札幌の木村真依子(きむら・まいこ)さん。味噌汁でも、ハンバーグでも、パスタでも…どんな料理にも、必ずまわしかけるものがあります。

それが、日高昆布から取った“だし”。

木村さんは、新ひだか町三石の昆布漁師の家に生まれました。家業に「誇り」を感じていたといいますが、地元では、漁師は代々「男性の仕事」。木村さんは新ひだか町を出て、札幌に移住しています。しかしその生き方からは、故郷を「離れた」というよりも、故郷と「つながっている」印象を強く感じます。

生まれた環境を強みにし、さらにじぶんらしい仕事を生み出した木村さんの生き方、そして、木村さんが考案した簡単な“だし”の取り方と、絶品レシピをご紹介します。

この記事の内容
・“だし”で暮らしをおしゃれに…家業への誇りと、じぶんらしい継ぎ方
・面倒な下処理いらず!簡単な“だし”の取り方
・肉汁に深みを増す… “だし”を使った絶品レシピ
・コロナ禍で客足が遠のいて…自分の人生を見つめなおして思ったこと

「おしゃれなひとはだしをとる」

木村さんが販売している代表的な商品がこちら、みどりが印象的な、おしゃれなギフト。

パッケージは、中に入っているものがわからないようにこだわって作ったといいます。

開けると出てくるのは…昆布です。

左が“だし”をとるのにおすすめの根こんぶ、右がサラダのトッピングなどに便利な極細こんぶ。
スーパーマーケットなどで見かける昆布は、大きな透明な袋に入っているものがほとんどですが、「ギフトとして、もらって嬉しいように」とおしゃれなパッケージにこだわったといいます。

木村さんは、「ナナクラ昆布」というブランドで、日高昆布をオンラインで販売し、だしの取り方講座を開いています。

目指すのは、「おしゃ出汁女子(おしゃだしじょし)」を増やすこと。昆布でだしを取ることを、おしゃれとして広めたいといいます。

「私は毎日おだしを取るんですけど、そうすると自分がちゃんとしているような気持ちになるんですよね。自分に丁寧に、自分を大切にしているような気持ちになれるんです」

どんどん便利になる世の中だからこそ、料理をおいしくするために、ひと手間をかける人は、「おしゃれ」だと思う…。そう考え、「おしゃれなひとはだしをとる」という言葉をブランドのキャッチコピーにしました。

祖父の一言に刺激された、家業への誇り

木村さんが「おしゃれ」な見せ方にこだわり、もっと昆布の魅力を知ってもらいたいと考えるのは、自身が幼少期から、昆布の良さを体感してきたからです。

「ナナクラ昆布」の「ナナクラ」は、木村さんの曾祖父の名前・七蔵(しちぞう)さんから来ています。七蔵さんは、新ひだか町で昆布漁をしていて、さらに昆布の加工や商品化にも力を入れていました。その屋号が、「木村七蔵商店」。

その跡を祖父が継いでいて、木村さんにとって昆布は、幼いころから身近な存在でした。ただ、昆布漁は代々「男性の仕事」だったこともあり、木村さんは将来何をしたいか定まらないまま、教育大学に進んだといいます。

そんなとき、祖父は跡取りがいないために、家業は「自分の体が動かなくなったらやめる」と話しました。木村さんは実家を離れていても、「一次生産者の家に生まれた誇りみたいなものは常にあった」といいます。だからこそ、「祖父が築いてきたものを絶やしたくないなと思って、私なりの普及ができたらと思って店を開くことにしました。私の生きる道はこれかも!と思いましたね」と振り返ります。

大学卒業後は、起業の夢を持ちながら、まずは札幌で印刷会社に就職。人脈を広げながら、魅力の発信の仕方を学びました。

昆布ももっと身近に、暮らしに取り入れてもらうためには…。考えた末にたどりついたのが、「おしゃれ」という価値観です。

朗らかな笑顔を見せながら、気さくに話してくれる木村さん。その人柄と、もともと好きだったという料理の腕、起業を目指して身に着けた発信力…。札幌での日高昆布の「おしゃれ」な販売やお出汁講座は、木村さんだからこそできる、「じぶんらしい」家業の継ぎ方のように見えました。

おしゃれは簡単!面倒な下処理いらずの“だし”の取り方

だしを日々の暮らしに気軽に取り入れてほしいと、木村さんは、簡単なだしの取り方も考案しました。なんと、面倒な煮干しの下処理がいらないのです!

特別に、基本のだしの取り方を教えてもらいました。“だし”を取るときには「根昆布」がおすすめ。根元は、昆布の中でも、うま味がつまった部位です。

①根昆布(4枚)を直火で軽くあぶる

まずは、根昆布を直火であぶります。裏表、ほんの1~2秒あぶるだけで、「香ばしさが染み出て、濃いおいしいおだしになる」そう。

②水(2リットル)に①と煮干し(40グラム)を入れて一晩おく

ボトルに水を入れ、あぶった昆布と煮干しを入れます。このとき、煮干しの頭やはらわたを取る必要はありません!あとは一晩ほったらかし。

一晩おくと、昆布は大きくなり、水に色が染みだしています。

③水と昆布を鍋に(強火→沸騰直前で弱火)

一晩おいてうま味が染み出した水と、昆布を、鍋に投入。煮干しは入れません。煮干しを火にかけない方法ので、下処理が必要ないんです。

まずは強火に。ふつふつ泡が出てきたら、沸騰直前の合図なので、弱火にして5分から15分ほど待ちます。お好みの濃さによって時間を調節してほしいといいますが、30分以上火にかけると、えぐみが出てきてしまうので、注意が必要です。

これで、もう完成

ボトルに入れて冷蔵庫で保管しておくと、3日ほど使えるそうです。

ナナクラ昆布の「お出汁講座」では、さらにかつお節を加える方法も伝えていて、“だし”を取った後の昆布をさらに料理に活用する方法などの質問にも答えているそう。

火にかけていると、キッチンには、いい香りが漂っていました。木村さんの小学生の娘も、“だし”が大好きで、香りにつられて「今だし取ってるね!」と駆け寄ってくるそう。

家庭でも、毎日の料理に“だし”をまわしかけているという木村さん。「子どもは舌が敏感なので、“だし”のおいしさが伝わりやすいのかもしれませんね。小さなころから繊細な味覚を身につけて、将来なにが健康にいいか悪いか、わかった上で食事を選べるようになってほしい」と話します。

肉汁に深みを増す… 「お出汁の蒸し焼きハンバーグ」

基本の“だし”はいろいろな料理に活用できます。そのときも、肩の力は抜いて大丈夫!木村さんの提唱する「おしゃれ」は、意識が高いというより、日々取り入れやすい簡単さが魅力です。

「いつも分量は決めずに作っているんですよね」と笑う木村さん。“だし”をまわしかけるだけで、グッとおいしくできるのだそう。

たとえば、いつものハンバーグも、“だし”で深みを増すことができます。

ハンバーグのタネを作るところまでは、いつもどおりで、焼くときに一工夫するだけ。両面に焼き色をつけたところで、“だし”の出番です。

冷蔵庫に保管していた、先ほどの“だし”を、ボトルから直接まわしかけます。分量は気にせず…見た目でだいたい、これくらい。

後はふたをして、蒸し焼きに。火が通ったら、ケチャップやソースもお好みの量で…。

教えてもらったレシピを後日試してみたのですが、まず“だし”をとっている時間から、いい香りに包まれて、「おしゃれ」な暮らしを実感。ハンバーグを蒸し焼きにすると、ふっくらした仕上がりになり、口に含むと肉汁と一緒に昆布のうま味が出てくるのを感じられました。その分、ソースの量はいつもより少なめにしてもおいしいので、塩分を控えめにしたい方にもおすすめです!

鶏挽肉とポン酢で和風にしたバージョンも作ってみたのですが、そちらもおいしかったです。好みの食材や味付けで試してみる課程も、いつもの料理に“だし”をまわしかけるだけなのに、変化をじっくり味わって楽しむことになるので、「おしゃれ」に丁寧に暮らしている気分になりました。

さらに、付け合わせのニンジンのグラッセも、“だし”を使ってレベルアップする方法を教えてもらいました。木村さんはもともとニンジンが嫌いだったそうですが、“だし”を使うことで、好きに変わったそう。「野菜嫌いのお子さんがいる家庭におすすめ」と話していました。
(お出汁のニンジングラッセのレシピは、SitakkeTVの記事でご紹介しています)

日高昆布を活用したレシピは、まだまだあるそう。今後Sitakkeで、木村さんが連載として伝えてくれることになりました!昆布で味がどう変わるのか、ぜひ一緒に試しながら、“おしゃ出汁女子”になってみませんか?

コロナ禍で客足が遠のいて…自分の人生を見つめなおして思ったこと

今は日高昆布のオンライン販売と、お出汁講座にしぼっている木村さんですが、3月までは札幌市中央区で実店舗を開き、“だし”を使った料理の提供もしていました。

市電のロープウェイ入口駅の目の前という立地のため、観光客にも人気でしたが、コロナ禍で客が激減。“だし”カレーを販売するなど打開策を実践してきましたが、次第に、「売り上げ」にしばられるようになっていったといいます。

「ある日ふと、自分のやりたかったことは何だっけと考えて、目指していたのは日高昆布の普及と、おだしのおいしさを伝えることだと、思い出したんです。コロナ禍で沈むうちに、忘れていたんですね。もう一度やりたかったことを思い出すために、オンライン販売と講座にしぼりました」

札幌に出て、起業した店を続けていくのは、厳しい道。それでも自分の原点を大切にする今の生き方を選んだことを、木村さんは「よかったなってすごい思います」と、断言します。

「若い頃は思い悩んだりするけど、今が自分でも一番好きな自分でいられているなと思います」

苦労したエピソードは多く語らず、いまだ続くコロナ禍でも、前を向こうとする木村さん。オンライン販売を海外の人も利用できるようにするのが、次の大きな目標です。

いま、生き方に悩んでいる女性へのメッセージを聞きました。

「私は、答えは自分の心の中にあって、それに従えるかが大事だと感じてきました。まわりの環境が難しいとか、それぞれいろいろあると思うけれど、自分の心の中の答えに耳を傾けて、それを信じて進んでいってほしいなと思います」

ナナクラ昆布
・昆布など商品は公式サイトでオンライン販売
・お出汁講座は、「ナナクラ昆布事務所」での対面、もしくはオンラインで開催。
 最新の詳細は公式サイトでご確認ください

ナナクラ昆布事務所
・札幌市中央区南19条西14丁目2−23 第6サイトウビル1F
・市電ロープウェイ入口駅の目の前
・メール:info@nanakura-kombu.com

女性の多様な生き方を紹介する連載「こう生きたっていい

文:Sitakke編集部IKU

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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