アルコール全般と地元・北海道をこよなく愛するライター・オサナイミカが、今こそ知ってもらいたい、北海道のワインのこれからを綴ります!
1972年に設立され、今年50周年を迎えた【富良野市ぶどう果樹研究所/ふらのワイン】。全国はもとより、海外からも観光客の訪れる道内有数の観光地に、なぜ市が運営するワイナリーがあるのかを綴ります。
先月21日(水)、ふらのワイン50周年を祝うパーティが、ぶどう畑の中で開催されました。
生まれも育ちも北海道の筆者オサナイ、当然ふらのワインの存在は知っておりますが、正直に言うと観光地のお土産ワインという認識でした。
その認識が変わり始めたのは2008年~2009年。
その頃開催されたお酒のイベントで、ふらのワインの醸造技術管理士(エノログ)である高橋さんから、直接お話を聞きながら飲んだミュラートゥルガウやバレルふらのを飲んだ辺りから。
そして今回、久し振りにじっくり高橋さんのお話を聞いて、あの頃からさらに進化していることが分かりました!
富良野市は約7割が山林で、傾斜地が多いまち。ワイナリーが設立された1972年頃に減反制度があり、それまでお米を作っていた農家さんは、玉ねぎやにんじん、メロンやスイカなどの栽培に転向していきました。
ただ、傾斜がきつかったり、砂利が多くて畑作には向かない土地もたくさんあり、市で全国の似たような土地を調査したところ、ぶどうなら栽培できるのでは?と言うことで、試験的に苗木を植えることにしたそうです。
その頃の北海道内にあったワイナリーは、1963年に設立された『池田町ブドウ・ブドウ酒研究所』のみでしたが、その池田町ブドウ・ブドウ酒研究所が、日本で初めて自治体が運営するワイナリーとなります。
そのノウハウも教えていただきながら、富良野市ぶどう果樹研究所が誕生したわけですが、最初からうまくいったわけではありません。気候に合わず、育たなかった品種も色々あったそうです。
苗木を植える場所も色々試してみたそうです。
雪も積もり、朝晩の寒暖差の激しい富良野で約40年経った苗木は、このように立派な樹木になりました。
現在も50種類ほどの品種を栽培しているそうですが、現在の製品で使用されているのは20種ほど。他は、温暖化で気候が変わりつつあるこれからの富良野で、どの品種が合うのかと試験栽培されているもの。
ぶどうが収穫できるようになるまでには、苗木を植えてから最低3年はかかりますので、私たちが知らないところで、この先のことを考えて取り組んでいることが分かりました。
現在、富良野市内には21件の契約農家があり、ぶどう畑の広さは30hになるそうです!その他に、市が管理しているぶどう畑が20hということで、収穫時期になるとぶどうが入ったコンテナが大量に運ばれてきます。
コンテナの中には、収穫を終えたばかりのセイベル13050がギッシリ入っていました。
(工場内はブドウの甘い香りに包まれておりました!)
この品種は、耐寒性があるので北海道の気候に合うということで道が推奨していたこともあり、昔のぶどう農家さんはかなり植えていたそうです。
一粒味見させていただきましたが、渋みは全然なく、甘みと酸味のバランスがちょうど良い!以前の北海道産のワイン用のぶどうは、もっと酸っぱくて渋みがあった記憶があるので、やはりブドウの味わいそのものも変わっていているのかなと思いました。
ぶどうには枝が付いているので、機械を使って振り分けます。
機械は使用しても、人の目でも異物がないか確認。
使用している機械は、ふらのワイン用に設計したものもあり、より美味しいワインを作るために何をすることが大事か、最新式の機械の情報など、情報収集を怠らないようにしているそうです。
機械で素早く処理できると、空気に触れる時間が減るので、酸化しにくくなるという利点があります。
例えばこちらの機械はワインをろ過する機械なのですが、今までは菌を死滅させるために熱処理しないといけなかったのが、この機械を使用することで熱処理しなくても無菌状態になるので、よりフレッシュな状態で貯蔵タンクに送り込むことができるのです。
このような設備からも、圧倒的に以前より美味しいワインが出来るようになったのです。
パーティの際、最初に飲んだこちらのワインは『ふらのスパークリングワイン ぺルル・ブランシュ』という、富良野市内でしか入手できない限定品で、600本しか販売されていません。
というのも、こちらのワインの製法は、『瓶内二次発酵』というシャンパンと同じ製法で作っていて、こうして1本1本瓶を回すという作業をおこなっております。
こうして澱を沈めて取り除き、製品になるのですが、さすがに600本以上製造するのは至難の業。
『評判が良ければ製造本数も増やしていきたいが、そうなるとまた新たな設備の導入が必要ですので、しっかり見極めていかなくてはなりません。』と、高橋さん。
ちなみにこちらのスパークリングワインは、“リースリング”というぶどうをブレンドしており、北海道ではあまりないタイプ。食前酒としてはもちろんでしたが、食中酒としても『中富良野さん坊ちゃんかぼちゃのポタージュ』にピッタリでした!
かなり濃厚なポタージュでしたが、それに負けない辛口スパークリング。失礼ながらふらのワインさんでここまでのスパークリングワインが造れるようになっていたことに驚きました。
話しは工場見学に戻りますが、こちらは樽貯蔵庫。
20種類ほどの樽を試し、どの樽がふらのワインに合うかを検証し、現在使用している2種類のフレンチオーク&アメリカンオーク、計3種類の樽に絞ったそうです。
今まで何度か樽貯蔵庫を見学してきましたが、まるで新品のようにキレイです。
『これでも5年は経っているのですよ。実はここの貯蔵庫は、他よりかなり乾燥させています。私が湿気のこもったあの匂いが苦手でして・・・』と、高橋さん。
言われてみれば、地下の貯蔵庫なのに、あの独特の空気感がなく、少し涼し目の普通の倉庫にいる感じです。
実は乾燥気味の貯蔵庫だと、樽熟成している時にワインがどんどん蒸発してしまうのです。(よく天使のわけまえと言います)
蒸発すると、樽の中でも空気に触れることになるので、酸化してしまいます。なので、減った分は毎週のように補填しているそうです!
そんな面倒で効率の悪いことをしていたとは・・・(苦笑)
それもまた、安定した品質で美味しいワインをお届けするための作業なのですね。
今回の食事会でも出された、『羆の晩酌』。オサナイは個人的にふらのワインを代表するワインと思っています。というのも、ジンギスカンなどのしっかりした肉料理に負けない力強さを感じるスパイシーなワインでして、まさに北海道らしいワインだからです。
『こちらのワイン、貯蔵の樽をアメリカンオークにしてから以前より落ち着いた味わいになり、一気に人気が出ました。もちろん特徴であるスパイシーさは残していますが、より多くの方に好まれる味わいになりました。』と、高橋さん。
ちなみにふらのワインが造る赤ワインは、渋みがしっかりあるものが多いので、樽で1年熟成させ瓶詰めしてからさらに数年は寝かせた方が美味しく飲めるのです。
今回の食事会で飲んだツヴァイゲルトレーベも2016年でした。
『もし、羆の晩酌の2012年あたりをお持ちの方がいらっしゃったら、いい具合に化けているかもしれませんね。私も持っていないので、ぜひ飲んでみたいです。』と、高橋さん。
羆の晩酌好きとしては、そんな機会があったらぜひ、ご一緒させてください!(笑)
こちらは今のところ、北海道では販売されないケルナー・アシリフラヌイ。
というのも、生産本数がまだ少ないため、物産展などで販売予定だそうです。
今回、特別に飲ませていただきましたが、北海道のケルナーも、こんなニュアンスが出せるのか!と、今まで飲んできたものとは違う、深みのある味わいに仕上がっていました。
温暖化の影響だけではなく、今までの研究の成果がこの1本に詰まっている気がしました。
そういえば暫くふらのワインを飲んでいなかったなぁという方、ぜひこの機会に改めて飲んでみて下さい。
直売所には有料試飲コーナーもありますので、色々試すことも可能ですよ。
ところで、今回畑のど真ん中で素晴らしいお料理を提供して下さったのは、【ル・ゴロワ フラノ】の大塚シェフ。
既に10月はランチ・ディナーともに予約で一杯という、人気店。久し振りに大塚シェフのお料理をいただきましたが、本当に富良野や北海道の食材の良さを、最大限に生かしたお料理の数々でした。
そのお料理たちに寄り添うワインをセレクトされた、エノログでありシニアソムリエである高橋さん、本当に完璧でした!これからのふらのワインに、大いに期待しております!!
(席がお隣だったので、後ろ姿です・笑)
写真・文 オサナイミカ
【ライター:オサナイミカ PROFILE】
札幌生まれ・札幌育ちの、アルコールをこよなく愛するアラフィフ、小学生の息子の母。 (株)リクルートが発行する情報誌生活情報サンロクマル(現Hot Pepper)の営業を経て、 2007年よりWEB情報サイトSapporo100milesの編集長として、札幌や北海道の食と観光の情報を
【オサナイミカのつぶやき】にてアップしている。