2021.11.25

育む

「コロナ禍でも自分たちができることは何だろう?」高校生が作った絵本に込められた想い

子どもだけでなく大人も楽しめる絵本を、絵本セラピスト協会認定「大人に絵本ひろめ隊員」であるHBCアナウンサーの堰八紗也佳(せきはち さやか)がご紹介します。

今回は、札幌市中心部にある市立札幌大通高等学校の生徒たちが企画・制作したオリジナル絵本をご紹介します。現役の高校生たちが今伝えたい想いとは……。

高校生たちが、絵本を通して伝えたい想いとは?

市立札幌大通高校は、平成20年に開校した定時制普通科高校。単位制を導入しており、生徒それぞれが自分の興味や関心に応じた授業を選択することができます。

平成24年からは『ミツバチプロジェクト』をスタートし、校舎内でおよそ10万匹のミツバチを飼育。養蜂からハチミツ販売までを手掛けています。家庭科や理科など、さまざまな授業でミツバチを教材として活用。例えば商業科の「総合実践」という授業では、ハチミツの商品開発や販売を担っています。

大通高校のハチミツは、その年の最も美味しいハチミツを決めるコンテスト『第4回ハニー・オブ・ザ・イヤー』で最優秀賞を授与されたこともあるほどの本格派。毎年『さっぽろオータムフェスト』で販売し、大人気商品となっていました。ところが新型コロナウイルスの影響で2年連続イベントが中止となり、販売実習の機会がなくなってしまいます…。

生徒たちは、「コロナ禍でも自分たちができることは何か」と話し合い、ミツバチプロジェクトをモチーフにした絵本を作ることで多くの人に活動を知ってもらおうと考えました。

こうして立ち上がったのが「大通高校絵本プロジェクト」です。
絵本の制作にあたっては、札幌を拠点に活動する絵本画家「太陽と牛」さんに協力を依頼。さらに製本や印刷には資金が必要なため、クラウドファンディングで支援を呼び掛けてきました。

知っているようで知らないミツバチの世界

(左:堰八紗也佳 右:絵本画家の「太陽と牛」さん)

「太陽と牛」さんご本人に、絵本『いただきます』の制作秘話を伺ってきました。

「1匹のミツバチが、生涯で集められる蜜の量は、ティースプーン1杯分。」

大通高校との絵本製作の取り組みに関わるようになって、初めてミツバチの生態を学んだ「太陽と牛」さんは、この事実に衝撃を受けたといいます。

絵本のタイトル『いただきます』には、「ありがたみを感じて食べてもらいたい」という願いが込められています。絵本を開くと、ミツバチプロジェクトの工程が順番に描かれています。巣箱を作るところから始まり、ハチのことを勉強して、実際に養蜂・商品化・販売するまでの一連の流れがわかるようになっています。

マスクでお互いの表情が見えにくいなか高校生とコミュニケーションをとることは難しさもありましたが、じっくりと対話を重ね、1年以上かけて完成しました。

「太陽と牛」さんの絵本は、色鉛筆を使って描くことと、登場人物が出てこないことが特徴。あえて登場人物を出さないことにより、読む人によって様々な捉え方ができる多様性のあるものになると言います。

大通高校には、過去にいじめや不登校を経験した生徒も多く通っています。それがきっかけで内気な性格になっていき、自分の意見を言うことが怖くなってしまった生徒も……。そこで、生徒ひとりひとりに真っ白な本を手渡して、それぞれが伝えたいことを描いてもらうことにしました。そして、全体のストーリーとは別に、生徒たちから出してもらったアイデアを“全て”絵本に取り入れるため、ハチの巣の穴ひとつひとつに詰め込むことにしたのです。

ページ全体にハチの巣の穴が何十個も広がっていますが、よく見るとその六角形ひとつひとつの中で、生徒それぞれが考えた物語が展開されています。

例えば、ある生徒は、「自我」がテーマ。

乗り物の中でマナーの悪いオトナを見て、「自我は大事だけれど、出すぎると良くない」と感じたことを伝えるため、芽が成長しすぎて樽まで突き破ってしまった様子が描かれています。どれも生徒の原画をもとに、「太陽と牛」さんが完成させたものです。

文章に隠された秘密

文と文のあいだには不自然なスペースが空いています。実は左側が「人間目線」、右側が「ハチ目線」の文になっているのです。例えば「いただきます」や「ごちそうさま」は人間目線。「めしあがれ」や「おそまつさま」はハチ目線。

一般的には「ハチは、ハチミツを人間に奪われている」ということになりますが、もし、「ハチたちは人間にハチミツを奪われることをわかっていて、人間が食べているパンに合うようなハチミツをこっそり作ってくれている」という考えにしたら、そのことを知った人間は今よりもっと食べ物を大事にするのではないか……という発想から生まれた文章です。

それは「無償の愛」がテーマということでもあり、ハチと人間にとどまらず、親子愛や友情に置き換えて読むこともできます。そのため、この絵本の最後の一文は「ありがとう 産まれてきてくれて」なのです。

この絵本には、まだまだ伝えきれないほどの“仕掛け”があります。みなさんも、ご自身の目で探してみてくださいね。

高校生と作家のこれから

「太陽と牛」さんは、画家になりたいという夢を幼いころに諦めていました。
周りの大人たちから「絵では食べていけない。本当に好きなことは、仕事ではなく趣味としてやるものだ。」と言われてきたからです。その意見を受け入れ、一度は飲食業界に就職しました。一方で障害のある子どもたちの助けになりたいという思いを持っていたため、仕事のかたわら児童発達デイサービスでボランティア活動も行っていました。

あるとき障害児と一緒に絵を描いていたところ、保育士さんから「こんなふうに、ひとつのことに集中している姿を見たのは初めてです。」と言われたことをきっかけに、「絵を通して、障害のある子の助けになることができるかもしれない」と気付き、独学で絵本画家として活動を始めました。そのため、「やりたいことを、自分の好きなことで叶えることができる」と身をもって証明することで、多くの子どもたちに生きていく希望をあげたいと考えています。

さて、クラウドファンディングはというと、無事に目標の100万円を達成! 11月中旬に大通高校を訪問したところ、生徒たちは300冊以上の絵本を梱包作業中でした。作業が終わり次第、支援してくださった人にリターンとして届けられます。

大通高校絵本プロジェクトの生徒たちは、完成した絵本を携えて、すでに幼稚園や小学校で読み聞かせ活動を始めています。読み聞かせ活動をとおして、「自分と相手の捉え方は違う」ということ、「ひとりではできないことも友だちや周りの人と一緒にやればできる」ということを伝えていきたいと、目を輝かせながら話してくれました。

絵本は来年の「さっぽろオータムフェスト」で一般販売する予定です。
これからの未来を担う若者たちの、頼もしい姿が見えた一冊をご紹介しました。

プロジェクトメンバー(左:高原汐音さん 右:宮内瑠璃さん)

【取材協力】
市立札幌大通高等学校
札幌市中央区北2条西11丁目
平成20年4月に開校した午前部・午後部・夜間部からなる定時制単位制普通科高校。

絵本画家 太陽と牛
1989年 釧路市出身
幼い頃に諦めた画家の夢を叶えるべく独学で絵を始め、児童発達デイサービスなど子ども達と関わるボランティア経験をきっかけに2019年より絵本画家として活動を開始。色鉛筆を使って描かれた絵と、読む人によって様々な捉え方ができる絵本を特徴としている。

【参考】
『いただきます』
2021年7月 初版発行
作・絵:太陽と牛 発行者:大通高校ミツバチプロジェクト

「連載コラム・今月の絵本通信」
文|HBCアナウンサー 堰八紗也佳
HBCラジオ 『アフタービート』では絵本セラピスト協会が認定する「大人に絵本ひろめ隊」の隊員でもあるHBCアナウンサーの堰八紗也佳(せきはち・さやか)が、毎月最終木曜日の放送で絵本の情報をお届けしています。ぜひラジオもお聴きください。
Instagramも更新中! @hbc_sekihachisayaka

Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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