2022.07.16
深める北海道からさまざまな価値観を発信しつづけるクリエイターたちの視点や素顔を覗くコラム「HOKKAIDO CREATOR INTERVIEW 」。今回のゲストは、キュートでどこか懐かしいタッチが印象的な絵を描く、イラストレーターのヤマモトクミコさんです。
実はヤマモトさん、海上自衛隊員として約10年勤務した後、結婚・出産を経て、2021年に独学でイラストレーターになったんだそう。
それぞれの環境を楽しみ、「自分が好きなこと」にチャレンジし続けてきた、彼女のパワフルな生き方とは?また、出身が名古屋市で、自衛隊員として全国各地で生活を送ってきたヤマモトさんが感じる北海道の魅力についてもお話をうかがいました。
企業とのコラボイラストや、北海道庁のキャンペーン「北海道みんなの日(7月17日)」のイメージポスターの制作など、さまざまな方面で活躍しているヤマモトさん。もともと、幼少期からイラストを描くのが大好きだったヤマモトさんでしたが、仕事にしようと考えたことは、つい最近まで”全く無かった”んだそう。
「そもそも自衛隊の仕事が結構楽しくて、定年まで続けるんだろうなって思ってました」
当時最新鋭の護衛艦の乗員に抜擢されるなど、順調にキャリアアップを重ね、任務に没頭されていたヤマモトさん。
同じく自衛隊員だったご主人との結婚後も変わらず仕事で多忙な毎日を過ごしていましたが、転機となったのは、妊娠から半年ほどが経った頃にご主人がうつ病を患い、休職されたことでした。
「私がどうにかしなきゃ」とそれまで以上に仕事に励み、産休日直前まで全力で勤務。出産後は半年ほどで復職するつもりでいましたが・・・
「出産後に私まで見事にガクッと来てしまいまして。赤ちゃんを産んだ後のことをきちんと考えるなど準備がしっかりできていなかったせいで、初めての育児がすごく辛くて。寝られないし、やりたいことを全然やれていないことにイライラするようになって。だんだん自分を惨めに思うようになり、何をする気も起きず、一日中ぼーっと過ごすようになりました。いわゆる産後うつでした。」
でも、そんな状態からの回復のきっかけをくれたのもご主人でした。
「クミちゃん、イラスト描くのが好きだったよね?」と iPadを購入し、ノートやペンと一緒に、渡してくれたのです。
「落書きのような感じで始めたんですが、久しぶりに描いてみたらすごく楽しかったんです。幸福感が得られ、もっと上手く描きたいなって欲が出てきて。もともと明るかった自分自身を取り戻す”リハビリ”みたいな感じでした」
とはいえ、イラストレーターになるのは、まだまだこの先。ご主人とともに自衛隊を辞め、自然豊かな場所で過ごそうと、ご主人の地元である北海道に移ってきてからのことです。ヤマモトさんは通信会社など、いくつかの会社勤めを経験しますが、これまた心の余裕がなくなる結果に。仕事にやりがいと楽しさを感じる一方で、知り合いも友だちもいない環境に寂しさを感じ、初めての子育てとの両立にも大変な思いを重ねていくことになりました。
そして遂に「もうイヤだ!」とストレスが爆発。
すると、イキイキ働けるようになっていたご主人が「俺の収入もあるし、クミちゃんはしばらく仕事をしなくても大丈夫だよ。それより最近、絵描いてる?」と声をかけてくれました。
「この際、とことんやってやる!と、やけくそでめちゃくちゃ描きまくりました」とヤマモトさん。作品を何気なくSNSで毎日公開していると、日に日に見てくださる方やメッセージをくださる方が増え、さらに描こうという意欲につながった、と当時を振り返ります。
日々、スケッチブックやSNS上でイラストを描き続けていたヤマモトさんに転機が訪れます。ある日、養蜂場を営む幼なじみから「お金を払うから商品のパッケージを描いてほしい」という依頼の声がかかったのです。「そこで初めてイラストでお金をもらえるんだと認識しました」と当時を振り返るヤマモトさん。
そのとき、ただ単に自身が好きな絵を描くのではなく、要望をていねいにヒアリングし、それを形にすることに面白さを感じ、以来、もっとやりたいと本気になりました。
毎日5時間程度、作品作りの時間を確保し、公募のコンテストに片っ端から応募、営業活動として企業に作品を送る活動も始めました。頑張った成果が出て、2021年10月の北海道主催『北方領土の日』ポスターコンテストで最優秀賞を獲得。
いよいよ仕事にしようという決意が固まったところに、タイミング良く仕事の依頼が増えて、これまでに野菜農家さんやお茶屋さん、日本酒メーカーなど多くのクライアントにイラストを提供しています。
今春に第2子を妊娠し、つわりがひどかったことからいったん仕事は控えていましたが、そろそろ活動を再開する予定。「チカホや近所のカフェなどで、似顔絵を描いてみたい」と意欲を燃やしています。
ヤマモトさんが描けるイラストの最新作のひとつは、北海道が制定した「道みんの日*1」を記念するポスター。
少女とも少年とも見える人物が、夏の北海道を象徴するひまわり、ライラック、カスミソウ、ラベンダーを抱く姿が描かれていて、その爽やかさが目を引き、印象に残ります。「全道の方に見ていただけて嬉しいですし、好評をいただけていると北海道庁の方から聞き、ホッとしています」
自衛官時代、様々な場所で暮らした経験を持つヤマモトさん。そんな彼女から見た北海道の魅力とはなんでしょう?
「皆さんが優しいですよね。外出先で困っていると必ず誰かが助けに来てくれる印象があって、暮らしやすいところが大好きです。子どもが遊べる広い公園が多くあるところや、自然を楽しめるアクティビティが多いのも嬉しいです。また、よく言われますが、野菜や魚をはじめ、食べ物が本当においしいです。特に私が感動したのがジャガイモ! すごく甘くておいしくて、ジャガイモだけでも生きていけるんじゃないというくらい(笑) お味噌汁の具にする習慣には当初ビックリしましたが、今ではハマってます!」
最後にあらためて、Sitakke読者の皆さんへのメッセージをいただきました。
「元気を保ったり、回復するためには何か原動力が必要だと私は痛感しました。皆さんも、仕事や子育て、介護など、それぞれ事情があってなかなか気持ちに余裕が……という状況かもしれませんが、少しずつでも、好きなことをする時間をぜひ取り入れてほしいです。
これまでの人生を思い返すと、困難を克服する時、私はいつも好きなことをやっていました。例えば、自衛隊入隊後の2年目に東日本大震災があったのですが、精神的にも身体的にも任務が想像以上に大変でした。でも4年目に赴任した基地に軽音楽部がありまして。私は音楽も大好きなので、その部活動がとても楽しくて。すると任務が楽しく感じられるようになったんです。仕事で成果が出るようになると、やりがいをもって勤務することができました。人は、与えられた仕事だけだと頑張るのは難しいんだと思います。
まず自分が好きなことをやれていて、余裕があるなと思ってから、パートナーや家族の好きなことも応援できるといいんじゃないかな」
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※1)北海道庁では、7月17日を「北海道みんなの日」(愛称「道みんの日」)として、北海道の価値を見つめ直し、これからの北海道を考えるきっかけづくりの取り組みをしています。
イラスト:ヤマモトクミコ
文:にの瀬
Edit:nabe (Sitakke編集部)
取材日:2022年7月