2023.05.29
暮らす一度、味を覚えると、何度もやってくるクマ。
畑や家庭菜園の被害を防ぐには、どうしたらいいでしょう?
高い金網を立てたとしても、クマは登るのが得意なので、よじ登られていまいます。
または、たった40センチほどでも下の隙間が空いていれば、くぐって入り込むこともあります。
一方で、近づいてきたクマが、突然、驚いたように走って帰っていくのが…「電気柵」です。
札幌市では、家庭菜園でクマの被害を受けた人や、被害を予想できるエリアの人など、条件を満たす希望者に、電気柵を無料で貸し出しています。購入費用を補助する制度もあります。
ただ、「電気柵」も、正しく使わなければ効果を発揮できず、命にかかわることもあります。
札幌市は、正しく電気柵を使って、市民が暮らしを守れるようにと、「電気柵講習会」を実施しました。
ことしが初開催です。
会の様子と、札幌市の電気柵の無料貸し出し制度・購入補助制度について、お伝えします。
連載「クマさん、ここまでよ」
講習会は、5月20日(土)、札幌・南区簾舞で開催され、南区で家庭菜園を営む人など15人ほどが参加。
「日本電気さく協議会」に所属する3社が、電気柵の仕組みや効果について説明をしました。
ファームエイジの小谷栄二さんは、電気柵は「心理柵」だと話します。
「電気柵に触ると痛い」と学習してもらうことで、動物の強い「警戒心」によって、畑に近寄りにくくさせるための手段だということです。
2019年、南区簾舞・藤野地区では、連日住宅地にクマが現れ、家庭菜園などのリンゴやトウモロコシを荒らしました。
味を覚え、毎日のように人目に触れるうちに、クマは住宅の庭でパトカーが警戒する目の前でも、何時間も作物を食べ続けるようになりました。
住民も不安な日々を過ごし、クマも駆除される結末…。
このことを繰り返さないために、最初の段階で「人の食べ物に手を出すと、嫌な思いをする」と、クマに電気柵で伝えることが、ひとつの有効な手段です。
電気柵の効果を発揮させるためには、「抜け穴」を作らないのが大切。
「草が伸びて電気柵に触れていないか?」
「地面がでこぼこしていて、地面から電気柵までの隙間が開いている箇所がないか?」
「水たまりなどにワイヤーが浸かっている部分はないか?」
「ワイヤーが切れたり、たるんでいたりする部分がないか?」
電圧をはかる機械で触れるだけで、漏電していないかは確かめられるので、日々のチェックをすることで、安全を維持することができます。
電気柵は、正しく使えば効果があるものの、間違った使い方では効果を発揮できず、死亡事故につながることもあります。
2015年、静岡県西伊豆町では、自作の電気柵によって、2人が死亡する事故がありました。
未来のアグリの石澤裕さんは、「高い電圧の電気が流れ続ける、違法な電気柵を使っていたために起こった事故」と指摘。
「動物が嫌がる効果」と「人体の安全性」が両立できる、国際規格に沿った電気柵を使うことの重要性を説明しました。
会場からは、電気柵の高さについての質問などが出ましたが、サージミヤワキの神武海さんは、被害を防ぎたい動物や、家庭菜園の広さによっても変わるので、「現地を見るのがいい」と説明。
相談に応じて、それぞれに合った方法をおすすめしたいと話していました。
札幌市も、「プロの説明」を受けて、正しく電気柵を使ってほしいと呼びかけます。
札幌市では、家庭菜園でクマの被害を受けた人や、被害を予想できるエリアの人など、条件を満たす希望者に、電気柵を無料で貸し出しています。
また、クマの被害を防ぐために電気柵を購入する人には、2万円を上限に、費用の2分の1を補助しています。
どちらの制度の利用者も、無料で設置方法についての説明が受けられることになっています。
札幌市は、「電気柵は自分の畑を守る意味でも大事だが、クマが一度味を覚えると、地域のほかのところにも影響してしまう。自分も、地域の人も守るために、ぜひ設置を検討してほしい」と話していました。
参加者には、ことしもクマが出没している、南区の簾舞や豊滝、小金湯で家庭菜園を営む人が参加していて、「参加して良かった」「電気柵に効果があることがよくわかった」などと話していました。
一方、南区だけでなく、西区や中央区でも、クマの出没が相次いでいます。
「ここは今までクマが出ていなかったから大丈夫」とは、言えない時代になりました。
クマが出てからできる対策は限られます。
市の制度を利用したり、プロに相談したりして、「クマが出る前の対策」を考えてみませんか?
市の電気柵貸し出し・購入補助制度の詳細は、札幌市のホームページからご確認ください。
連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。