もうすぐ母の日。大人になってふと思い返せば、「しばらく親と会っていないな…」と思う方も多いかもしれません。親子の形もいろいろですが、感謝を伝える定番「フラワーギフト」を生み出す札幌のお店にも、親子の物語がありました。

フローリストの忠村香織(ただむら・かおり)さん、38歳。父親は世界的なフローリストで、その背中に小さな頃からあこがれていました。しかし大学に進み、視野が広がると、まったく違う仕事に就こうと思うようになったといいます。

それでも卒業後、父と同じ道を選んだ理由とは…。

「かわいいお花屋さん」ではない、父の背中にあこがれて

札幌市西区の「花たく」。

凛とした「みどり」と、清楚な「白」を大切にしたお店です。香織さんの父・雄幸(ゆうこう)さんが、30年ほど前に開きました。

雄幸さんは、陶芸家やガラス作家と組んだ展示会を行ったり、イタリアやドイツで講習会やデモンストレーションをしたり、国内外で活躍するフローリスト。

香織さんが小さい頃から、家には海外から来た仕事仲間が出入りしていました。「かわいいお花屋さん」のイメージとは違い、観客の前で花を生けるなど、芸術としてのかっこいい花の仕事を目にしてきた香織さん。父親の仕事にあこがれていたといいます。

店内はスチールの大きな机が中心にあり、職人の作業部屋のよう

高校生のとき、父親に「フローリストになりたい」と伝えました。しかし、まだ決めずに、大学へ行って視野を広げるように言われたといいます。

香織さんは、父親のように海外の花のデザインを学ぶためには外国語が必要だと考え、関西外国語大学に進みました。

初めての、花から離れた生活。フィンランドに留学もして、経営や経済を学ぶうちに、「株って面白いな」「商社もいいな」と、ビジネス分野への興味が広がり、「花の道には進まない」と思うようになりました。

しかし留学中、同じヨーロッパ内で、父親がフラワーデザインの仕事をする機会がありました。手伝いに行った香織さんは、久しぶりに花に触れます。その時間が、とても心地よかったそう。花を前にすると、時間があっという間に過ぎていくことに気づきました。

視野を広げた上で、「やっぱり花に触れていたい」と、自分の心からの「好き」を再実感した瞬間でした。

花だけに集中するのではなく、「空間全体」をデザインする

電動ドリルなど、大きな工具も使う

大学を卒業後、オーストリアやドイツでフラワーデザインの修業をした香織さん。花ひとつひとつのグラデーションを生かす色使いや、「空間装飾」を学んだそう。

ウェディングの装飾

帰国して「花たく」で働くようになってからは、ウェディング会場の飾りつけを多く経験。一生の思い出になる時間…新郎新婦それぞれのイメージや希望を形にし、空間をデザインする技術を積んできました。

舞台やイベントの装飾、他分野の作家と協力した展示も手掛けています。

香織さんの作品・舞台の装飾

ガラス作家や木工作家とコラボして作った作品

今では「花たく」の取締役を務め、10人ほどのフローリストと一緒に、フラワーギフトの制作やウェディング会場の装飾に取り組んでいます。

さらに2年前からは、ニセコ町のホテル「Park Hyatt Niseko Hanazono」の専属フローリストに選ばれました。週2回通って、ホテルの10か所以上を装飾。おもてなしの空間を演出しています。

香織さんの作品・ホテルの装飾

必要以上に飾らない、美しさ

仕事道具を見せてもらうと、茎や葉を整える、必需品のハサミには、「香織」の文字が。

フローリストになるときに、父親が贈ってくれたといいます。香織さんは、「刻まれた名前を見ると、いいなあって思いますね。もらったそのときは『サンキュー』くらいでしたけど」と笑います。

父・雄幸さんも、娘が同じ仕事を選んだことを「かわいそうだなあと思いますよ。経営のほうとかに興味を持っていたのに」と笑うなど、「親子の美談」は語りません。香織さんが大学を出てフローリストになると決意したときも、「そっか」くらいの反応だったそう。

花の魅力を言って聞かせるのではなく、視野を広げることを勧めた父と、ほかの選択肢を考えた上で、父の背中を追いかけた娘。お互いに特別さを語らないからこそ、2人が同じ空間で、それぞれ集中して花に触れる姿には、美しさを感じました。

「花たく」には、決まった商品はありません。フラワーギフトは、贈る相手のことを聞いてから、すべてオーダーメイドで作ります。そこに「空間装飾」の経験も、生かされているといいます。

誰に渡すかとか、どういう想いを伝えたいかとか、その人の奥行きを見るのはもしかしたら、空間の奥行きを見るところとリンクしているのかなと思いますね」

香織さんが作ってくれた花束には、父親が大切にしてきた「みどり」と「白」に、海外修行で学んだ、淡いグラデーションの色使いが…。

必要以上に飾らず、茎や葉を含めた植物本来の美しさを引き出しています。受け取った瞬間の感動だけでなく、時間をかけて、ひとつひとつの花びらをじっと見つめたくなるような花束です。

香織さんは、想いを聞き取る「準備」に時間をかけるといいます。どんな人に贈るのか、どんな想いを伝えたいのか…家に飾って楽しめるようにしたいなら、その人の家はどんなイメージなのか、その家の中で花を輝かせたいのか・なじませたいのか…。

手元だけに集中するのではなく、花を贈る人と贈られる人の「その後」を想像しながら作るそう。

「花を見たその瞬間はもちろん大切なんですけど、人生ってその後もどんどん続いていくので、花を贈ることでその方への『ありがとう』って気持ちがさらに増したり、花を見ることで心に何か感じるものがあったり…。そんなふうに、何かのきっかけになれたらな、と思います」

きっかけは父親が花に触れる姿だったけれど、それから視野を広げた上で、自分が好きで選んだ、花の道。快活な笑顔を見せる香織さんの元気の源が、花だそう。

家族や友人、仕事仲間…大切な人とのこれからを彩る「きっかけ」がほしいとき、想いを形にするために、花の力を借りてみるのはいかがでしょうか。

***
花たく
・札幌市西区西野2条7丁目5-16
フラワーギフトの注文は3日前までに。母の日用のフラワーギフトは、4月中には依頼を
・花たくについては、SitakkeTVでもご紹介しました

女性の生き方連載「こう生きたっていい
文:Sitakke編集部IKU

※掲載の情報は取材時点(2022年4月7日)の情報に基づきます。最新の情報は店舗にお問い合わせください。

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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