2022.12.20

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クマ出没を「他人ごと」に思っていた大学生の僕が、初めてクマと向き合ってわかったこと|編集部ピックアップ2022

北海道で暮らすみなさんと、一緒に作り上げるWEBマガジン「Sitakke」。人生の選択肢が多い時代だからこそ、日常の「モヤモヤ・悩み」に寄り添う情報を届けるべく、これまで約5,000本の記事を配信してきました。

その中で、ことし特にアクセス数が多かった上位 10位の記事を「編集部ピックアップ」としてランキング形式でお届けします。
2位に引き続き、今回は、第1位にランクインした記事です。

***

クマ出没を「他人ごと」に思っていた大学生の僕が、初めてクマと向き合ってわかったこと

北海学園大学3年のりくといいます。

僕はいま、あるクマ対策プロジェクトに参加しています。とはいっても、クマについて特別な知識があるわけではありません。むしろ、クマが出没したというニュースを見ても、「山に近いところの話だから関係ないや」と、どこか“他人ごと”のように考えていたのです。

しかし、その認識が変わるできごとがありました。

昨年6月、札幌市東区の住宅街に現れたクマ

昨年の6月、札幌市東区の住宅街にクマが現れたというニュースを見たことでした。多くの人が利用するショッピングセンターや学校もある市街地をクマが駆け抜ける映像に、僕は衝撃を受けました。

クマの問題は決して他人ごとではない。自分たちの問題として捉える必要があると身にしみて感じました。

でも、クマを自分ごととして考えるといっても、いったい何から始めたらいいんだろう…。

そんなとき、HBCから、「もんすけラボ(※1)の取り組みの一環としてスタートした“クマとまちづくりを考えるプロジェクト”に参加してみない?」と声をかけて頂きました。

このプロジェクトは、クマ対策に興味がある学生が集まり、クマの専門家や札幌市の協力のもと、「クマとまちづくり」を考える取り組みです。プロジェクトには、北海学園大学の学生の他にも、酪農学園大学や北海道大学大学院の学生も参加しています。

「自分にも何かできることが見つかるかもしれない!」そう考えた僕は、プロジェクトに参加してみることにしました。

連載「クマさん、ここまでよ

“クマを知ること”で対策が見えてくる

それにしても、どうしてクマは山から市街地に入ってきてしまうのでしょうか?

疑問に思った僕は、参加学生のひとり・伊藤泰幹(たいき)さんに聞いてみました。伊藤さんは、北海道大学の大学院でクマと人について研究しています。

クマ調査中の伊藤さん

伊藤さんによると、親離れしたばかりで、好奇心旺盛な若いオスグマが出てくるケースがよくあるそうです。その背景には、市街地周辺の森林にオスから逃れる形で子連れの母グマが生息している可能性があるそうです。なぜオスから逃れるかというと、繁殖期にオスグマは、自分の子孫を残すために、母グマが連れている子どもを殺してしまうことがあるからだそうです。

クマは食料を求めて街へ出てくると思っていた僕は、そうでないこともあると初めて知りました。

クマが迷い込まないようにするために、何かできることはないのでしょうか。

伊藤さんは、一例として、電気柵を設置することが有効だと教えてくれました。しかし、電気柵は費用がかさむため、費用対効果を考えるとなかなか難しいそうです。

そこで、有効だというのが“草刈り”。

毎年恒例となっている、札幌市南区石山地区の草刈り(ことし8月)

というのも、クマは体が隠れるような茂みを好んで移動するそうです。森林から住宅街までみどりが茂っている通り道が続いていると、そこからクマが迷い込んでしまうこともあるんだとか。

クマが迷い込まないようにするためには、草刈りによって視界を確保することが重要だと教えてくれました。

僕たちは草刈りの効果を検証するため、住民で草刈りを行うという札幌市南区真駒内南町7丁目の「南町みどり公園」にお邪魔させて頂きました。

自分たちが関わることに意味がある

南町みどり公園

公園は住宅街にほど近い場所にあります。

遊具のまわりは砂地になっていて、公園内の芝生は刈り揃えられていましたが、公園の奥には川があり、そこまでの間はかなり鬱蒼としていて見通しが悪く、まさにクマが身を隠しやすいように感じました。

この奥に川が流れている

実験では、クマの等身大パネルを使って距離による見え方の違いを検証します。

酪農学園大学でクマを研究している学生が作成。住宅地でよく目撃される若いオスグマのサイズ

30メートル先では、クマがすっぽりと草に隠れて、ほとんど認識することができません。

5メートルほどの距離でも、草丈が高いところではかなり見えづらい箇所もありました。

手を挙げている学生の足元にクマを置いています

何より公園は、いつも子どもたちが利用する場所です。しゃがんで、子どもの目線になるとクマのパネルは完全に隠れて見えません。

つまり、クマにとっても人間を目で確認しづらいということになります。

実験中、真剣に作業を見つめる男性の姿がありました。

今回、草刈りを企画した町内会長の久保専一(くぼ・せんいち)さんです。僕は、久保さんに草刈りを企画した経緯を聞いてみました。

左が北海学園大学のみことさんと僕、右が町内会長の久保さん

町内会で草刈りを始めたのは2年前から。きっかけは、10年前に子どもたちがブランコで遊んでいたとき、川沿いの茂みからクマが現れたことだといいます。

これを聞いたとき、僕は伊藤さんから聞いた、「クマは茂みを好んで移動する」ということを思いだしました。

この公園は、川沿いに茂ったみどりで、山からつながっています。もしかしたら、川に沿って下ってきたのかもしれません。

このできごとから、草刈りが実施できるまで8年間。なぜ、これほど時間がかかってしまったのでしょうか。

久保さんは「草刈りは人手が必要だし、草刈り機の扱いも大変で町内会だけで行うのは難しい部分もある」と話します。

久保さんによると、10年前にクマが出没してから、町内会は札幌市に草刈りの援助を依頼したこともあったそうです。しかし、川周辺の草刈りまではしてくれなかったといいます。

久保さんは「草刈りは人手や費用もかかるし、機械の扱いも大変。本当は、札幌市がすべてやってくれたら…」と本音も。

もちろん、一度草刈りをすればそれで終わりではありません。草は毎年伸びてきます。

たしかに、茂みの草丈は大人の体がほとんど隠れるくらいに伸びていました。

左端に伊藤さん

つまり、定期的に行う必要があるのです。実際にクマ対策を行うには、費用や人手不足など様々な課題があると感じました。

久保さんのお話を聞くと、「全て行政がやってくれたら…」と考えてしまいます。

しかし、行政だけでそれを行うには限界があるそうです。

札幌市のクマ担当の方によると、「人数的な面と、予算についても毎年取れるか見通しがたたない。行政だけでなく、地域の人と一緒にやれるのが理想」だといいます。

札幌市のクマ担当では、連日クマの目撃情報への対応や、情報発信、電気柵の貸出などの予防策、さらにその他のシカなどの動物への対応も行っています。それを考えると、行政だけで草刈りを行うのは厳しいという現実があるのです。

行政だけに任せるのではなく、自分たちでできる対策をしていくことが大切だと感じました。

久保さんが、札幌市の協力を得ながら、町内会の人も集めて草刈りすることを決意したのは、こんな想いがあるからです。「毎年、この公園で行われる花火大会やバーベキューを子どもたちはとても楽しみにしている。子どもたちが安全に遊べるような環境をつくってあげたい」

実験を見つめる久保さんの眼差しは、子どもたちへの温かい思いで溢れていました。

意識の差をつくるのは、知識かもしれない

プロジェクトに参加してまず感じたことは、クマの知識がある人とそうでない自分とは、クマに対する意識に大きな差があるということです。

何も知らなかった僕は、ただクマを恐れるだけでした。しかし、色々な方にお話を聞いて、クマが山から出てきてしまうのには原因があることを知りました。

ただ怖がるのではなく、少しでもクマを知ることで、自分にできることが見えてくるのだと思います。

2019年、札幌市南区の住宅地に現れたクマ

そして、自分たちにもできる対策の一つが今回の草刈りです。

行政だけでは難しいという現実がある中、僕たちを含めて全員が積極的にクマ対策に関わることが必要だと思いました。

ゴミを所定の場所にきちんと捨てる。こんな当たり前のことも、実は大切なことです。

大学生である僕たちがこうした活動を広めることで、若い人たちもみんなで対策に参加できるきっかけになればいいなと思います。

草刈り当日の様子は、連載「クマさん、ここまでよ」でお伝えします。

※1:もんすけラボ
HBCと北海学園大学が2019年に開設した若年層向け協創型メディアシンクタンク「北海道次世代メディア総合研究所」の愛称。学生・教員とHBCスタッフがアイデアを出し合い、実践活動につなげています。

文:「クマとまちづくり」プロジェクトメンバー・りく
編集:Sitakke編集部IKU

元記事:クマ出没を「他人ごと」に思っていた大学生の僕が、初めてクマと向き合ってわかったこと
※掲載の内容は元記事掲載時(2022年9月)の情報に基づきます。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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