2021.12.31

ゆるむ

“日本一のお母さんホッキョクグマ”を支えた、“お父さん”の「かけ引き」とは?【円山動物園さんぽ】

札幌市円山動物園は、ことし70周年を迎えました!これを記念したSitakkeの連載、「円山動物園さんぽ」。

長く愛されてきた背景には、一度だけでは味わい尽くせない、見どころの多さがあります。「さんぽ」するように気軽に通うことで見つけられる、動物たちの深~い魅力をお伝えしていきます。

きょうご紹介するのは、“ふかふか”な毛に包まれた大きな体が魅力的な「ホッキョクグマ」。円山動物園では、現在3頭のホッキョクグマを飼育していますが、その中に、「ホッキョクグマの明日に一つの光を見せている」とも評された、“日本一のお母さん”がいるんです。

その影には、“お父さん”と動物園職員たちの、努力と工夫がありました。

寒さに強い、“ふかふか”の秘密

7歳になった「リラ」(2021年12月21日撮影)

ホッキョクグマは、クマ類の中で最大級で、おとなのオスでは大きいものだと体重800キロ・体長2.5メートルほどにも達します。

気温がマイナス40度ほどの、さむ~い北極圏で暮らしているため、大きな体には寒さに強い秘密が詰まっています。全身を覆う毛は、長さ5センチほどのきめ細かい下毛と、15センチほどの長い保護毛の2層になっていて、温かい空気の層が保たれます。

同居していたころの「リラ」と「ララ」(撮影:円山動物園)

円山動物園でも、真冬、水温が5度から8度ほどに下がったプールで元気に泳ぐ姿が見られます。動物専門員の鳥居佳子(とりい・よしこ)さんによると、プールから上がった後、一度ぶるぶるっと体を震わせるだけで、ほとんどの水分が飛ばせるそう。それも密な下毛が体温を守り、水分を表面にとどまらせているおかげです。

動物専門員・鳥居佳子さん

毛を触った感触は、「ふかふか」だそう。でも、肉球は固め。表面はボコボコとしていて、指のすき間や足裏にびっしりと毛が生えています。これも、氷の上でもすべらないための工夫です。

「デナリ」の足の裏(撮影:円山動物園)

ヒグマとホッキョクグマ…離れていても似ている生き方

鳥居さんは、大学院でヒグマの研究をしていました。山で暮らすヒグマと、海で暮らすホッキョクグマ。「生きる場所は違うのに、生き残るのに必要な戦略は似ている」ところが面白いといいます。

ヒグマとホッキョクグマ・・・ポーズまで同じで出迎えてくれました(2021年12月21日撮影)

たとえば繁殖の仕方。ヒグマもホッキョクグマも、春に交尾をしますが、すぐに着床はせず、じっと小さな命をお腹の中に守り続けて、冬に出産します。なので、生まれたばかりの子どもはお母さんの口よりも小さいくらいで、体重も500グラムほどしかありません。でも、3か月もすれば体長75センチ、体重17キロほどに…ぐんぐん大きくなります。

母親「ララ」と生後3か月ほどの「ピリカ」(撮影:円山動物園)

出産後、春まで飲まず食わずで育児に集中するのも、子どもは2年ほどで独り立ちするのも、ヒグマとホッキョクグマに共通しています。

暮らす場所は離れていても、同じクマ類として生き方は似ている…動物の神秘のひとつです。

“日本一のお母さんホッキョクグマ”

一頭一頭が無事に生まれ、育つというのも、神秘であり奇跡的なこと。ホッキョクグマは、野生でも絶滅の危機にさらされていますが、動物園の飼育下でも、全国的に繁殖が難しいとされてきました。オスとメスの相性が合わなかったり、メスが環境によるストレスから子どもを育てられなかったりすることが多いのです。

「ララ」とじゃれあう「ツヨシ」(撮影:円山動物園)

その流れを変えたのが、円山動物園の「ララ」です。ララも、最初は子どもを亡くす経験を繰り返しましたが、2003年に出産した「ツヨシ」は元気に育ちました。その後は2005年に「ピリカ」、2008年に「イコロ」と「キロル」、2010年に「アイラ」を元気に産み育てます。

「ピリカ」と、見つめあう「ララ」(撮影:円山動物園)

「ララ」はその偉業を称えられ、2011年には「日本動物大賞・功労動物賞」を受賞。審査委員会からは、「いま不透明なホッキョクグマの明日に一つの光を見せていることに注目したい」と評価されました。

「ララ」と、双子の「ポロロ」と「マルル」(撮影:円山動物園)

その後も2012年に「ポロロ」と「マルル」、2014年に「リラ」を出産。全8頭を元気に育てたのは国内単独トップの記録で、いわば“日本一のお母さんホッキョクグマ”です。

「ララ」と甘える「ツヨシ」(撮影:円山動物園)

“お父さん”もすごかった

なぜ、ララは難しいと言われてきた出産・子育てを立派に成し遂げられたのか。ララの性格が子育てに向いていたというのもあるそうですが、8頭の子どもの“お父さん”である、「デナリ」の功績も大きいといいます。

「デナリ」(撮影:円山動物園)

人を常に観察しているララと比べて、デナリは警戒心が少なく、新しくウッドチップを敷くなど環境を変えるとすぐに無邪気に遊ぶような、親しみやすい性格。鳥居さんは「“かけ引き”が上手いというか…デナリがいいオスなんだと思います。メスに対して強すぎても、メスが委縮してしまうし、反対にひ弱すぎても、交尾を拒否されてしまいます。子どもができたのは、デナリがララとうまく仲良くできたことが大きな要因」と話します。

「ララ」と「デナリ」(撮影:円山動物園)

子どもを宿したララを支えたのは、円山動物園の環境づくりです。野生のホッキョクグマは、ほら穴にこもって出産・子育てをします。その環境に近づけようと、円山動物園では暗くて周囲の音が聞こえない「産室」を作りました。

室内の様子はカメラで見守る(撮影:円山動物園)

鳥居さんは「安心して子どもを産み育てる環境づくりが大切。ララが産室に入ってからは出産・子育てに集中してもらうため、職員も含めて出入りを最小限に制限し、来園者にも動物舎の近くに近づかないよう協力してもらった」といいます。
その環境づくりの工夫は、ララとデナリをきっかけに全国に広められました。子どもたちは、ほとんどが全国の動物園に旅立ち、円山動物園にはララとデナリ、末っ子の「リラ」が暮らしています。

「ララ」と生後4か月ほどの「リラ」(撮影:円山動物園)

2021年12月21日で7歳になったリラ。いまは独り立ちして、母親のララとは別々のスペースで暮らしていますが、マイペースなところは、ララにそっくりだといいます。

ドラム缶をトス!上まで運ぼうとがんばる「リラ」(2021年12月21日撮影)

冬はより元気に真っ白に

これから雪が積もると、動きも活発になるホッキョクグマ。夏に黄色みがかった毛も、雪にこすりつけるうちに真っ白になります。

雪を食べる「リラ」(2021年12月21日撮影)

しかし、鳥居さんは「ことしは雪が遅いですよね」と指摘します。「それも地球温暖化の影響かもしれません。野生のホッキョクグマを危機にさらす環境の変化も考えながら、ララたちを見てほしい」

ホッキョクグマの寿命は20~30年、出産できるのは20歳ごろまでと言われています。ララが末っ子のリラを産んだのは20歳のときで、いまは27歳になりました。

同居していたころの「リラ」と「ララ」(撮影:円山動物園)

繁殖の難しさに悩む全国の動物園に、ララとデナリが届けた「ホッキョクグマの明日への光」。私たちも、野生のホッキョクグマが安心して子どもを産み育てていく環境を守るために、できることを考えてみませんか。

同居していたころの「リラ」と「ララ」(撮影:円山動物園)

円山動物園は、2022年は1月1日から営業する予定です。

チラッ・・・とのぞく「リラ」(2021年12月21日撮影)

過去記事一覧: 円山動物園さんぽ
文:Sitakke編集部IKU

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Sitakke編集部

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