2023.02.08

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ゲイ当事者が『エゴイスト』の出演者に、インタビューをして知ったこと②—「ひとを愛し、ひとに伝える」

みなさんこんにちは。Sitakkeではお悩み相談コーナーを担当しています、ゲイ当事者でそのなりわいは女装、満島てる子です。

こちらでコラム連載を始めて、早一年半。
読者の方々からのお手紙と向き合うことをメインにしながらも、それだけではなく、時にはLGBTという言葉について ゲストと意見交換をしたり、また時には、 プライドパレードにかける気持ちを剥き出しにさせてもらったり。
性的マイノリティというひとつの立場と視点から、自分の想いを記事として発信するチャンスを、ありがたいことにしばしばいただいてきました。

実は今回も素敵な機会が。
2月に公開予定。浩輔と龍太という2人のゲイの歩みを描いた映画 『エゴイスト』
なんとこの度、その主演を務めた俳優の鈴木亮平さんと、劇中では浩輔の友人役を務め、原作者の高山さんとも親交の深かった、ゲイ当事者であるドリアン•ロロブリジーダさんのお二方から、直接お話を伺うことができました。

こちらの特別コラム、前後編に分けておとどけ。

前編:『エゴイスト』の出演者にゲイ当事者がインタビューをして知ったこと①—「クィア映画の“これから”を作りたい」

後編となる今回は、『エゴイスト』の原作者、高山真さんへの想いであったり、この映画で伝えたいことであったりを、お二人からお聞きしていきます。

あらすじ

——14歳で母親を亡くした30代のゲイ、浩輔(鈴木亮平)。自分を押し殺して生きなければならなかった地元を離れ、東京という都会で、新宿二丁目の仲間とも気楽に交流する毎日。そんな生活を送る彼はある日、飲み友達の紹介で、パーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会います。シングルマザーである母を支えようと、不器用ながらもいつも一生懸命な龍太。その姿に浩輔はだんだんと心惹かれていき、次第に二人は愛し合う仲になっていきます。しかし、人生を共に歩こうとする彼らには、過酷な運命が待ち受けていて……。——

原作者の姿を追って(「浩輔」あるいは「高山真」について)

前回取り上げたように、「当事者性」の問題にも思いを巡らせながら、撮影に臨んでいたことを明かしてくれた鈴木亮平さん。ですが現場に入る前に、まず「浩輔」というキャラクターを作り上げることを意識していたそうです。そのために鈴木亮平さんは、『エゴイスト』という小説を書いた高山真さんについて、ドリアンさんをはじめ様々な方に聞き取りを行ったと言います。

鈴木亮平さん「浩輔という役をどう演じたかにおいては、モデルであり原作者である高山さんがいらっしゃるので、色んな人に(高山さんがどんな人だったのか)ヒアリングをしながら、ドリアンさんにもたくさんのお話をお伺いしました。」

鈴木亮平さんが演じる「浩輔」という人物。そのキャラクター性は多層なバックグラウンドから成り立っています。

その聞き取りが役作りにもたらしたものは、相当に大きかったと見えます。鈴木亮平さんが小説『エゴイスト』に寄せたあとがきからは、その豊かな実りを知ることができます。

鈴木亮平さん「そこで知り得たことが映画『エゴイスト』での浩輔のベースとなりました。博識で、繊細で、意地悪で、愛情深くて、そしてなにより強い人。自分の頭と力で道を切り拓いてきた意志の人。」

浩輔である/になるために、高山真さんを熱心に追い求めた鈴木亮平さん。一方、高山さんとは10年以上の付き合いがあったドリアンさんも、ドリアンさんなりの強い想いをもってこの映画と向き合っていました。

ドリアンさん「『エゴイスト』が映画化されると決まったとき、正直ゲイだからというよりも、「あれだけ高山真さんと仲が良かった自分が出ないわけにいかないでしょ」と思ったんです。」

フィギアスケートに関して綴った新書がベストセラー入り。他にも切り口するどいコラムやエッセイを多々遺しながらも、『エゴイスト』の映画化を知ることなくこの世を去った人物、高山真さん。ドリアンさんは特に亡くなる前の3年間、自身の企画しているバーイベント(「談話室ドリアン」という名前で不定期に開催中だとか)に足繁く通ってくる彼と、様々なことを語り合い、交流を深めていたそうです。
そして、本人をよく知っているからこそ、高山さんにまっすぐ迫ろうとし、丁寧に浩輔を練り上げていった鈴木亮平さんの姿に、感服を覚えたんだとか。

ドリアンさん「高山真さんは、リアルだとなかなかえぐみが強い方なんです。だからまず(小説の中の)浩輔も、もちろん彼ではありながら、そこから少し理想化の入った違うペルソナとして存在している。そこから更に映画となると、モノローグとしての文章を読むことと身体で表現することの差が出てくる部分もあって、なおさら醸し出す空気感は異なってくるはずなんですが、スクリーンで見ると、鈴木亮平さんの演じる浩輔に時々高山真さんを感じる。すごいなと感動しました。」

あたし自身、小説の『エゴイスト』を読んだとき、そして映画の『エゴイスト』を観たときにも、それぞれの手法の違いはあれど、物語の奥に“高山真”の影を見たような気がして、「一体どんな人なんだろう」と心惹かれるものを感じていました。ドリアンさんは高山さんについて、親しみを込めてこう語ってくれています。

ドリアンさん「すごいんですよ。ずっと一緒にいると疲れる(笑)。でも愛すべきクソババアでした。」

オシャレで武装する「浩輔」の姿からも、高山真さんの”えぐみ”を感じることができるかもしれません。

鈴木さんも、高山さんへの想いを次のように書いています。

鈴木亮平さん「高山真様。必要以上に美化されることはあなたもお望みではないでしょうが、あなたを探す旅を通して私は、すでにあなたを他人とは思えないほど敬愛しているということだけは、この場を借りてお伝えさせていただきます。」

ドリアンさんと鈴木亮平さん、それぞれの高山さんに対する“愛”。
それをスクリーンの中に探してみることで、この『エゴイスト』という映画を立体的に楽しむことも可能なのかもしれません。

(ちなみに原作の『エゴイスト』は、高山真さんの私小説としての側面が強いので、控えめではありながらも、ドリアンさんの言う“えぐみ”をテンポの良い語り口とともに味わうことができます。映画は、小説と異なるところもありますが、登場人物それぞれの感情に、より鮮やかな膨らみが加えられているように感じました。)

観る側に投げかけ、問いかける(お二人がこの映画で伝えたいこと)

裏側を知れば知るほど、よりその魅力が湧き出てくる映画『エゴイスト』。
実は鈴木さんは、この映画に関わるにあたり、決意していたことがあったと言います。

鈴木亮平さん「僕が決めていたのは、この映画をきちんとしたクィア映画にしたいということだったんですよ。ゲイの方々が見てくださった時に、共感してもらえる、違和感なくリアルだと思っていただけるものにしたいと。それによって、実際のLGBTQコミュニティ、社会、そしてエンタメの描き方、それらがお互いに影響しあって前に進んでいけるような、その糸口を作れればいいなと考えていました。」

当事者への眼差しを持つ。そのことをとても大事にしている鈴木亮平さん。
昨年の2022年のさっぽろレインボープライドにも足を運んでくださり(その出会いが、今回の取材にもつながりました)、主催側の人間として非常に勇気づけられたことをよく覚えているのですが、そうしたコミュニティへの働きかけを行ってくれている方が、自身の携わる作品を「きちんとしたクィア映画にしたい」と考えてくれていたことには、ひとりのゲイとして感動を覚えました。
この映画を観ることが、性や愛のあり方、マイノリティの存在についての人々の意識の刷新につながることを、あたし自身も願ってやみません。

さっぽろレインボープライド2022にて、壇上から参加者に呼びかける鈴木亮平さんとドリアンさん。

鈴木さんは、小説『エゴイスト』のあとがきの中でも、この社会が「前に進んで」いくことについて綴っています。

鈴木亮平さん「中学生の浩輔のように自らのセクシャリティを理由に命を断つ選択を考えてしまうような少年少女が、この国から、この世界から一人もいなくなることを私は願います。そのためには私を含めた社会全体の意識の変革、教育や制度の改革が必要だと感じています。その変革への一助に、この本が、この映画がなってくれることを強く願っています。」

一方、この映画がテーマとしているのはセクシャリティだけではありません。
タイトルにもなっている「エゴイスト」。ドリアンさんは、その語の意味についてもこの作品をきっかけに思いを巡らせてほしいと語ります。

「恋愛だけじゃなくて様々なことって、基本的にはエゴイスティックなものだと思うんです。それは、ゲイであってもそうでなくても一緒。「自分がこうしたい」とか、そんな情動によっていろんな行動が選択されていくわけで、完全にエゴのない行為って基本的に人間の中には無い気がするんですよ。人と人がぶつかって関係性を構築していく時って、まさにお互いのエゴがぶつかっているようなもの。この映画を観て、登場人物たちの行いが果たしてエゴイスティックと言えるのかどうか、皆さんに考えていただきたいですね。」

あたし自身はこの映画を観た時、浩輔の振る舞いのひとつひとつから、勝手にそのエゴをゲイ特有のものとして感じ取っていました。

同性愛者であることを理由に否定され続けた学童期を経て、その頃の弱さを隠すようにブランドもので身を固め、武装した「自己」を作ったり(あたしにとっては、その武装にあたるのが女装なのかもしれません)。
業界の中での一定数のモテ•立場を保つために多くのゲイがそうするがごとく、パーソナルトレーナーと契約して身体を鍛えたり。

そして、「僕がそうしたいだけだから」と、龍太とその母に与えられるものを与え続け、そうした具体的なやり取りによって、ある意味一方的に相手を自分の近くにつなぎとめようとしたり(結婚をはじめとした「ありがちな愛し方、結ばれ方」が無いからこそ、あたしも想い人に対して似たようなくさびを打ってしまった経験があります)。

浩輔が龍太に与える愛。それが「エゴ」なのか、そもそも「愛」とは、「エゴ」とは何なのか。この映画を見た人は必ず考えさせられると思います。

ですが、ドリアンさんが言ってくれたように、身を守り保とうとするエゴも、誰かを手に入れたいと願う意味でのエゴも、それは同性愛だからどうというものではなく、セクシャリティを超えて一定数共通なのかもしれません。
ゲイとしての独自の文脈というのはあるでしょうが(その文脈をきちんと反映しているという意味でも、この作品は当事者を丁寧に描写していると思います)、『エゴイスト』が伝えるメッセージは、より開かれたもの。
きっとたくさんの人が、この映画の鑑賞を通じて、自分自身と向き合うことができるのではないかと思います。それは、あたしにとっても一緒。

正式な公開が来月に迫るなか、お二人の話を聞いて「やはりもう一度映画館で見返したい」と感じている自分が、インタビュー現場にはいたのでした。

まとめ

鈴木亮平さん、ドリアン•ロロブリジーダさん。
それぞれの言葉から伝わってきたのは、映画『エゴイスト』にかける真剣な想いと、明るい未来に向けてのひたむきながらも強い願いでした。

お二方にヒアリングするという大変貴重な機会を作ってくださった、本作品のLGBTQ +インクルーシブディレクターのミヤタ廉さん、ならびに東京テアトル株式会社の簗詰容子さんには、厚く御礼申し上げる次第です。

『エゴイスト』は今年2月10日(金)公開。
北海道でも、札幌市内をはじめとして各所で上映を予定しているんだとか。
(最新の劇場情報についてはこちら に掲載されています。)

公式ホームページには、予告動画や監督インタビュー、メインキャストのプロフィールをはじめ、事前にチェックしておきたい情報が盛りだくさん(https://egoist-movie.com/ )。こちらもぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。

愛とはなんなのか、エゴとはなんなのか。
そして、クィア映画を作り、観て感じるとはどういうことなのか。

『エゴイスト』のもたらすインパクトを一人でも多くの人に感じてもらいたいと、ひとりのライターとして思う次第です。

***

取材・文:満島てる子
Edit:なべ子(Sitakke編集部)

満島てる子:オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。LGBTパレードを主催する「さっぽろレインボープライド」の実行委員を兼任。) 2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム【てる子のお悩み相談ルーム】を連載中。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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