クマの出没や被害があっても、農地や山際だけで、市街地には来ないだろう…
なんて、油断していられる時代では、なくなりました。
連載「クマさん、ここまでよ」
【この記事の内容】
・市の反省…市民を「意図的に危険にさらした」
・一方、市民は、警察は…
・旭川市のこれから
11月19日、旭川で開かれたヒグマフォーラム。クマの専門家や旭川市のクマ担当らが講演をしました。
旭川では去年、中心部でクマの目撃や痕跡の発見が相次ぎました。
旭川の市街地には、忠別川・石狩川・美瑛川といった川が流れています。忠別川は、JR旭川駅のすぐ裏。周囲にはショッピングセンターや飲食店など、市民・観光客が集う場所が多くあります。
最初の通報は、去年6月19日・土曜日の早朝。河川敷でクマのフンが見つかりました。前日に札幌市東区の住宅地に出没したクマも、川を伝って入り込んだとみられていますが、似た状況が起きていたのです。
講演の中で、クマ対応にあたる旭川市環境部環境総務課の職員は、市の対応は「スタートからダメダメだった」と明かしました。
市は、「市民がパニックにならないように」と、すぐ近くにある駅に情報提供するのを控えたといいます。
さらに、市が河川事務所に河川敷の閉鎖を依頼したのは、4日後の23日・水曜日。その間にも、クマの目撃や痕跡の発見があったにもかかわらず、河川敷はいつも通りに利用できる状態でした。
「つまり、市は意図的に河川敷利用者を危険にさらしたことになる」と、重い口調で話しました。
その一言で、会場にハッとした空気が流れたのを感じました。行政職員が、ここまではっきりと反省を口にすることがあるのかという、驚きがありました。
市がすぐに情報発信をしなかったこと、河川敷の閉鎖までに時間をかけたこと。それはたしかに人命を危険にさらす行為です。NPO法人もりねっと北海道の山本牧(やまもと・まき)さんは、「事故が起きなかったのは、このクマの自制心・警戒心のおかげ」と話しました。
ただ、その後の経緯を聞いていくと、反省点があるのは市のクマ担当だけだろうか、と思えてきました。
夜間や住宅地での発砲は、法律で禁止されています。警察の判断で、例外として撃てるケースもありますが、そのハードルが高いことが、これまでもたびたび問題になってきました。
ハンターが出動し、クマが目の前にいるのに、何もできない…同じことが旭川市でも起こりました。警察と発砲について話しているうちにクマが逃げてしまったこともあったといいます。
日ごろから、緊急時を想定した警察やハンター、専門家との連携が必要だったのです。
そして、市民の行動も課題のひとつでした。
河川敷に立ち入り禁止のバリケードや注意看板を設置しても、壊したり、迂回したりして入る人がいたといいます。河川敷にアイスなど食べもののゴミを放置する、クマを引き寄せかねない行為も見られました。犬にリードをつけずに散歩させる人や、イヤホンをつけたままランニングする人もいたといいます。
つまり、市民もクマが出たときにどうしたらいいのか、十分知らなかったのです。市が「クマが出たと知ったら市民はパニックになる」と考えたことに、自信を持って反論できるでしょうか。
クマが川沿いに生い茂る草に体を隠しながら移動し、市街地に入るリスクを実感した旭川市。
ことしは、河川敷の草を60メートルにわたって刈りました。そこに電気柵を設置し、クマが来たらすぐに気づけるよう、通知が来るセンサーカメラもつけました。
NPO法人もりねっと北海道や、酪農学園大学、北海道立総合研究機構も、市の対策に協力。「どんなクマが、なぜ」を知って、有効な対策をしようと、調査を強化しました。
旭川では、今後は市民への普及啓発に力を入れ、行政の中でも専門的な知識や経験を持つ職員を育成したいといいます。さらに民間の対策組織や、近隣の自治体との連携についても必要性に触れていました。
去年の反省を踏まえた強い危機感が、その根底にあります。実現のためには、クマ担当だけにとどまらず、教育分野なども巻き込んだ市全体・市民・近隣自治体の協力が必要になります。
フォーラムには、今津寛介市長も登壇。「人間とヒグマの知恵比べが今後も続く」「きょうを契機に、みなさまと想いをひとつにして、ヒグマとの共生を考えていきたい」と宣言しました。
これだけ道内各地で出没や被害が相次いでいるのに、備えは足りていたのか…旭川市の反省に、身に覚えのある自治体・市民・組織は、多いのではないでしょうか。
反省を明かし、決意を持って前に進み始めた、旭川市。フォーラムに参加していた札幌市のクマ担当は、「川をつたってやってくるクマの対策や、近隣自治体との連携の必要性など、共通する課題があって参考になった」と話していました。
都市部を含め、全道で身近になってきた、クマとの付き合い方。出没が続いている最中はもちろん、後から振り返って反省し、広く学びを共有していくところまでが、求められているクマ対応なのかもしれません。
旭川で市民への普及啓発が足りなかったことにも通じますが、反省点があり、改善しなくてはいけないのは、メディアも同じです。
次回の記事でお伝えします。
⇒【「クマの事故はメディアのせい」批判受け、1年半前の取材を“記者の目線”から振り返る】
連載「クマさん、ここまでよ」
文:Sitakke編集部IKU