2021.12.25
深めるコロナ禍で減った海外との交流。でも、いまも「世界」と「北海道」とのつながりを持ち続けている人もいるんです。アフリカのケニアで、子どもたちと一緒にとびきりの笑顔を見せる、医師の女性を紹介します。
ことし8月、札幌で行われた平和の祭典・オリンピック。マラソンで男女ともに金メダルに輝いたのは、ケニアの選手でした。彼らのふるさとでは、障害のある子どもたちが十分な医療を受けられていません。
赤道直下の国、ケニア。日本の1.5倍ほどの広さに、およそ5000万人が暮らしています。
首都・ナイロビ郊外にある、「シロアムの園(その)」。障がいのある子どもの支援施設です。
脳性まひやダウン症、自閉症などの子どもたちが、リハビリや教育、カウンセリングを受けています。
今から6年前、この施設を立ち上げたのは、ひとりの日本人でした。
公文和子(くもん・かずこ)さん。北海道大学医学部を卒業後、道内各地で小児科医として働いたのち、2002年にケニアに渡りました。
公文さんによると、ケニアは制度が整っておらず、医療費がほぼ自己負担だといいます。「慢性的な疾患がある人はどうするのか」と思ったとき、実際に障がいのある子どもたちと知り合って、心を動かされました。
「大変な生活をしているにもかかわらず、子どもたちの表情、生きる力に惹かれて、この子たちと生きていきたいと思った」
日本に比べ、医療体制が整っていないケニア。赤ちゃんが死亡する割合は、日本の20倍です。
命が助かっても、医療が行き届かず、障害を負う赤ちゃんは珍しくないといいます。
さらに公文さんは、ケニアでは伝統的な考え方によって、障がいのある子どもが「隠される」と話します。
「『誰かが悪いことをしたから一族にこういう子どもが生まれた』という考え方。『呪い』と言われることもある。家の中に隠されることが多く、隠されてしまうと世の中に知られないので、さらに差別や偏見がひどくなる」
社会から隠されてきた子どもたち。公文さんたちとの出会いで、その表情が輝き始めました。
ケニアで暮らす、ジョセフくん・11歳。
生まれつき下半身にまひがあり、週に1回、「シロアムの園」に通っています。
ケニアでの「リハビリ」は、作業療法士が関節を強く押すなど、痛みを伴うものが一般的だといいます。
しかし「シロアムの園」では、子どもと作業療法士がコミュニケーションをとりながら、その子どもに応じたリハビリが行われています。
公文さんは、「その子どもに必要なことをいろんな形で答えていきたいというコンセプト。その子を取り巻く問題もいろいろある。みんなで話し合いながら考えていく」と話します。
「シロアムの園」は、医療だけでなく、教育や精神面、経済面でも、子どもたちと家族の問題解決を目指しています。
例えば、施設に寄付された古着を、家族が近所の人などに販売する「古着ビジネス」。利益の半分を施設での医療費などにあて、もう半分は家族の生活費にあてます。
ジョセフ君を育てる祖母も、このビジネスに参加しています。
ジョセフくんの祖母は、「以前はジョセフを連れて出歩くことに抵抗がありましたが、『シロアムの園』に通うようになってからは、他の人と交流することにも前向きになれました。将来的にジョセフが自立して生活できるようになることを望んでいます」と話しています。
将来の夢を尋ねられたジョセフくんは、「パイロット。パイロットは飛行機を飛ばすんだ」と笑顔を見せました。
シロアムの園には、ジョセフくんを含めて50人ほどが定期的に通っていて、さらに60人を超える子どもたちが、登録を待っています。
新型コロナウイルスの感染拡大で、世界の多くの人が困難な状況にある今、公文さんが
ケニアの子どもたちの支援を続けているのは、なぜなのでしょうか。
「仕事の中でも困難があるが、これもだめだ、あれもだめだと思っているときに、子どもたちと接しているとそれを忘れさせてくれる、ふふって笑うようなことがいっぱいある。共生社会のひとつだと思うが、外側に目を向けること、人のために何かをすることで、自分の痛みが癒やされているプロセスがあると思う」
実際にケニアに渡り、直接子どもたちに向き合っている公文さん。さらに、日本にいながらも、その「共生社会」の実現を支えている人たちもいます。そのうちのひとつが、札幌のNPO法人「シロアムの友の会」です。 シロアムの園の活動を伝えるオンラインイベントを企画したり、寄付を募ったりしています。
東京オリンピック・パラリンピックで掲げられた「共生社会の実現」という理念。
ケニアで障害のある子どもたちと生きている公文さんは、「あなたがいてくれてよかった」と互いに思える社会の実現を目指しています。
撮影協力:千葉康由さん
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU
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