その厳しさゆえ、一瞬でも父と息子の関係で接すると喧嘩になってしまうため、信さんは「自分はこの人の息子ではない」と毎日言い聞かせるのに必死だった。「修業を始めてから10年間、一度も褒められたことはなかった。でもある日、僕がつくった菓子を食べて一言だけ褒めてくれた。10年経って初めてのことでした。その晩は嬉しくて、正直泣きましたね」
こうして父から息子へと継承された技術と味。特に代名詞である上生菓子(練りきり)は、店の顔であり名刺代わりの品である。それもそのはず、『きのした菓子舗』の上生菓子はとにかく大きいのだ。季節の上生菓子というのは、通常5cmほどで指でつまめるサイズ。もちろんそのサイズのものもつくっているのだが、圧倒的に注文が多いのがその倍の直径10cmを誇る手の平大の上生菓子。これほど大きな練りきりを見る機会は、少なくても函館ではないに等しい。
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