2023.06.30
深めるみなさんこんにちは、満島てる子です。
Sitakkeで「お悩みコラム」を書かせてもらえるようになり、もうすぐ2年。お悩み相談コーナーを軸としながら、様々なテーマでコラム執筆の機会をいただいてきました。
この6月はプライドパレードをはじめ、世界中でLGBTQに関する啓発イベントが開かれる「プライド月間」と呼ばれるシーズン。
今回はそのタイミングに合わせての特別連載。この特集【LGBTQムーブメントと「女性」たち】では、「女性」というくくりから改めてLGBTQのアクティビズムを捉え直すことで、どのような景色が見えてくるのかを考えていこうと思います。
第2回「性別に違和を感じている人たちの、こころの拠り所をつくっていきたい」
ラストとなる第3回は、母として子育てをしながら、さっぽろレインボープライド実行委員会の新人としても大活躍!あたしと同世代の、シスヘテロのアライである、まゆげさんにお話をお聞きしました。
【※注釈】シスヘテロ……自分の性別に関して身体的な違和を持たず(トランスジェンダーに対して、シスジェンダーと呼ばれる状態が、これに当たります)、かつ性愛の対象が異性である(ヘテロセクシャルである)人の総称。「ストレート」と呼ばれることもあります。
※アライ……LGBTQの活動を支援し、そこに積極的に関わろうとする人のこと。日本では性的マイノリティに理解があるシスヘテロの人たちに対して使われることがしばしばですが、本来はゲイがレズビアンのアライとなったり、トランスがバイセクシャルのアライともなれるなど、セクシャリティを問わず使える言葉です。
パートナーの男性、そしてその間に授かったもうすぐ3歳になるお子さんと、現在3人で暮らすまゆげさん。
札幌生まれ札幌育ち。今年から、あたしが副実行委員長を務めているさっぽろレインボープライドの実行委員に。
1年目ながら、広報活動やクラウドファンディングのPRに積極的に関わり、パレードの成功に向けて貢献してくれています。
そんなまゆげさんは大学時代、カミングアウト済みのLGBTQ当事者が、周囲に当然のようにいる環境で過ごしたんだとか。だからこそ、社会人になって働き始めたとき、その「閉鎖的」とでも言うべき状況に驚いたと言います。
「芸術系の大学にいたんですが、作品の中で自分のこと、例えばセクシュアリティを表現するってよくあることだったんですよね。だからなのか、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーのクラスメイトが、周りにいて当たり前というか……隠さずにオープンにしてる方が多くて、その状態を特別じゃない、ごく普通の日常の風景として捉えていました。なので、社会に出た瞬間に『え?!何このギャップ?!』ってなったんですよね。当事者に出会ったことがないという人の多さには驚かされました」
その後、今のパートナーと結婚し、妊娠。それをきっかけに、まゆげさんは子育てに関する様々なことを、自然と調べるようになり、性教育やLGBTQ、ジェンダーに関する発信を、SNSを通じてたくさん目にするように。情報の重要性に、改めて気付かされたそう。
「自分のいのちも大事にして、相手のいのちも大事にする……そんな包括的な性教育がすごく大事だと知ったんです。無知だったがゆえに、自分が傷ついたり相手を傷つけたりしてしまうのは、本当によくないことなんだって。だから、母という立場としては、LGBTQやジェンダーについての知識を、自分の子どもにきちんと渡してあげたいと思ってます」
行動力溢れるまゆげさん。現在の子育てのなかでも、こうした気づきを単なる“気づき”で終わらせず、きちんと実践に移しているようです。
「子どものセクシュアリティはちゃんと尊重してあげたいって気持ちがありますね。例えば、息子とか娘って言葉は適宜、状況に応じて使わないようにしています。そこは、本人が選べるようにしてあげたい。一番取りかかりやすい部分だと思うんですよ。最近はそれ以外だと、家族や親戚、友達にもLGBTQに関する話を積極的にして、一緒に考える機会を意識的に設けるようにしています」
「LGBTQに理解があります」という表明自体は、昨今、さまざまな場面で見かけるようになりました。読者の皆さんの中には、まゆげさんのように性的マイノリティの活動を支援しようと考えてくれている方も、少なからずいるかもしれません。
しかしその一方で、自分の子どもが当事者であった場合を想定できる、あるいは、子どものカミングアウトに対して肯定的に対応できる人は、実際のところまだ多くありません。
(2016年に実施された「LGBTマーケティングラボ」による調査では、我が子の告白を前向きに受け止められるとの回答は、約50%程度にとどまりました)
LGBTQに「自分ごと」として対峙する可能性は、まだ「親」という立場を担う世代の間では、きちんと共有され切っていないように思うのです。
だからこそ、まゆげさんのように考え動いてくれる親御さんが今事実いることは、未来の世代にとって大きな希望になっていくのではないでしょうか。かつて親にカミングアウトしたときのことを思い出しながら、あたしはまゆげさんの言葉を、感慨深い気持ちで聞いていたのでした。
成人したての頃ぐらいまでは、女性であることを強く意識はしなかったんだというまゆげさん。その状況は、25歳を迎えてから一変したと言います。
「突然、結婚、妊娠、出産っていう人生の大きなイベントについて『これするの?しないの?』って問われるターニングポイントみたいなものが突然バババっと目の前に現れて。それで『ああ、自分って女性なんだ』ってすごく実感させられたんです」
特に子どもを産んでからは、周囲との付き合い方に大きな変化があったそう。
「急に『お母さん』『ママ』って言われて。それで、『お母さん』として求められるものに応えていかなきゃって動いてたら、『まゆげ』って人格がどんどん無くなっていったんですよね。衣食住全てが子ども優先になったし、自分がこうしたいとかよりも、これやらなきゃあれやらなきゃって感覚が先に立つようになったんです」
「母」としての振る舞いを強いられることに、違和感を感じ続けていたまゆげさん。その違和感がはっきり本人の目の前に「壁」として立ちはだかったのは、再就職を考え始めたタイミングでした。
「その時の生活をこなすのだって精一杯。なので、就職活動と育児とを同時並行というのは、なおさら大変でした。なのに『あなたの希望の仕事は母親だったらできません」『その状況だと無理です』って、履歴書すら見てもらえないんですよ。心折れることがたくさんあって……何もしたくなくなってしまったんです」
「母親だからこう」と一方的に扱われた上に、働く機会は与えられない……まゆげさんのこの経験談にはとても驚かされましたし、同時に「そんな不当な、差別とでも言うべきことがあっていいのか」と憤りも覚えました。そして、だからこそ、まゆげさんが去年のパレードにとても励まされたと語ってくれたときには、とても嬉しくその言葉を受け止めたのでした。
「レインボープライドに参加して『そっか、自分は自分でいいんだ。自分のありのままを出すってとても大事なことなんだ」って気付かされたんです。子どもと姉と3人で行ったんですが、いろんな人が私たちに気軽に声をかけてくれたし、すごく楽しいイベントで。セクシュアリティがどうであるかも関係ないし、誰も誰かに『いちゃいけない』とか言わないんだって」
札幌のパレードはこの20数年、「LGBTQプライド」ではなく「レインボープライド」と名乗ってきた歴史があります。性的少数者だけでない様々なマイノリティの当事者と連帯し、つながっていく姿勢を名前から表したい、というのがその意図です。社会の中では「女性」や「母」という立場も、一種のマイノリティと言えるでしょう。まゆげさんという、ひとりのマイノリティ当事者の背中を押せたのだと知ったことは、あたしとしても大きなことでした。まゆげさんは目を輝かせながら、今のパレードの活動について、こうも語ってくれました。
「本当に人生で初めてなぐらい、生き生きとした時間を過ごしてます。実行委員会のメンバーも『こういうことをやりたい』と提案した時に『是非トライしてみよう』『こうならできるんじゃない?』と積極的にサポートしてくれるので、関わっていてとっても楽しいんです。生活とのバランスには苦労しつつですが、実行委員のメンバーが家に遊びに来て家族と会ってくれたりして、いい意味で周りを巻き込みながら活動を進められています」
パレードを支える新しい実行委員が、取り組みにやりがいを感じ、楽しんで関わってくれているという事実。インタビューをしながらは、副実行委員長として「この活動、やっていてよかったんだな」と、胸にじんとくるものを感じていたのでした。
まゆげさんは、今年に入ってから約半年、いち新人実行委員として、アライとして活動をしてきましたが、その過程で改めて、性的マイノリティの当事者について「みんな居て当然の、ひとりの人間なんだ」と強く実感したと言います。
「特別じゃないって言ったら語弊があるかもしれないけれど、LGBTQの当事者の方は、他の人と変わらない生活を送っているし、私は出会った皆さんのことを『本当に素敵な方々だなぁ』と思っていて。セクシュアリティ以前にヒューマニズムというか、人と人っていうところが一番大事なんだと思っています」
LGBTQの当事者として生きていると、他の人たちから「性的なマイノリティの方」というフィルターを通して見られているのではないかと、どうしても感じてしまう瞬間があったりします。でも、まゆげさんが語ってくれたように、あたしたちもひとりの人。
だからこそ、結婚の自由や差別の解消という、「人としての当たり前」を求めているわけです。
「ヒューマニズムというか、人と人」。この言葉にあたしは、「それこそがパレードのような、社会を変えていく活動の根幹にあるものだよなぁ」と、大きくうなずかざるをえませんでした。
まゆげさんは、子育てという話題からも、重要な問いかけをしてくれました。
「最近思ったのは、『母親vs父親』って対立はピックアップされがちだと思うんですけど、そうじゃない気がしていて。やっぱり『vs社会』というか、社会構造と闘わないといけないと思うんです。私も家事育児の課題でパートナーに当たってしまうときがあるけれど、そうじゃなくて、パートナーと一緒に肩組んで『闘おうぜ!』ってするほうがよっぽど前向きでしょって感じます」
あたしたちはときに、「こうであるのが常識」「普通はこうするべき」といった世の中の固定概念に毒され、その中でしかものを考えられなくなったりします。「お父さんならこうすべき」「お母さんなのにこれやらないの?」といった話題も、ときに親同士の喧嘩をもたらすなど、厄介なものです。
しかし、そうした概念の枠内で踊らされるのではなく、それを作り出す社会構造と向き合い、仲間と共に闘うこと……それこそが、明るい未来を拓いていくための有効な方法なのかもしれない。まゆげさんの語りを聞いて、あたしは改めてそう確信させられたのでした。
まゆげさんは最後に、力強い言葉でこれからの自分について語ってくれました。
「母親だからこうっていうのに縛られないようにしていきたいです。『まゆげ』らしい子育てをしたいというか、『まゆげ』であり続けたいって」
女性であり、母であり。アライとしてパレードの実行委員でもあり。
でも、どの側面もひとりの「まゆげ」さんそのもの。そんな彼女がひとりの人間として今後どう輝いていくのか、お話を聞きながら楽しみで仕方ないあたしが、その場にいたのでした。
「女性」というカテゴリーから、改めてLGBTQムーブメントを見つめ直す、この連載。
ラストのまゆげさんのお話は、「女性」そして「母親」という立場のマイノリティ性を浮き彫りにしながらも、明るい未来を作り、鮮やかな虹のアーチをみんなでかけていくための、ひとつの指針をも提示してくれるものでした。
女性も、LGBTQも、多様なあり方で確実にこの社会に生きています。そのひとりひとりが互いに肩を組み、ともに歩んでいくためにも。あたしたちは、当事者の語りに学び、そこから思考を広げていかなければならない……一連の取材は、その必要性を強く感じさせるものでした。
この6月は「プライド月間」でした。
今回の連載によって、少しでも多くの人がセクシュアリティやジェンダーについて考え、話し、発信するようになってくれればと、執筆者として祈っています。
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文:満島てる子
編集:ナベ子(Sitakke編集部)
<満島てる子 PROFILE>オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。LGBTパレードを主催する「さっぽろレインボープライド」の実行委員を兼任。2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム「てる子のお悩み相談ルーム」を連載中。
【特集:LGBTQムーブメントと”女性”たち(計3回)】