終わったら、美容室で髪を結って、出勤準備をします。
―とても忙しそうですね……!
ありがたいことに、忙しくさせて頂いております。(深い礼)
―勝手なイメージですが、プライベートも厳しいルールなどありそうですよね。やっぱり恋愛は禁止ですか?
あ~~(笑)ええと、芸妓の道に入って、最初のうちは恋愛禁止でした。お母さんから「3年間は、稽古に集中しなさい」と。
いま振り返ってみると、恋愛なんて無理だったと思いますね。そもそも毎日が忙しすぎて。稽古で精一杯で、恋愛どころじゃなかったです。
―ほかにも何か禁止事項ってありますか?
派手なネイルは禁止です。薄いピンクや透明なネイルはOKですが、色がついてるものは、お着物と合わないので。爪も、三味線をひくときに邪魔になるので、短く揃えています。
―芸妓さんの世界は、上下関係が厳しそうなイメージもあります。
慣れたせいか、今はなんとも思いません。でも、厳しいと思います(笑)。ただ「厳しいだろうな」という前提でこの世界に入ったので、そんなに驚きはなかったですが。
―ここまでの感じで、なんとなく察してきたのですが「お母さん」って、かなり厳しい人ですか? どのくらい怒られたりします?
怖いか、怖くないかで言ったら、まあそれは怖いですよね(笑)。めちゃくちゃ怒られますし。うちのお母さん、唄も踊りも、三味線もできて、なんでもこなせる完璧な人なんです。厳しい人でもありますが、優しい一面もあって。とにかくすごい人ですよ。
― ちなみに、どんなときに怒られたりするんですか?
そうですねえ。いっぱいありますけど……あ!ナベ子さん。
― はい、なんでしょう?
稽古のようす、実際に見に来ます?お母さんも来るんでぜひ!
―えっ!観に行っていいんですか!?(ドキドキ)
稽古場にお邪魔させていただくことになった筆者。芸妓さんの稽古ってどんな雰囲気?「お母さん」って、一体どんな人?
礼儀やマナーを全く知らない筆者……お母さんに怒られたらどうしよう!?
色んな意味でドキドキしながら、いざ稽古場へ! 一体どうなっちゃうのー!?
後編へ続きます。