十勝の東側、帯広市からも釧路市からも車で1時間ほどの場所にある、浦幌町。人口約5,000人の小さなまちに、いま、志をもった若者たちが続々と集まっています。
生まれ育った町を良くしたいと思いUターンする若者や、子どもたちを対象にした「うらほろスタイル」の取り組みに惹かれ移住する若者、そして、ビジネス第一線で活躍するスキルも経験も持った若者が関係人口となる、そんな動きが盛んです。

浦幌町には、まちの若者たちのチャレンジをけん引する存在がいます。地域おこし協力隊として2017年に就任した小松輝さん(28歳)です。小松さんは、協力隊3年目で起業し、ゲストハウス「ハハハホステル」をオープン。その後、同年代の経営者と合同会社Ofurotoを設立し、留真温泉の経営にもこの春からチャレンジします。今回は、浦幌町でチャレンジを続ける小松さんに、まちの「可能性」についてお話を聞きました。

小松さんが運営する「ハハハホステル」をみてみる

さまざまな若者たちが集うまち・浦幌町

小松輝
株式会社リペリエンス代表取締役社長
一般社団法人ドット道東理事
合同会社Ofuroto代表社員

1994年、徳島県徳島市生まれ。大学で中山間地域のまちづくりについて学んだ後、浦幌町で地域おこし協力隊として働く。2019年に株式会社リペリエンスを設立し、2021年には浦幌町でゲストハウス「ハハハホステル」をオープン。その後、就業促進ポータルサイト「つつうらうら」を開設し、2022年秋には同年代の経営者と共に合同会社Ofurotoを設立。2023年夏には、雑貨や本の販売や、カフェ、事務所などの複合施設をオープン予定。

―― 小松さんの故郷は徳島ですよね?協力隊任期終了後、なぜ故郷に戻らず、浦幌に留まることにしたのですか?

小松)
大学を出てすぐ浦幌の協力隊になったのですが、1年目のときは、漁師さんの手伝いをしたり、電気屋さんで冷蔵庫運んだり、植樹したり、いろいろな人のところに行って、いろいろなことを経験しました。そういう経験を経てできた関係性や、若者を応援してくれる人が町内にたくさんいることに気づいたんです。だから、きっと起業してもなんとかなるはずと思い、協力隊3年目のときに株式会社リペリエンスを設立しました。

―― 応援してくれる方がたくさん浦幌町にはいたんですね!でも、どうしてゲストハウスだったのでしょうか?

小松)
協力隊2年目から町内をまわるツアーを、旅行業務取扱管理の資格を活かして、地元の人たちに協力してもらいながらやっていたんです。バードウォッチングツアーや、はまなす収穫体験ツアーなどなど…でもそのお客さんが泊まれるところがなくて。だから、あった方がいいよな、と思ってゲストハウスを作りました。

森林現場でのレクチャー風景

―― あったほうが良いかもですが…物件も購入してますよね?覚悟がすごいですよね。

小松)
まちづくりに関わっていると、コンサルのようにアドバイスだけで行動しない人もたくさんいるんですよね。言うだけ言って誰も行動しないと、地域は変わらないんですよ。言うだけの人と、行動する人、自分はどっちの立場で町に関わっていたいか考えると、やっぱり自分で言ったことはやっていきたいと思ったんです。

―― 実際、ゲストハウスのオープン当時は新型コロナウイルスの感染拡大真っ只中でしたよね。

小松)
そうなんですよ。オープン前は、外から来た人が町の人と関われる場になると良いなと思ってました。若い子が来て「この町、おもしろそう!」と思ってもらいたかったんです。便利とは言えなくても、おもしろい町にして行きたかったんですよね。
ただ、緊急事態宣言中は1ヶ月30人くらいしか宿泊客が来なかったですし、ずっとコロナ禍でした。それが、2022年の夏には1ヶ月で250人も来てくれて。それ以降、100人以上は毎月泊まってくれているんです。「ちゃんとやっていれば、なんとかなるんだな」と自信にもなりました。

ハハハホステルの様子

―― 現在、ハハハホステルはどんな人にどんな使われ方をしているのでしょうか?

小松)
ビジネス利用だけでなく長期滞在もあります。例えば、町内の食品メーカーに派遣社員として来ている方は、10ヶ月滞在されています。ハハハホステルに住んでいるのがきっかけで町内の人と仲良くなり、浦幌木炭の仕事を休みの日に手伝いに行ったり、地元の農家さんの畑に野菜を取りに行ったりしていました。
他には、大学生も多く利用してくれるんですよね。浦幌で活動する人に会うために、月に5〜6人は泊まりに来ます。浦幌町就業促進ポータルサイト「つつうらうら」があるので、短期間の就労体験をしに来ています。

―― イベントもおこなっているようですが、そちらはどうでしょうか?

小松)
ハハハホステルで行われているイベントのほとんどがみなさんに持ち込んでいただいた企画なんですよ。例えば、幕別のお惣菜屋さんとパン屋さんが移動販売に来てくれたり。浦幌町にはパン屋がないので、来てくれるのは嬉しいですね。
他にも、ヨガレッスンや、アートステイワークショップなど…いろんなイベントをしているので、20〜70代までいろんな方に来てもらっています。

大きなキッチンで、食に関するイベントも行われている。

―― ハハハホステルは、浦幌町ではどんな存在になっていると思いますか?

小松)
高校卒業した10〜20代の人たちが浦幌に帰省したときにハハハホステルを知って、「浦幌にこんな場所があったんだ」「こういう場所があって嬉しい」って言ってくれますね。浦幌の中学生や浦幌部がハハハホステルのキッチンを使ってカフェに挑戦したりもしてくれています。ただ、上の世代の男性たちからは、「若い子が集まってるから行きにくいんだよね」って言われますね(笑)

「暮らしたい町」であるために

―― 町内外から愛されていることを感じます。それでは、これからのハハハホステルについて、描いている理想を教えてください。

小松)
観光など町への目的を持って来てくれる人を増やしたいですね。なのでハハハホステルとしても、ジュエリーアイスを推したり、スポーツ合宿ができることを周知したり…泊まって町で体験することをやってもらいたいなと思っています。
だから、そういう過ごし方ができる町にしていきたいとは思っています。滞在して、町で体験してもらう、それを実現できるための拠点になりたいと思っています。

実は最近、新たに物件を購入しました。ハハハホステルに泊まっても朝早く帰ってしまうのはもったいないので、町内で立ち寄れる店を作りたいと思ったので。店は、雑貨を売っていたり、貸事務所だったり、いろんな要素を詰め込んで、今年の夏にスタートできるよう準備を進めています。

―― ゲストハウスの他にもシェアハウスを運営し、お店を始めようとしているんですね。町内の同年代の経営者3人で合同会社Ofuroto(以下、オフロト)も設立しましたよね。

小松)
浦幌町の留真(るしん)温泉の指定管理に手を上げるため、2022年の秋にオフロトを設立しました。浦幌町のハマナスを使った化粧品を作っている森健太さんと、町内で飲食店事業を営む佐藤紀毅さんと僕の3人が経営メンバーです。
留真温泉は浦幌に唯一ある温泉なので、今より町外の人にも来てもらえる施設になることが、町に来て滞在して、町で体験してもらいたいという理想に全部つながるだろうと思っています。だから、浦幌の目的や滞在時間の中に、温泉を入れたいですね。

写真左:佐藤紀毅さん、中央:森健太さん、右:小松輝さん

―― 森健太さんの化粧品を留真温泉で使えたり、佐藤紀毅さんの食事が食べられたり、その日の宿泊はハハハホステルで…となると全てが浦幌で完結するんですね!こういった同年代と挑戦することは、浦幌にとってどんな意味があると思いますか?

小松)
世代交代していることが、若い子たちの希望になると思っています。70代が役職を担っていて、その人たちが引退したら次は50代で、その50代の人たちが70代になるまで大きな変化がない…そういう社会だと、10〜20代にチャンスはなかなか回ってこないですよね。だから、20代の僕たちが挑戦する機会をいただけたこと、その機会に精一杯打ち込んでいることは、下の世代がハードルなく当たり前のように挑戦できる環境を作っていくことだと思っています。

―― すごい覚悟ですね。

小松)
よく「すごいことをやってるね」と言われるのですが、そんなに難しくないんですよ。一度やってみたら分かるんですが、今の時代、インターネットで調べたらだいたいのことが分かるし、便利な経理ソフトもあります。もちろん、ビジネスモデルは考えないといけないですが。若い子にも挑戦してもらえたらいいな。

「もっとこうだったらいいな」をコツコツと

―― 若い子たちに対して意識していることはありますか?

小松)
格好悪い姿を見せたくないとは思っています。例えば、ハハハホステルも、町からお金をもらって町ありきで経営してたら、僕は若い子たちに示しがつかないと思っていて。もちろん多くの人に助けてもらいましたが、自分で会社を起こして金融機関から融資を受けて物件購入して経営しています。オフロトの他の二人も、それぞれ融資を受けながらちゃんとやっていて、そんな姿を町の人も応援してくれているはずですし、そういう姿を見せることが、若い子たちに対しての「君もやれるよ」というメッセージだと思ってるんですよね。

店舗の説明をする小松さん。

―― いろんなことに挑戦されている印象を受けますが、現状は小松さんの理想の何%くらいまで来れましたか?

小松)
僕は理想を実現したくてやっている、というと少し違うんですよね。「理想」と「もっとこうだったらいいな」は別じゃないですか。もっとこうだったらいいなということに取り組んでいるというか。浦幌には暮らしたい町であってほしいし、暮らしたい町であるために、やった方がいいなと思ったことをやっているという感覚です。ゲストハウスも、留真温泉も、店舗開業も、見えてきたときにやっていて、目の前のことをやり続けているんですよね。

―― すごく情熱的で勢いがあるのかと想像してましたが、もっと淡々としていて、コツコツと確実に一つずつやっている感じなんですね。

小松)
何もしないでいると、浦幌が暮らしたい町ではなくなるんだろうなと思っているんですよ。例えば、10年後や20年後とかに、あそこの飲食店がなくなってしまったらどうなるんだろうかとか、このまま商店街に空き店舗が増えていったらどうなってしまうんだろうとか考えるんですが、シャッターばかりになって、生活に必要なものしか売っていない、つまらない町になっちゃいますよね。休日は町の外に行くような生活にはしたくなくて。

―― だから店を始めるんですね。

小松)
若い人が働きたい場所は、何もしなければなくなる一方だと思うんですよ。だから、働きたい場所や暮らしたい理由を増やしていきたいと思っています。
もっと先の話ですが、ゆくゆくは製造業もやりたいんです。浦幌で作って、町外で売る。売上も伸ばせてたくさんの人の仕事を作ることができるから。でもそれは僕がやらなくてもよくて、他の人がやってくれるならそれでいいと思ってます。今は、そこまでの道のりの途中だと思ってます。暮らしがおもしろくなるためにやったほうがいいな、と思うことはやっていきます。でも…僕、基本的には、何かやりたい人を応援したいタイプなんですよね…。

既に、ビールの醸造所のサポートも始めている小松さん。次に小松さんが応援したくなる若者は、どんな人なのでしょうか。

次回は、一度浦幌町を離れ、町に戻ってきた2人の”若者”をご紹介します。なんと、2人は同級生。22歳の2人は、何を思い、なぜ浦幌を選んだのでしょうか?

浦幌町で働くを探す「つつうらうら」をcheck

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Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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