2021.10.28

出かける

書店なのに「玄関に座ってソフトクリームを食べていい」?! 読書家も、旅人も、家を失った人も集う、余白たっぷりの居場所【札幌】

「玄関前に座って、ソフトクリームを食べてもいい。庭でコーヒーを飲んでもいいし、待ち合わせ場所に使ってもいい。もちろん、本を買ってくれると嬉しいんだけど…笑」

そんな自由な「書店」が、今月30日、札幌に誕生します。

札幌の地下鉄南北線・北18条駅を出るとすぐに目に飛び込む、独特な壁画。この建物の裏、動物が描かれたシャッターの横に隠れた古民家が、書店に生まれ変わります。

工事が着々と進む店内。ずらりと並ぶピカピカの本棚には、およそ4000冊を収納できます。

もちろん店が選び抜いた本も置きますが、特徴的なのは、書店の一角で行う「棚オーナー制度」。月額で棚を借りた人が、好きな本を好きな値段で売る試みをします。

「棚オーダー制度」の本棚、全20枠。代表の神さん

いろいろな人の考えに触れたり、じぶんを表現したり、お客さんにとって「関わりの余白」があるコーナーです。ひとつの書店の中で、たくさんの書店に出会えるような感覚で楽しめそう!

すでに、道東のクリエイター団体や、地元のカフェの参加が決まっているそうです。しかし、代表の神輝哉(じん・てるや)さんに「カフェが作る本棚って…何を置くんですか?」と尋ねると、「あー、何やるんでしょうねえ」と、のんびりした答え。

「本も置いてもらうけど、ショップカードを置いてもいいし、何か作品も置いてもいいし、自由に表現できる場として使ってもらえたらいい」

さらに、カウンターにはソフトクリームサーバーも置いて、コーヒーも淹れて、自家製の焼き菓子も置く予定。

なんとも自由な本屋…。そのコンセプトの背景には、神さんが7年前から続けてきた、ホステルでの経験があります。書店になる古民家と、独特の壁画の建物は、もともと神さんが経営してきたホステルなんです。

名前はUNTAPPED HOSTEL(アンタップト ホステル)。UNTAPPEDとは「未開発の、まだ見つかっていない」という意味で、北海道が秘めている魅力や、旅人に宿る可能性をイメージして名付けたそう。

旅人を受け入れるだけでなく、地元の人を巻き込んだミニコンサートや結婚パーティーを開き、いろいろな人の接点が生まれる場所として、7年間愛されてきました。

提供:UNTAPPED HOSTEL

しかし去年から、コロナ禍で客足が9割減少。まったく先が見通せない不安の中で、神さんの目はあるニュースに止まりました。

「都内ではネットカフェ難民が急増している」

ネットカフェは、日雇い労働者や、帰る家のない人にとって、仮住まいの場所とされてきました。しかし、緊急事態宣言を受け、ネットカフェは24時間営業ができなくなり、居場所のない人が増加していたのです。

そのとき神さんは、「古民家を、居場所として使ってもらえないか?」と考えました。すぐに、「JOIN」という札幌のホームレス支援センターと協力し、3食付きのシェルターを始めました。

提供:UNTAPPED HOSTEL

さらに、無料のヘアカットや炊き出しも行い、ホームレスだけでなく、コロナ禍で生活に困っている学生など、およそ150人との接点を作り出しました。

でも…自分が大変なときに、なぜ「人のためのこと」を実行したのでしょうか。

「ぼく自身も説明しにくいんですよね。貧困って、育った環境や社会の状況で、たまたまなることで、自己責任だけじゃないから、できることがあるなら、やったほうがいいと思っただけ

しかし、家を失った人を受け入れるためには、多くのコストがかかります。この取り組みを続けるために、収入を得る仕組みも作らなくてはいけない…。

そこでたどりついたのが書店でした。

書店のカウンター横にあるドア。この先につながる2階が、シェルターになっています。ただ、シェルターにいる人と、書店に来る人を店側がつなぎ合わせたり、「人のために」と強調したりはしません。

「ただ本が好きで来てくれる人も歓迎。本に興味がないけどシェルターに興味を持って、誰かの役に立つならと来てくれる人も歓迎。書店は書店としての魅力を作っていくので、気軽に来てほしい」

本を買っても良し、本を売っても良し、カフェのように使っても良し、福祉に関わるきっかけにしても良し。まだまだ余白たっぷりのこの場所は、訪れる人たちによって、これから創られていきます。

書店の名前は、「Seesaw Books(シーソーブックス)」と名付けました。公園にある遊具のシーソーです。

シーソーの上下運動で視界が変わるように、この書店で視界が広がり、喜びを感じてほしいという想いを込めました。

さらに、シーソーは片側の力が、直接もう一方に影響する遊具です。シェルターと書店の交わるこの場所から、関わる双方に、前向きな力を送りたいと意気込んでいます。

「ぼくにとっては、転んでいるおばあちゃんがいたら、手を差し出すみたいなこと。ぼくにはたまたま、空いた宿があって、手を差し出す以上のことができただけ。いろんな人が、自分ができる範囲のことをやって、少しずつ輪になったら、もう少しいい社会になるのかな

書店のオープンは、今月30日、午前9時からです。実際、どんな本が並ぶのか?こだわりのソフトクリームとはどんな味なのか?…また後日、お伝えします。

***
Seesaw Books
札幌市北区北18条西4丁目1-8 UNTAPPED HOSTELの裏
営業時間:午前9時~午後8時
定休日:水曜日

文:Sitakke編集部 IKU
撮影:Sitakke編集部 MARO

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Sitakke編集部

Sitakke編集部やパートナークリエイターによる独自記事をお届け。日常生活のお役立ち情報から、ホッと一息つきたいときのコラム記事など、北海道の女性の暮らしにそっと寄り添う情報をお届けできたらと思っています。

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