「好きが高じて○○を始めた」という慣用句があるが、このふたりの場合その○○に該当する内容のスケールが少々大きく、最初耳にしたときは真偽を疑ったほどだ。
市内山の手で美容室『アートレス』を経営する美容師の鶴見健治・ゆかり夫妻は、ワイン好きが高じて昨年農作地を取得し、自分たちの手でワイン用のブドウ栽培を始めた。つまり現役の美容師でありながら、農家になったということだ。
きっかけは、ゆかりさんの実家の食卓での慣習だ。「うちの実家は、その食事に合わせたワインを飲んだり、飲みたいワインに合わせて料理をつくったりするのが当たり前の食卓で。おかげで大のワイン好きになってしまいました(笑)」(ゆかりさん)
その後、健治さんと出会って結婚し一緒に生活するようになってからも、彼女は実家でそうであったように、夕食の準備の際は料理とワインの組合せを考え抜くのが当たり前になった。すると...
「それまでワインをそんなに飲まなかった夫が、私を飛び越えてワイン党になってしまって。ある日、夫がフランスワインの産地で有名なブルゴーニュ地方の土について特集が組まれた専門誌を読んでいるのを見つけたとき、『あれ...そこまでいっちゃって大丈夫かな』と思いました(笑)」(ゆかりさん)
なにかに興味を持ち、凝り始めたらとことん凝るのが男子の性分。健治さんがやがてワイン用のブドウを育む土や栽培に関する勉強を始め、数年経ったある日ついに「ブドウを栽培したい」と胸の内を打ち明けた。
「僕は特にブルゴーニュワインが大好きになって、その魅力を知っていくうちに『もっとおいしいものを飲みたい』ではなく『いっそ自分でつくりたい』になったんです。もちろん、ここ数年で道南がワインの栽培地として世界から注目を集めている背景も影響しています。ワインの栽培と醸造についてはプロ中のプロである専門家や企業が函館を選んでいるのだから、これはきっと間違いないという確信もありましたし。なによりも人生一度きりなので、やりたいことをとことんやってみようと」(健治さん)
めざすは自分たちで育てて収穫したブドウを醸造すること。さらにその先の夢であるワイナリー設立に向かって、ふたりの挑戦は始まった。
日々の美容室の経営と並行して、オフの時間は函館市内のワイン用ブドウ農家のもとに足繁く通って栽培方法を学び、北海道庁主催による北海道ワインアカデミーで1年間のカリキュラムを履修するために毎月札幌まで通った。
その間、数年がかりで土地を探して桔梗町の農作地を取得し、北海道大学の専門家に協力を仰いで土壌調査をし、新規就農にあたり自身の生産力を示すために野菜の栽培をはじめ、トマトやジャガイモなどを出荷した。
こうして自分たちの「好き」と「挑戦」のために、時間と体力を惜しみなく注いで昨年ついに栽培を開始。初夏に行われた植樹祭には多くの友人、知人、美容室の客が集まり、全員で記念すべき最初の苗を植えた。
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